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第2章 9 教授からの説明

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 散らかった部屋の中で、かろうじて座る場所を確保した俺と教授は向かい合わせに座って話をしていた。
手の中に握りしめられた缶コーヒーはとっくに冷めて生ぬるくなっていた。つまり俺はコーヒーを飲むのも忘れるくらい、教授の話に没頭していたのだ。


「いいか?上野。タイムトラベルで過去に戻ってもお前の身体が若返るわけではない。おまけに過去に戻り、そこで生活をしていけば普通にお前も年を取っていく。つまり、過去の世界に長く滞在すればするほど、元の世界に戻ってきたときの本来のお前の年齢とのギャップが出来てくるのだ。だから最高でも滞在期間は1カ月と定めるからな?」

「何故1カ月と定めるのですか?過去に行って元の世界に戻って来ても、たかだか1カ月くらいなら殆どギャップは生じませんよ?」

ここでようやく俺は握りしめていた缶コーヒーを口にした。

「それは…万一の為に…念には念を入れてだ…」

「え…?一体それはどういうことですか?」

しかし、教授はそれには答えずに別の話を始めた。

「とにかく、お前は過去の世界に戻れば幽霊のような存在になる。何しろ本物のお前は向こうの世界では10歳の子供なのだからな」

「…ええ」

そうだ…俺は過去の…まだ子供だった俺と対面する事になるのだ。そして…彩花とも…。

グッと缶コーヒーを握りしめた。

「これを持っていくと良い」

教授が免許証を手渡してきた。

「…?」

見ると、その免許証には俺の顔写真が貼られ、『上条拓也』と記されている。生年月日も本籍も俺の物ではない。

「ちょ、ちょっと!これは一体どういう事ですか?!顔写真は確かに俺ですけど…それ以外は何もかも違いますよ?生年月日も本籍も…」

「違うのはそれだけではないぞ?ちなみに有効期限だって違う」

教授はニヤリと笑った。

「え…?」

確かによく見ると有効期限もまるで違う。これでは…。

「それは15年前の世界に戻った時のお前の身分証明書だよ。過去の世界で暮らすには身元保証が必要になる。まぁ…いわゆる偽造の身分証だ」

「偽造ですか…確かに自分の身元を保証出来なければ過去の世界で生活するのに困りますね」

「ああ、そうだろう?それに住む場所だって借りることが出来ない」

「住む場所…」

そうだ、肝心なことを忘れていた。過去の世界に滞在する限りは住む場所を…。

「あの…教授。ちょっと待ってください」

「何だ?」

「要は南彩花が殺されるのを防げば…すぐに戻ってくればいいだけの話ですよね?」

「ああ、そうだ」

「だったら、別に住む場所は必要無いと思うのですが?」

「…本当にすぐに戻れると思っているのか?」

「え?」

「あ…いや、過去の世界を堪能したいと言う気持ちが湧いてくるかもしれないだろう?」

確かに教授の言う事も尤もだ。

「ええ。確かにそれはあるかもしれませんね…」

「だろう?だから尚更身分証明は必要だ。それに、この磁場発生装置だが…とにかく充電に時間がかかる。1度使えば丸1日は充電するのに時間を有するんだ」

「え?そ、そんなに時間がかかるのですか?」

「ああ、それだけではない。他には…」

こうして、俺は宮田教授からその後もタイムトラベルに関しての説明を延々と受け続けることになった―。

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