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1章
小さな祝福
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ぱたぱたと廊下を小さな足音が近付いてくる。
ぱたん!と扉が開いて、姪のアランカが飛び込んできた。
「いたぁー!!」
アランカが、僕の胸に飛び込んで、レオリムが、アランカごと、僕たちを受け止めた。
アランカ、まだ髪の毛が濡れたまま。
続いて居間に入って来た姉さんが、ほらほら、まだびしょびしょよ、と言いながら、アランカの背後から髪の毛にタオルを当てた。
「シーにぃに、レオにぃに」
姉さんからタオルを受け取って、髪の毛と、涙でべしょべしょの顔を拭いてやる。
「お風呂で、二人が学園に行くことを話したら、やっぱりこうなっちゃって」
アランカは僕たちによく懐いているので、家を出ると知ったら大泣きするだろうから、とぎりぎりまで話さないでおくことになっていた。
いよいよ明日、スーリアへ向けて旅立つので、姉さんはお風呂で話して聞かせたんだね。
姉さんは、苦笑しながらごめんねぇと言うと、よいしょ、と少し大きくなったお腹を撫でながら、傍の椅子に座った。
「アランカ、泣かないで。アランカと赤ちゃんに、会いに帰ってくるから」
アランカを膝の上に乗せて、顔を覗き込んでそう言うと、ぐっと涙をこらえて僕を見た。
「ほんと?」
うん、と頷くと、レオリムの方を見て、もう一度、ほんと?と、頭をこてんと倒した。
レオリムも丁寧に、あぁ、と答える。
ぐすっと鼻を啜り上げて、アランカはこくんと頷いた。
「アランカ、シーランとレオリムにお手紙書くのよね」
「ん゛っ」
「ほんと? うれしい。僕たちも書くね」
「う゛んっ!」
アランカの顔に笑顔が戻って、ほっとする。
この間、入学試験から戻って来た時は、僕たちを見た途端大泣きしたアランカ。
突然いなくなって何日も帰ってこなくて、すごく不安だったみたい。ほっとして大泣きしたようだった。
5歳になって、だいぶしっかりしてきたと思っていたけど、やっぱりまだまだ小さいなぁ。
三人で、小さいアランカを宥めていると、玄関の方で気配がして、すぐに居間の扉が開いた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
父さんと義兄さんは、疲れた顔で居間に入ってくると、目元を腫らしているアランカと、僕たちを見て、あぁ、とすぐに状況を把握したようだった。
義兄さんは、僕の腕の中からアランカを抱き上げると、頭を撫でながら、すぐそばに膝をついた。
「アランカ、シーランとレオリムに旅の祝福をしてあげたかい?」
義兄さんがそう言うと、アランカは、あ!と小さく声を上げた。
腕の中で身動ぎして、僕たちの方を向いた。
「シーにぃにと、レオにぃにのたびが、あいとひかりにみちますように」
純粋な言葉は、温かな光のように、僕の胸の中に響いた。
「「アランカ、ありがとう」」
自然と、レオリムと言葉が揃った。
僕とレオリムは、アランカのほっぺたに、両側からそれぞれほっぺたをそっと合わせて、頭を撫でた。
えへへ、と得意気に笑うアランカの祝福は、海竜様の祝福に負けないくらい、温かいものだった。
アランカは、満足したように、くふふ、と可愛く笑う。
もう目元に涙は残っていなかった。
良かった。
ふわっと、小さなあくびをひとつしたのを見て、義兄さんがアランカを抱いたまま立ち上がった。
「それじゃあアランカ、次はおやすみのごあいさつだ」
アランカはこくんと頷いて、おやすみなさいをした。義兄さんの肩に、頭をこてんと預けて、目がとろっと溶けそう。もうおねむみたい。
「「おやすみ、アランカ」」
もう一度、アランカの頭を二人で撫でる。
義兄さんは姉さんの傍に行って、姉さんの頬にキスをして、じゃあ、寝かせてくる、と部屋を出て行った。
姉さんも、ありがとう、おねがいと微笑んだ。
父さんも、アランカの頭を撫でておやすみをして、アランカと義兄さんは居間を出て行った。
その背中を見送っていたら、ちょっと旅の実感が湧いてきた。
僕は、父さんの顔を見上げた。
父さんの疲れた顔は、幾分和らいだように見えた。
「今日はずいぶん遅かったのね」
姉さんが心配そうに父さんに訊くと、父さんは肩を竦めて大きく溜息を吐いた。
「あぁ、港でちょっと騒ぎがあってね、エルナンが戻ったら話そう」
もう腹ペコだとお腹を摩ると、返事をするように、僕とレオリムのお腹がなった。
僕とレオリムは食堂へ向かった。
僕たちも、お腹ぺこぺこ!
