6 / 67
一章 〜浄化の聖女×消滅の魔女〜
孤軍奮闘×下剋上の誓い
しおりを挟む
呆気ないほど難なく辿り着いたのは自室――ではなく、公にされていない方の自室。
入り組んだ奥の奥にある、本当に一部の人間しか知らぬ場所。
扉の周囲に警護兵の姿は無く、代わりにアルルにとって見知った顔が一人佇んでいた。
執事のバグロス。不治と謳われる病魔に侵されていた所をアルルに発見され、それを祓われて以降、忠義を尽くしている男である。
裏の手引きに長けており、聖女の存在を良く思わない貴族連中を度々遠ざけ、ゼロとは行かないもののその数を減らしてきたという実績を持つ。
感覚さえ研ぎ澄ませていれば熟練の暗殺者や上位魔物の感知など容易いアルルではあるが、それを持続させるのは精々一回の精神集中につき三時間程度が限界である。
常日頃から心労を抱えるアルルにとっては尚更酷な話であった。
アルルが数多の暗殺者の手に掛からなかったのはバグロスの存在が大きい。
とは言え、例え毒の刃で首筋を軽く切られようとも黙って死ぬことすら出来ないのがアルルという少女。
首から血を噴射させながら、尚も短剣を握る少女に返り討ちに合った哀れな熟練の暗殺者が存在する。
アルルがその後、生死の境を彷徨ったのは言うまでも無いが、自分の死よりもバグロスの切腹を止める方に苦労したという。
「――! ……こちらに」
一瞬ハッとした様子のバグロスだったが、すぐさま取り繕うとアルルを部屋に迎え入れた。
「お嬢様、お出向かい先はいずこで御座いましょうか。……このような事をお伺いするのは不躾で御座いましょうか」
(待って待って! その前にこれ解いて!)
困り顔を浮かべながら右手で口元を指すアルル。
「不徳、申し訳御座いません。只今」
見事な手際で口封じの刻印を解除するバグロス。
かつて敏腕執事としてとある主に仕えていたと噂の立つバグロスだが、その口から具体的な顛末をアルルに打ち明けた事は無い。
噂に違わずその実力は確かであり、大抵の事は任せてしまえば解決してくれるだろうという大きな信頼感をアルルは持っている。
そして今回もその例には漏れず。
「帰らずの森に行こうかなって。安心して、死ぬつもりなんてこれっぽっちもないから。帰らずは覆らないだろうけどね」
その名の通り、一度踏み込んだ者は決して帰らぬと人々から恐れられているその森。
その実、ただそこそこ強い魔物が生息しているだけの森に過ぎない。
あとは少しばかり昏く、深いだけ。
大抵の人間にとっては、その"だけ"が死因となり得るのだが。
「左様、で御座いますか。裏に馬車を用意させております」
全てを捨てゼロからやり直そうと決意する一人の少女の姿に、バグロスは改めて心酔した。
それでこそ我が主に相応しい、と。
バグロスはアルルがこうして脱獄を図り、この場所を訪れ、逃走を企てるだろう事も当然予期していた。
とは言え、全く心配するなというのも土台無理な話で、アルルの姿を見るが否や動揺を露にしたのも無理はない。
「色々ありがとう、バグロス」
別れの言葉は決して告げない。
「恐縮です。いずれ私めも共に。今は耐え忍ぶ時」
アルルとしては今すぐにでも一緒に逃げてほしいところではあったが、限界まで隠蔽工作を図ろうと決意するバグロスの忠誠心を蔑ろには出来なかった。
「大丈夫。あたし、負けるつもりなんて無いから」
(捕まったら、絶対に許さない)
食料調達の極意は肌に染み付いている為、飢えることは無いだろう。
「――ご健闘を」
入り組んだ奥の奥にある、本当に一部の人間しか知らぬ場所。
扉の周囲に警護兵の姿は無く、代わりにアルルにとって見知った顔が一人佇んでいた。
執事のバグロス。不治と謳われる病魔に侵されていた所をアルルに発見され、それを祓われて以降、忠義を尽くしている男である。
裏の手引きに長けており、聖女の存在を良く思わない貴族連中を度々遠ざけ、ゼロとは行かないもののその数を減らしてきたという実績を持つ。
感覚さえ研ぎ澄ませていれば熟練の暗殺者や上位魔物の感知など容易いアルルではあるが、それを持続させるのは精々一回の精神集中につき三時間程度が限界である。
常日頃から心労を抱えるアルルにとっては尚更酷な話であった。
アルルが数多の暗殺者の手に掛からなかったのはバグロスの存在が大きい。
とは言え、例え毒の刃で首筋を軽く切られようとも黙って死ぬことすら出来ないのがアルルという少女。
首から血を噴射させながら、尚も短剣を握る少女に返り討ちに合った哀れな熟練の暗殺者が存在する。
アルルがその後、生死の境を彷徨ったのは言うまでも無いが、自分の死よりもバグロスの切腹を止める方に苦労したという。
「――! ……こちらに」
一瞬ハッとした様子のバグロスだったが、すぐさま取り繕うとアルルを部屋に迎え入れた。
「お嬢様、お出向かい先はいずこで御座いましょうか。……このような事をお伺いするのは不躾で御座いましょうか」
(待って待って! その前にこれ解いて!)
困り顔を浮かべながら右手で口元を指すアルル。
「不徳、申し訳御座いません。只今」
見事な手際で口封じの刻印を解除するバグロス。
かつて敏腕執事としてとある主に仕えていたと噂の立つバグロスだが、その口から具体的な顛末をアルルに打ち明けた事は無い。
噂に違わずその実力は確かであり、大抵の事は任せてしまえば解決してくれるだろうという大きな信頼感をアルルは持っている。
そして今回もその例には漏れず。
「帰らずの森に行こうかなって。安心して、死ぬつもりなんてこれっぽっちもないから。帰らずは覆らないだろうけどね」
その名の通り、一度踏み込んだ者は決して帰らぬと人々から恐れられているその森。
その実、ただそこそこ強い魔物が生息しているだけの森に過ぎない。
あとは少しばかり昏く、深いだけ。
大抵の人間にとっては、その"だけ"が死因となり得るのだが。
「左様、で御座いますか。裏に馬車を用意させております」
全てを捨てゼロからやり直そうと決意する一人の少女の姿に、バグロスは改めて心酔した。
それでこそ我が主に相応しい、と。
バグロスはアルルがこうして脱獄を図り、この場所を訪れ、逃走を企てるだろう事も当然予期していた。
とは言え、全く心配するなというのも土台無理な話で、アルルの姿を見るが否や動揺を露にしたのも無理はない。
「色々ありがとう、バグロス」
別れの言葉は決して告げない。
「恐縮です。いずれ私めも共に。今は耐え忍ぶ時」
アルルとしては今すぐにでも一緒に逃げてほしいところではあったが、限界まで隠蔽工作を図ろうと決意するバグロスの忠誠心を蔑ろには出来なかった。
「大丈夫。あたし、負けるつもりなんて無いから」
(捕まったら、絶対に許さない)
食料調達の極意は肌に染み付いている為、飢えることは無いだろう。
「――ご健闘を」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,512
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる