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第二章 竜の文化、人の文化

十六話

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(本当、ファスティさんの言う通り……仕組みはそこまで難しくない……でも)

 コツ、と言っていた部分。それは、実際に操作しなければ掴めないと、アイリスは理解した。

「ファスティさん」

 アイリスはおもむろに顔を上げ、ファスティへ真剣な顔を向ける。

「もし、許可を頂ければ、なんですが……この魔、導具、を使用してみても良いでしょうか」

 ファスティは一瞬、その上へ視線を投げ、

「……」

 ヘイルが頷くのを確認すると、アイリスの手元へ目線を寄越した。

「ええ、どうぞ。色々試してみて下さいな」
「ありがとうございます!」

 その顔が華やぎ、アイリスは追憶の刻を掲げるように持ち直す。

(これは、持っている人、じゃない。竜の意識を、魔力と共に流れ込ませるもの。そして、この中に〈焼き付ける〉)

 アイリスは目を閉じ、思考を巡らせる。

(その意識が強ければ強いほど、鮮明に、滑らかに、〈映像〉が残る……あれ? それなら)

 記憶に強く残るもの。今見ていなくとも、色鮮やかに刻まれたもの。

(そういうものも、焼き付けられる……?)
「……あっ!」

 自身の声で、アイリスは目を開く。

「アイリス? どうした?」

 おろおろと、追憶の刻を裏返したり軽く降ったりするアイリスは、ヘイルの声に肩を跳ねさせた。

「っ……すみません! あの、もしかしたら、壊してしまったかも……」

 アイリスの顔からは血の気が引き、その瞳は恐怖に揺らぐ。

「何をどうした?」

 目の前に屈んだヘイルへ、アイリスは怖ず怖ずと追憶の刻を差し出す。

「この、中の造りについて考えながら、〈映像〉……というものを、焼き付けてしまったようなんです……」
「まあ、それは……どういう事でしょう?」

 ファスティも首を傾げながら、アイリスの側へしゃがむ。

「先生、目ぇ瞑ってたじゃんか。映像撮れてんの?」
「……真っ暗?」

 ケルウァズとドゥンシーの言葉に、アイリスは顔を歪める。

「それだけなら、まだ良いんですが……私の記憶を、無理に入れてしまったかも知れなくて」
「記憶?」
「は? どうやって?」

 話が見えない面々と、上手く説明出来ないアイリス。ブランゼンも傍によって、

「まずは確認してみましょう? どうなってるか、それを確かめてからでも遅くないわ」

 アイリスの肩に手を置く。

「ええ。もし壊れていても、まだ幾つかありますから。安心して下さいな、アイリスさん」
「……取りあえず再生してみるか。アイリス、貸してくれ」

 アイリスは俯きがちに頷き、追憶の刻を恐る恐る手渡した。

「違和感は無いな」

 そんな言葉と共に高い音が響き、先ほどと同じ楕円の盤面が形成された。そして、そこに映るのは──

『えー思ったより動けるね。じゃ、こっちは?』
『難易度を上げないでくれませんか?!』

 この庭を背景に、

「え? これ……」
「昨日の?」

 一応は型通りの組み手を行う、シャオンとタウネだった。


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