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第二章 竜の文化、人の文化

十八話

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 それは、庭を映していない。もっと以前に目にした場所。

「……アイリス? どうした?」

 動きが止まったアイリスへ、ヘイルの訝る声が降る。けれど、アイリスはその〈場面〉から目が離せない。

(これは、どうして)
「アイリス? ……どこか痛めたか?」
「え?! 大丈夫?!」
「先生?」

 心配の声が集まり出す。それでもアイリスは視線を外さず、

「アイリス……っ?」

 どけられそうになった魔導具を、ヘイルの腕を掴む事で止めた。

「あれ、シャオンさん達の終わった?」
「ここ……もしかして、外の森ですか?」

 それを見た周りも覗き込み、身動きの取れなくなったヘイルが溜め息を零す。

「俺は訳が分からないんだが……」
『……ぅ……ふ、ぐうっ…………』

 そしてその音声に目を見開いた。

『……獣……魔物……っ』
「……アイリス?」

 眉を顰めたヘイルには、覗き込む頭しか見えない。

『! ……ひと?』
『ん? なんだ、お前は? ……お、おぃ────』

 そこで、音は消える。流れる感触を読み取り、再生が終了した事をヘイルは感知した。

「……?」

 どこか聞き覚えのあるそれに、ヘイルは頭を捻り。

「っ……」
「?!」

 勢い良く顔を上げたアイリスに、思わず仰け反りかけた。

「ヘイル、さ…………」
「なっ? ……何だ、アイリス」

 零れ落ちそうなほど開かれたヘーゼルは、真っ直ぐに自分を見つめ。

「………………わあっ?!」
「?!」

 一瞬にしてそれは遠くなった。

「な、何でもないです! 何でもないので!」

 ブランゼンの背に隠れるようにしながら、アイリスはぶんぶんと首を振る。

「……これに、何が」
「見ちゃダメです!」

 今までにない声量での制止に、ヘイルの手が止まる。

「森、初めて見た」
「そんな危なく無さそうだな」
「……ヘイル、いつもあれくらい近くを?」
「わあ! 話さないで! 下さい! ブランゼンさんも!」

 ぽつぽつと聞こえる感想で、朧気に話が見えてくる。

「……あれか。アイリスを見つけた「だから駄目です!」……」

 何故そんなに、とヘイルは憮然とした顔になった。

「壊れていないようですから、そこは安心ですねえ」
「! そうです!」

 はっとしたアイリスは、今度は縦に首を振る。

「壊れてなくて良かったです! 本当に! けれどこの映像、消せるなら消してしまわないと!」
「それは勿体ないですねえ」

 アイリスの動きが止まった。

「特に最後のものは、私にも良く見えませんでしたし……確認を致しませんと」

 おっとりと口にするファスティへ、アイリスがぎこちなく首を回す。

「か、くにんしたら、消すんでしょうか……?」

 それにファスティは微笑みを返し。

「どうしましょうか。ねえ? 坊ちゃま」
「えっ」
「俺も見れなかったからな。確認はしたい」
「えっ……だ、駄目です!」

 アイリスは声を張り上げる。

「なんで駄目なんだ? 変なものは映ってないだろう?」
「そっ……そうですけど!」

 言葉が詰まるアイリスに、ヘイルの片眉が上がる。

「……それはそれとして、皆」

 それらを見て、ブランゼンは腕を組み。

「そろそろ勉強会を始めましょうか?」
「あ」
「すっかり」
「抜けてたな」


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