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17-7 アリアドネとヨゼフ

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 自室を後にしたアリアドネは今、下働きの使用人たちが寝泊まりする寮の前に立っていた。
 アリアドネがここに来た理由……それはヨゼフに会う為だった。
 ヨゼフに会って、大事な話をする為に。

「ここに来るのは久しぶりだわ。ヨゼフさんは元気かしら……?」

 そして、アリアドネは目の前の扉をノックした――。



****


 アリアドネが男性寮を訪ねてきたことに、責任者のビルは大層驚いた表情を浮かべた。けれど、アリアドネがヨゼフに会いに来たことを告げるとすぐに寮の中へ招き入れて談話室へ案内してくれた。


 通された室内は薪ストーブが燃えて温かく、時折パチンと炎が爆ぜる音が聞こえていた。この静かな部屋でアリアドネは数ヶ月ぶりの再会に緊張しながらヨゼフが来るのを部屋でじっと待っていた。
 
 そして――。

 カチャリ……
 
 アリアドネの目線の先にある扉がゆっくり開かれ、懐かしいヨゼフが姿を現した。

「アリアドネ、久しぶりだね。すっかり綺麗になって……見違えたよ」

「ヨゼフさん!」

 久しぶりに会えた嬉しさに椅子から立ち上がるアリアドネ。その姿を見てヨゼフは目を細めると、向かい側の席に座った。
 そこでアリアドネも座ると、すぐにヨゼフが自分の話を始めた。

「ここ『アイデン』は寒さが厳しいところだろう?そのせいですっかり腰をやられてしまってね。ずっと寮で休ませてもらっていたのだよ。けれど、ここの人達は全く使い物にならない老いぼれを快く置いてくれて本当に感謝しているよ」

「はい、ヨゼフさんが腰を痛めて仕事を出来ない話は皆さんから聞いていました。本当に……すみませんでした」

 アリアドネは頭を下げた。

「何故謝るのだね?」

不思議そうに首を傾げるヨゼフ。

「それは……私をここまで連れてきたせいで、ヨゼフさんが腰を痛めてしまったからです。それなのに中々会いに来ることも出来ずに、本当にすみませんでした」

「何を言っているんだい?そんなことは全く気にすることは無いんだよ?大体私は自分の意志でアリアドネについてきたのだから。それに皆親切にしてくれたし、わざわざ熱い湯を沸かして入浴までさせてくれたのだよ。お陰で腰もすっかり楽になった」

 ヨゼフは嬉しそうに笑った。

「そうだったのですか……私も本当にここの人達にはとてもお世話になりました。感謝しかありません」

「何だか思い詰めた様子だが……どうかしたのかい?まぁ確かにもうすぐここへ来て半年になるが、その間に色々なことがあったからね」

 色々なことが何を意味しているのか、アリアドネには良く意味が分かっていた。

「あの、今日、ヨゼフさんを訪ねたのはどうしてもお話したいことがあったからです。覚えていますか?ここへ来たばかりの頃、2人でどんな会話をしたか……」

「ああ。勿論だよ、アリアドネ」

 何のことを話しているのか、ピンときたヨゼフは静かに頷いた――。
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