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第八話父と娘、愛の死闘
16.譲れない思い
しおりを挟む傷だらけで全身に痛みを感じながらも立ち上がるエステル。
「何故だ…これ以上戦う意味がどこにある!」
「解らないのは貴方です!」
キッと睨みつけるエステル。
最愛の父は聡明であるのにどうして解らないのか。
「クロード様の心をお守りすることと、私が不幸になることは別です!」
「同じだ!君が貴族派の敵と見なされ排除されるんだぞ!」
激しい言葉と剣がぶつかり合う。
「君は解っていない!貴族同士の駆け引きも、彼等の恐ろしさを!」
「なら、そんな恐ろしい場所にクロード様を放り込むのですか!お父様は何時からそんな軟弱な男になったのです!」
「なっ…!」
二人の魔力と剣がぶつかりながら双方揺らがなかったが一瞬だけロバートの魔力が弱まる。
魔力の強さは術者の精神力、心の強さだった。
「王宮は砂の城…管理しようとしたらこちらが足元を掬われます」
「解っているさ!」
「私がクロード様と結ばれてその悪意が私に来るのは解ります。でも、だから何だと言うのです!」
王族派の貴族である以上、貴族派から睨まれるのは確実だった。
ならば、猶のこと王族派貴族を代表するアルスター家が矢面に立ち王族を守るのは当然だった。
「男が剣や槍で戦う様に女には女の戦いがあります。お母様もずっと戦ってきたはずです!」
「ヴィオラとは立場が違うんだぞ」
「変わりません。我らは王族の最後の守りて!貴族達が反旗を翻しても最後の守りとならなくてはなりません!」
王族を守る貴族としての思い。
そして最愛の人を守りたいと言う思い。
「私を人間にしてくれたあの方を…私に心をくださったあの方を私は守りたい…私が生きる理由ができたんです!」
ずっとエステルには人が誰もが持っている欲が欠けていた。
誰かに愛されたいと言う思いと、同じぐらい他人を愛したいと言う思い。
欲望とは限りがないが同時に生きとし生けるものは欲があるからこそ強くなることもできる。
「私はもう二度と人形には戻りません…ただ命令されるだけの人形に!」
「エステル…!!」
血だらけでフラフラなのに、何処にそんな力があるのか。
エステルを突き動すのは何なのかロバートには解らず、動揺が走る。
「どうして私を信じてくださらないのですか!」
「何…?」
迷いが生じたロバートの刃は弱まり魔法剣の威力が消えていく。
魔力を持つ者が武器に魔力を込める時に必要なのは術者の強い心だった。
心が迷えば魔力は弱くなり、本来の力を発揮できなくなる。
今のロバートは迷いにより魔力が途切れてしまっている。
(くっ…しまった!)
魔法剣は諸刃の刃。
威力は強いが体力の所望が激しく、何度も使えば倒れる恐れがある。
しかももう一度魔力を込めるのに時間が必要になる。
あげくに、精神が揺れている状態では魔法剣にすることは叶わないのだった。
「私は…そんなに弱い人間なのですか」
「エステル!何故解らない…君が殿下と一緒になれば二人共傷つくのは明らかだ!」
力で抑え込めながらもロバートは訴える。
ここで負けてはけない。
何のために心を鬼にしてエステルを傷つけたのか。
全てはエステルを守る為だったのに、無駄になってしまう。
「じゃあ!お父様は私がこの先傷つかない保証があると言うのですか…そんな未来まっぴらです!」
「何故だ…」
「未来を怖がり、傷つくのを恐れるのは騎士道ですか!」
エステルの言葉一つ、一つに重みがあり、ロバートは動揺する。
全てが正論で、エステルの言っていることは間違いではないからだった。
解っていても、父親として娘には安全な場所でいて欲しい。
そしてクロードに対してもそうだった。
王族に忠誠を誓う貴族として、クロードの安全を守るのもロバートの役目だった。
エステルとクロードは結ばれたとしても、この先二人は命を狙われ、危険な目に合うのは明らかだった。
「エステル…私は!」
「私は生きて殿下をお守りします。戦って、戦って…戦い抜きます!」
例えこの先向かうのがし地であったとしても、命ある限り戦い抜くことを覚悟していた。
「これが私の天命です!」
「天命…」
かつて平民の少女が剣を取り平和の為に戦う道を選んだように、エステルも貴族の令嬢ではなく騎士として戦う道をんだ。
生きることは戦うこと。
その意味を身を持って知ったエステルは祈った時だった。
エステルの剣に強い光が放たれた。
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