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14−11 ベアトリス 5
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「それではエルウィン様」
ベアトリスは自分の左手をエルウィンに差し出した。
「?」
エルウィンには何の事やら分からずに首を傾げると、背後からマティアスが囁いた。
「エスコートして差し上げて下さい」
(何だってっ?!)
エルウィンは心の中で悲鳴を上げた。
目の前に立つベアトリスからはエルウィンの大嫌いな香水の香りが漂っている。
けれど、相手は仮にも自分が仕える国の王女である。
邪険な扱いをするいわけにはいかない。
「失礼致しました。参りましょうか?ベアトリス王女」
嫌な気持ちを押し殺し、エルウィンは自分の右腕を差し出した。
「ありがとうございます、エルウィン様」
ベアトリスはニコリと笑みを浮かべると、エルウィンの左腕に自分の手を絡めた。
「では参りましょうか?」
引きつった笑みを浮かべながら王女に声を掛けるエルウィン。
「はい」
そして腕を組んだ2人はそのままエントランスへと向かい…ベアトリスの乗ってきた馬車に乗り込んだ。
「それでは皆、アリアドネを頼むぞ」
エルウィンは馬車の窓を開けると見送りに出てきた騎士全員に言い渡した。
「はい、お任せ下さい」
騎士たちを代表して返事をするマティアスではあったが、内心生きた心地がしなかった。
(本当にエルウィン様は何て気の利かないお方なんだ。女性の……しかもあの気位の高いベアトリス王女の前で別の女性の話をするなんて……)
国王の一番末の姫であるベアトリスは気位がとても高い女性として、その名が知れ渡っていた。
その為18歳になるにも関わらず、まだ決められた縁組は無かったのだ。
「よし、それでは馬車を出してくれ」
エルウィンが御者の男に声を掛けると男はうなずき、すぐに馬車はガラガラと音を立てて王宮へ向けて走り去って行った。
途端に騎士たちからため息が聞こえる。
「ふ~……ようやく行ってくれたか……」
「全くハラハラさせられる」
「ああ、これなら戦場の方がマシだ」
「心臓に悪すぎるよ…」
この時、騎士たちは口には出さないけれども全員が思った。
これで少しの間、自由な時間になる……と。
****
「エルウィン様…王女様とお城に向かったのね」
窓から2人が馬車に乗り込み、走り去って行く一部始終をアリアドネはあてがわれた部屋の窓から見ていたのだ。
美しく正装したエルウィンとベアトリスの2人は本当に美しく、最高の組み合わせだとアリアドネは思った。
美しい馬車に乗り込み、月明かりに照らされた美しい庭を走り去っていく馬車はまるで子供の頃に読んだ絵本の中に出てくるワンシーンのようだった。
「やっぱり、エルウィン様にお似合いなのは……本物の王侯貴族の方たちなのよね……」
自分のように貴族の嗜みの教育を一切受けていない者にはエルウィンのような相手が務まる器では無いと常日頃から思っていた。
妾腹の娘などではなく、高貴な血を引く女性こそがエルウィンにふさわしいと考えていた。
けれどいざエルウィンが自分以外の女性をエスコートする姿を目にし、アリアドネの胸はズキリと傷んだ。
その胸の痛みが何によるものなのか……。
肝心のアリアドネはその気持にまだ気付いてはいなかった――。
ベアトリスは自分の左手をエルウィンに差し出した。
「?」
エルウィンには何の事やら分からずに首を傾げると、背後からマティアスが囁いた。
「エスコートして差し上げて下さい」
(何だってっ?!)
エルウィンは心の中で悲鳴を上げた。
目の前に立つベアトリスからはエルウィンの大嫌いな香水の香りが漂っている。
けれど、相手は仮にも自分が仕える国の王女である。
邪険な扱いをするいわけにはいかない。
「失礼致しました。参りましょうか?ベアトリス王女」
嫌な気持ちを押し殺し、エルウィンは自分の右腕を差し出した。
「ありがとうございます、エルウィン様」
ベアトリスはニコリと笑みを浮かべると、エルウィンの左腕に自分の手を絡めた。
「では参りましょうか?」
引きつった笑みを浮かべながら王女に声を掛けるエルウィン。
「はい」
そして腕を組んだ2人はそのままエントランスへと向かい…ベアトリスの乗ってきた馬車に乗り込んだ。
「それでは皆、アリアドネを頼むぞ」
エルウィンは馬車の窓を開けると見送りに出てきた騎士全員に言い渡した。
「はい、お任せ下さい」
騎士たちを代表して返事をするマティアスではあったが、内心生きた心地がしなかった。
(本当にエルウィン様は何て気の利かないお方なんだ。女性の……しかもあの気位の高いベアトリス王女の前で別の女性の話をするなんて……)
国王の一番末の姫であるベアトリスは気位がとても高い女性として、その名が知れ渡っていた。
その為18歳になるにも関わらず、まだ決められた縁組は無かったのだ。
「よし、それでは馬車を出してくれ」
エルウィンが御者の男に声を掛けると男はうなずき、すぐに馬車はガラガラと音を立てて王宮へ向けて走り去って行った。
途端に騎士たちからため息が聞こえる。
「ふ~……ようやく行ってくれたか……」
「全くハラハラさせられる」
「ああ、これなら戦場の方がマシだ」
「心臓に悪すぎるよ…」
この時、騎士たちは口には出さないけれども全員が思った。
これで少しの間、自由な時間になる……と。
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「エルウィン様…王女様とお城に向かったのね」
窓から2人が馬車に乗り込み、走り去って行く一部始終をアリアドネはあてがわれた部屋の窓から見ていたのだ。
美しく正装したエルウィンとベアトリスの2人は本当に美しく、最高の組み合わせだとアリアドネは思った。
美しい馬車に乗り込み、月明かりに照らされた美しい庭を走り去っていく馬車はまるで子供の頃に読んだ絵本の中に出てくるワンシーンのようだった。
「やっぱり、エルウィン様にお似合いなのは……本物の王侯貴族の方たちなのよね……」
自分のように貴族の嗜みの教育を一切受けていない者にはエルウィンのような相手が務まる器では無いと常日頃から思っていた。
妾腹の娘などではなく、高貴な血を引く女性こそがエルウィンにふさわしいと考えていた。
けれどいざエルウィンが自分以外の女性をエスコートする姿を目にし、アリアドネの胸はズキリと傷んだ。
その胸の痛みが何によるものなのか……。
肝心のアリアドネはその気持にまだ気付いてはいなかった――。
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