父さんたちが、着替えたりしている間に、僕とレオリムで夕餉を温め直して食卓へ並べた。
アランカはすぐ眠ってしまったようで、義兄さんもすぐに食堂に現れた。
今日は、姉さんが僕たちの為に腕によりをかけて作ってくれたので、アランカも一緒に食べられなかったのは少し残念。
でも、可愛い祝福をもらえて嬉しかった。
一頻り食べてお腹が満ちると、父さんは僕たちの顔を見て、すまなかったな、と言った。
「せっかく二人が学園へ行く前の、みんなで食事をする最後の晩だったのに」
僕もレオリムも、首を振って、それより、何かあったの?と尋ねた。
あぁ、それなんだがな、と父さんは義兄さんと顔を見合わせた。
「海竜様が現れたと、港が大騒ぎになって」
あ。
僕は、レオリムと顔を見合わせた。
「僕たちも会ったよ」
「……会った?」
「うん、祝福をもらったんだ」
僕は、丘の上の墓地であったことを三人に話した。
「それでね、海竜様の言っていた、母さんのおかげって何のことか、父さん、知ってる?」
父さんは、複雑そうな顔をした。
痛みを堪えるような、懐かしむような。
「……長くなる。食事の後で話そう」
ぱたん!と扉が開いて、姪のアランカが飛び込んできた。
「いたぁー!!」
アランカが、僕の胸に飛び込んで、レオリムが、アランカごと、僕たちを受け止めた。
アランカ、まだ髪の毛が濡れたまま。
続いて居間に入って来た姉さんが、ほらほら、まだびしょびしょよ、と言いながら、アランカの背後から髪の毛にタオルを当てた。
「シーにぃに、レオにぃに」
姉さんからタオルを受け取って、髪の毛と、涙でべしょべしょの顔を拭いてやる。
「お風呂で、二人が学園に行くことを話したら、やっぱりこうなっちゃって」
アランカは僕たちによく懐いているので、家を出ると知ったら大泣きするだろうから、とぎりぎりまで話さないでおくことになっていた。
いよいよ明日、スーリアへ向けて旅立つので、姉さんはお風呂で話して聞かせたんだね。
姉さんは、苦笑しながらごめんねぇと言うと、よいしょ、と少し大きくなったお腹を撫でながら、傍の椅子に座った。
「アランカ、泣かないで。アランカと赤ちゃんに、会いに帰ってくるから」
アランカを膝の上に乗せて、顔を覗き込んでそう言うと、ぐっと涙をこらえて僕を見た。
「ほんと?」
うん、と頷くと、レオリムの方を見て、もう一度、ほんと?と、頭をこてんと倒した。
レオリムも丁寧に、あぁ、と答える。
ぐすっと鼻を啜り上げて、アランカはこくんと頷いた。
「アランカ、シーランとレオリムにお手紙書くのよね」
「ん゛っ」
「ほんと? うれしい。僕たちも書くね」
「う゛んっ!」
アランカの顔に笑顔が戻って、ほっとする。
この間、入学試験から戻って来た時は、僕たちを見た途端大泣きしたアランカ。
突然いなくなって何日も帰ってこなくて、すごく不安だったみたい。ほっとして大泣きしたようだった。
5歳になって、だいぶしっかりしてきたと思っていたけど、やっぱりまだまだ小さいなぁ。
三人で、小さいアランカを宥めていると、玄関の方で気配がして、すぐに居間の扉が開いた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
父さんと義兄さんは、疲れた顔で居間に入ってくると、目元を腫らしているアランカと、僕たちを見て、あぁ、とすぐに状況を把握したようだった。
