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老々介護
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公園の中で、葉桜が優雅に風にそよぐ立夏の一日。そこには、静かな営みの中に母と訪問介護の佐竹さんが掃除をしている様子が描かれる。
葉桜が風に揺れ、公園は若草色に染まっていく。母の富子さんと佐竹さんは、自分の体に鞭うつように掃除を進めていく。佐竹さんは、やや曇った顔で掃除機を使いながら、台所のあちこちを丹念に清掃をする。一方のかあさんは、優しい笑顔で風呂場掃除とトイレ掃除、アメイジング・グレイスが心地よく流れる中、二人は黙々と作業に取り組んでいる。
お庭には、インパチェンスや勿忘草、姫宇津木、色とりどりの小さなお花が風に揺れており、カサブランカの苗もずいぶん大きくなってつぼみが少しずつ膨らむ。この季節、かあさんのガーデニングつかう費用は半端ない。秋から冬の花、例えば桜草などが終わり、夏の花に入れ替わるからだ。風が薫る五月。
和俊は時折、母と佐竹さんの様子を覗き込みながら、微笑ましさと参加できない寂しさを感じている。
老々介護
毎週月曜日は、かあさん富子の訪問介護が来て、母さんと一緒に掃除をする。
かあさんの担当の訪問介護は、母さんよりも年上の佐竹さん。
かあさんが70歳で、佐竹さんが73歳。
1時間だけの訪問介護だけど、毎週、佐竹さんの好きな「アメイジング・グレイス」をユーチューブで大きな音でかけて二人掃除をしてる。
息子の俺、和俊は、手伝えばいいのに寝てるか小説を書いているかしてて、邪魔なんだろうなと思う。
俺が引きこもりじゃなかったら、その時間だけ散歩に行くとかできるんだけど、外に出ることもできなかった。
それどころか、自分のマンションに帰ることもできない。
処方の副作用から来るアカシジアのせいで、病状がとても不安定。
時には、座ってることも寝てることもできないほどおかしくなる。
「ああああもう、なんとかしてよ」
と、叫びたくなる衝動を抑えるのに必死だった。
俺は俺で必死に戦っている。
母さんのように、1か月に1回の通院で済むように病状が安定してくれると嬉しいんだけど、1週間に一回の通院がここ10年続いている。
まあねそれでも、精神障碍者1級から2級になったんだから回復はしてるんだよね。
支給される精神障碍者年金は減るけど、喜ばないとね。
母さんが、いつもトイレとお風呂場、パソコン周りを掃除して、佐竹さんが台所を掃除する。
母さんが、トイレもお風呂場も掃除できなくなったらどうなるんだろうとあ糞になることもあるけど、
利用者の母さんより、ヘルパーさんの方が年が上って面白いなと思った。
かあさんは、要介護1級、寄る年波の記憶障害や体の不調に必死であらがっている。
俺も47歳なので、あと23年後には同じような状態になるのかと思うとなんだか悲しく寂しい気持ちになる。
アンチエージング。
自分の歯が一本もないかあさんは、
「昔ならとっくに姥捨て山」
と、寂しそうにつぶやいた。
毎週月曜日のこの貴重な一時間のおかげで、台所のフローリングも佐竹さんが丁寧に拭き掃除をしてくれるからべたべたしないですんでいる。
「今日は佐竹さんが来るから」
掃除に邪魔にならないようにたまった燃えるごみを外に出す。
人が自分の家に来るというだけでも、ゴミ屋敷にならないで住んでいる。
「ありがたいよね」
って、佐竹さんが帰った後に母さんはほっとして笑ってる。
このアパートに母さんが越してきてから、10年が過ぎる。
ここに来る前、同じようにヘルパーさんをお願いしていたこともあったけど、
家にじっといることができなくて、ヘルパーさんがこれなくなったこともあった。
その前は、ヘルパーさんが来ても、子宮内膜炎と子宮筋腫がひどくて、
真っ赤になりながらビニールを撒いて布団の中でうなっていた。
あの頃から比べたら、今、一緒に掃除ができることが嬉しい。
と、少しでも、感謝しようとしている母さんが痛々しい。
一時は立つこともできず、俺が起こしてあげてた。
トイレに行っても、下着をおろすことさえ猛烈な痛みが走っていた。
生きてることがほんとにしんどそうで、
「はやくころせー!」
と、叫んでた。
どんな状況にあっても、
「ありがとう」の気持ちを大切に。
鏡の前でわらう練習をする。
口角も上がり、目じりには笑い皺ができている。
痛みと苦しみのために般若のような顔はおだやかなお多福に変わってく。
何気ない日常をメリハリつけて彩ろうとする3人の姿がある。
