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一章 〜浄化の聖女×消滅の魔女〜

降り掛かる災禍×英雄の奮起

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 遠方で舞い上がる砂埃。
 それと同時に、農作業をしていた領民の間でざわめきが起こる。

「おい、遠くに何か見えないか?」

「ああ、確かに何か見えるな。……おい、なああれ、こっちに近づいて来てるように見えるんだが」

「――マズいッ! ありゃあ魔物の群れだッ! 早く皆に知らせて避難させろッ!」

「なんだって!? 分かった、急ぎで知らせてくる」

 そうして間もなく、ベイスの指揮の元、統率の取れた動きで領地の中心に存在する強固な防壁に身を固める領民。
 その誰もがこの先の運命を憂いている。

「嫌……なんなの、あれ」

「おかあさん、あれなにー?」

「……何でもないの。だから何も心配しないでいいのよ」

「クソッ! これ以上畑がダメになったらオレたちはどうなる!? 軍の連中は何をしてるんだ!? 普段あんだけ好き放題威張り散らしてる癖にふざけてんのか!?」

「それ以前に命が保証されてるかすらも分からねぇ、あぁ……オレたちが一体何をしたってんだよ……」

 そしてそこより少し敵に近い位置に存在する物陰にて、"英雄"になるべく、その時を待つ二人。

「いよいよ敵さんのお出ましか。南の兵士の姿が見えんが何してんだか」

 ヴォルギニオスの最高移動速度は時速80キロにも及ぶ。
 アルルの捜索に追われている兵たちがこの場所に集うのは当分先。
 それこそ、戦闘態勢を整え終えた頃にはこの地の全ては踏み潰されてしまっているだろう。

 そして国周辺に配備されている斥候がその群れを観測してから軍部に連絡、計画、動員を間に合わせるのも酷な話。
 しかし軍部は素行不良のため、領民が憤りを覚えるのもまた無理はない。

 しかしそんな駿足を持つヴォルギニオスにも、一度減速してしまえば加速は得意としていないという弱点がある。

「まずはあの勢いを止めよっか。それにしても思ったより数が多いね」

「おう。コイツを持つのも久しいが……アルルの前でぐらいはカッコ付けないとな」

 冗談っぽくそんなクサいセリフを笑い飛ばしながら、白い刀身を持つ大剣を肩に乗せ接敵に備える。
 その剣こそ、ヴェインが純白の騎士と謳われる所以。

「武器さえ持ってれば正に純白の騎士って感じなんだけどなぁ」

(いかんせん普段の行いがなぁ……もうちょっとどうにか……ねぇ)

「だからその恥ずかしい名前を出すなって!」

「ごめんごめん、よし、そろそろ出るよ! 準備はいい?」

「あいあい、いつでも行けますよ、聖女様」

 "英雄"の登場により、防壁内が再びどよめき始める。
 しかし先程とは打って変わり、希望に満ちたざわめきが巻き起こった。

「ああ、俺達、一体どうなっちまうんだ……」

「おい! あれを見ろッ! まだ誰か外に取り残されてるぞ!?」

「ちょっと待て、何か様子がおかしくないか? それに、あの二人は」

「ああ間違いねえ! あのお二方は純白の騎士ヴェイン様と聖女アルル様だ!」

「我らの英雄が来た! かの御仁二人が我々を助けに来て下さったのだ!」

 ――アルル様万歳! ヴェイン様万歳!

「思ったよりもすごい騒ぎになってるね、安っぽい接待みたいでアレだけど」

 社交界で意味もなく上辺だけで持て囃されていた元婚約者の事をふと思い出したアルルであった。

「どうも歓声を浴びるのは毛恥ずかしくてダメだ」

「ま、みんなの不安を拭うのも仕事の内じゃない?」

 後ろを向いたアルルが手を振ると、喝采は益々広がりゆく。

 ――聖女様が我々に手を振って下さっているぞ!

 ――我らが英雄、聖女アルルに祈りを捧ぐ!

 ――実物のアルル様マジで可愛くね!?

「おま、よーやるわ全く……」

 そうして間もなく、群れの全貌が露となる。
 群れの数は3つ、総数は150匹程。 
 質量は20メートルの巨大投石機を300台ほど同時に発射した場合の威力に等しい。

「――よし、射程に入った! いくよっ! 先に仕掛ける!」

 光の弾丸が放射を描きヴォルギニオスの群れに炸裂する。
 脚をもがれた数匹が転げ伏し、それに躓き連鎖するように群れ単位の勢いが低下した。
 しかしアルルは今の一撃で魔力の半分程を消費してしまう。
 連射は到底不可能だ。

「相変わらず後ろをやらせたらお前の右に出るヤツはいねえな」

「ヴェイン! 前は任せたよ!」

 その隙に、すかさず群れの先頭へと躍り出るヴェイン。
 そのまま祈りを捧げるように胸に手を当てると、その手に持つ大剣の刀身が雷光を帯び始める。
 刹那、雷光放出の構えを取ったヴェインが魔物の群れの中心へと勇猛に飛び込む。

「ああ……肩こり治すに丁度いい」

 雷光一閃が空をほとばしり、その一振りで群れの6分の1が完全に戦闘不能となった。

「ヴェイン、状況は!?」

「悪い! 零れた奴等を頼む!」

「わかった、任せて!」

 アルルの愛刀が浄化の力を纏う。
 そのまま孤立した敵を魔力効率よく連続で叩き切る。 

 そして更なる追撃を仕掛けるべく群れの中心へと飛び込むヴェインの姿がアルルの目に映った。

 剣を地面に突き刺したヴェインは自分を中心に雷光を放出――間もなく群れの一つが壊滅した。

「やべぇ、流石に腕が痺れてきた」

 しかしながら高出力の技を連発したヴェインの消耗も激しい。

「大丈夫? まだやれる? あたしも上がろっか?」

 息が上がり、上下する肩。

「ああ、不甲斐無くて悪いな。でもこんな時ぐらいは最後までカッコつけさせてくれよ」

 アルルの労りの言葉にも、ヴェインは振り向かない。

「ふーん? 別にいいけど、無理は禁物だからね?」

「任せろ。男としてのちょっとした意地ってやつだ」

 仮にアルルが前に出たところでヴェインに背中を預けている限りは万が一の怪我もあり得ないだろう。
 しかしそれでは格好がつかないとヴェインは意地を張る。

「なら、あたしは純白の騎士様に守られるか弱い聖女でも演じとく」

 少々露骨にいかにもな弱々しい仕草を取るアルル。 

「……はぁ、ほんっとお前ってヤツは――」

 顔を隠すように額に手を当て、小さくぽつりと呟くヴェイン。

「ん、なに? なんか言った?」

 アルルは鮮血を散らす片手間にヴェインの独り言を聞き返す。

「はぁ、もしギルの奴が生きてたら情けねえしなぁ、止めとこ……」

 間もなく、群れの二分の一程が壊滅。
 ヴォルギニオスはその数を減らせば減らす程、反比例して急激にその戦力も失われていく。
 そう、開幕の一撃で全ては決まっていたのだ。

「なんかよく分かんない独り言増えてきたけどほんとに大丈夫?」

 最早消化試合と化した戦闘に、既に余裕モードのアルル。

「わりぃわりぃ。このまま援護たのんだ」

 ――平和が取り戻される時は近い。
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