義兄さんは、僕の腕の中からアランカを抱き上げると、頭を撫でながら、すぐそばに膝をついた。
「アランカ、シーランとレオリムに旅の祝福をしてあげたかい?」
義兄さんがそう言うと、アランカは、あ!と小さく声を上げた。
腕の中で身動ぎして、僕たちの方を向いた。
「シーにぃにと、レオにぃにのたびが、あいとひかりにみちますように」
純粋な言葉は、温かな光のように、僕の胸の中に響いた。
「「アランカ、ありがとう」」
自然と、レオリムと言葉が揃った。
僕とレオリムは、アランカのほっぺたに、両側からそれぞれほっぺたをそっと合わせて、頭を撫でた。
えへへ、と得意気に笑うアランカの祝福は、海竜様の祝福に負けないくらい、温かいものだった。
アランカは、満足したように、くふふ、と可愛く笑う。
もう目元に涙は残っていなかった。
良かった。
ふわっと、小さなあくびをひとつしたのを見て、義兄さんがアランカを抱いたまま立ち上がった。
「それじゃあアランカ、次はおやすみのごあいさつだ」
アランカはこくんと頷いて、おやすみなさいをした。義兄さんの肩に、頭をこてんと預けて、目がとろっと溶けそう。もうおねむみたい。
「「おやすみ、アランカ」」
もう一度、アランカの頭を二人で撫でる。
義兄さんは姉さんの傍に行って、姉さんの頬にキスをして、じゃあ、寝かせてくる、と部屋を出て行った。
姉さんも、ありがとう、おねがいと微笑んだ。
父さんも、アランカの頭を撫でておやすみをして、アランカと義兄さんは居間を出て行った。
その背中を見送っていたら、ちょっと旅の実感が湧いてきた。
僕は、父さんの顔を見上げた。
父さんの疲れた顔は、幾分和らいだように見えた。
「今日はずいぶん遅かったのね」
姉さんが心配そうに父さんに訊くと、父さんは肩を竦めて大きく溜息を吐いた。
「あぁ、港でちょっと騒ぎがあってね、エルナンが戻ったら話そう」
もう腹ペコだとお腹を摩ると、返事をするように、僕とレオリムのお腹がなった。
僕とレオリムは食堂へ向かった。
僕たちも、お腹ぺこぺこ!
父さんたちが、着替えたりしている間に、僕とレオリムで夕餉を温め直して食卓へ並べた。
アランカはすぐ眠ってしまったようで、義兄さんもすぐに食堂に現れた。
今日は、姉さんが僕たちの為に腕によりをかけて作ってくれたので、アランカも一緒に食べられなかったのは少し残念。
でも、可愛い祝福をもらえて嬉しかった。
一頻り食べてお腹が満ちると、父さんは僕たちの顔を見て、すまなかったな、と言った。
「せっかく二人が学園へ行く前の、みんなで食事をする最後の晩だったのに」
僕もレオリムも、首を振って、それより、何かあったの?と尋ねた。
あぁ、それなんだがな、と父さんは義兄さんと顔を見合わせた。
「海竜様が現れたと、港が大騒ぎになって」
あ。
僕は、レオリムと顔を見合わせた。
「僕たちも会ったよ」
「……会った?」
「うん、祝福をもらったんだ」
僕は、丘の上の墓地であったことを三人に話した。
「それでね、海竜様の言っていた、母さんのおかげって何のことか、父さん、知ってる?」
父さんは、複雑そうな顔をした。
痛みを堪えるような、懐かしむような。
「……長くなる。食事の後で話そう」
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