それぞれ、自分の荷を負って精いっぱい戦ってる。
今日一日、平安がありますように
喜びを見つけることができますように。
葉桜が風に揺れ、公園は若草色に染まっていく。母の富子さんと佐竹さんは、自分の体に鞭うつように掃除を進めていく。佐竹さんは、やや曇った顔で掃除機を使いながら、台所のあちこちを丹念に清掃をする。一方のかあさんは、優しい笑顔で風呂場掃除とトイレ掃除、アメイジング・グレイスが心地よく流れる中、二人は黙々と作業に取り組んでいる。
お庭には、インパチェンスや勿忘草、姫宇津木、色とりどりの小さなお花が風に揺れており、カサブランカの苗もずいぶん大きくなってつぼみが少しずつ膨らむ。この季節、かあさんのガーデニングつかう費用は半端ない。秋から冬の花、例えば桜草などが終わり、夏の花に入れ替わるからだ。風が薫る五月。
和俊は時折、母と佐竹さんの様子を覗き込みながら、微笑ましさと参加できない寂しさを感じている。
老々介護
毎週月曜日は、かあさん富子の訪問介護が来て、母さんと一緒に掃除をする。
かあさんの担当の訪問介護は、母さんよりも年上の佐竹さん。
かあさんが70歳で、佐竹さんが73歳。
1時間だけの訪問介護だけど、毎週、佐竹さんの好きな「アメイジング・グレイス」をユーチューブで大きな音でかけて二人掃除をしてる。
息子の俺、和俊は、手伝えばいいのに寝てるか小説を書いているかしてて、邪魔なんだろうなと思う。
俺が引きこもりじゃなかったら、その時間だけ散歩に行くとかできるんだけど、外に出ることもできなかった。
それどころか、自分のマンションに帰ることもできない。
処方の副作用から来るアカシジアのせいで、病状がとても不安定。
時には、座ってることも寝てることもできないほどおかしくなる。
「ああああもう、なんとかしてよ」
と、叫びたくなる衝動を抑えるのに必死だった。
俺は俺で必死に戦っている。
母さんのように、1か月に1回の通院で済むように病状が安定してくれると嬉しいんだけど、1週間に一回の通院がここ10年続いている。
まあねそれでも、精神障碍者1級から2級になったんだから回復はしてるんだよね。
支給される精神障碍者年金は減るけど、喜ばないとね。
母さんが、いつもトイレとお風呂場、パソコン周りを掃除して、佐竹さんが台所を掃除する。
母さんが、トイレもお風呂場も掃除できなくなったらどうなるんだろうとあ糞になることもあるけど、
利用者の母さんより、ヘルパーさんの方が年が上って面白いなと思った。
かあさんは、要介護1級、寄る年波の記憶障害や体の不調に必死であらがっている。
俺も47歳なので、あと23年後には同じような状態になるのかと思うとなんだか悲しく寂しい気持ちになる。
アンチエージング。
自分の歯が一本もないかあさんは、
「昔ならとっくに姥捨て山」
と、寂しそうにつぶやいた。
毎週月曜日のこの貴重な一時間のおかげで、台所のフローリングも佐竹さんが丁寧に拭き掃除をしてくれるからべたべたしないですんでいる。
「今日は佐竹さんが来るから」
掃除に邪魔にならないようにたまった燃えるごみを外に出す。
人が自分の家に来るというだけでも、ゴミ屋敷にならないで住んでいる。
「ありがたいよね」
って、佐竹さんが帰った後に母さんはほっとして笑ってる。
このアパートに母さんが越してきてから、10年が過ぎる。
ここに来る前、同じようにヘルパーさんをお願いしていたこともあったけど、
家にじっといることができなくて、ヘルパーさんがこれなくなったこともあった。
その前は、ヘルパーさんが来ても、子宮内膜炎と子宮筋腫がひどくて、
真っ赤になりながらビニールを撒いて布団の中でうなっていた。
あの頃から比べたら、今、一緒に掃除ができることが嬉しい。
と、少しでも、感謝しようとしている母さんが痛々しい。
一時は立つこともできず、俺が起こしてあげてた。
トイレに行っても、下着をおろすことさえ猛烈な痛みが走っていた。
生きてることがほんとにしんどそうで、
「はやくころせー!」
と、叫んでた。
どんな状況にあっても、
「ありがとう」の気持ちを大切に。
鏡の前でわらう練習をする。
口角も上がり、目じりには笑い皺ができている。
痛みと苦しみのために般若のような顔はおだやかなお多福に変わってく。
何気ない日常をメリハリつけて彩ろうとする3人の姿がある。
それぞれ、自分の荷を負って精いっぱい戦ってる。
今日一日、平安がありますように
喜びを見つけることができますように。
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