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「遅くなってしまいましたね。ユーネル伯爵や夫人に申し訳ないわ」

「大丈夫ですよ。伯爵には余裕をもった時間をお伝えしていますから。……それにしても、アリスは随分と変わりましたね。ユーネル伯爵家のパーティーでお会いした時には、あんなに泣いていたのに」

「覚えていらしたのですか?……もう忘れてください。恥ずかしいですわ」




ユーネル伯爵家のパーティーに無理矢理行かされ、門前払いをくらっていた私に、最初に声をかけてくれたのはシュカ様でした。

「僕の連れとして、中に入れば良い。ユーネル伯爵には話をつけてあげるから、後は自分で頑張ってごらん?」

そう言って、泣いていた私の涙を拭いてユーネル伯爵のもとへ連れて行ってくれたのです。

ユーネル伯爵は、我が家のことをよくご存知でした。私を産んだあの二人の振る舞いは、社交界で噂になるほど酷いものだったようです。

私は伯爵に非礼を詫て、すぐに帰ろうとしたのですが、引き止められ、詳しい事情を聞いてくださいました。

「あの家が貴族に相応しくないという話はよく聞くが、娘は品行方正で学業も優秀だったと聞いているよ。さぞ苦労しただろう……もうすぐ成人するのだから、家を出てはどうだい?」

伯爵のその一言のおかげで、私は家を出る決意をすることが出来たのです。その後も伯爵は何度も相談に乗ってくださり、ついには養子にまでしていただいたのです。伯爵には感謝してもしきれません。

シュカ様も、伯爵の側でずっと話を聞いてくださいました。パーティー以来お話をする機会はありませんでしたので、まさか婚約するとは思いませんでしたが……。

婚約の話でご迷惑をおかけするからと謝罪にうかがったはずが、本当に婚約するという話になってしまったのですから驚きました。




「今日のアリスは格好良かったですよ。惚れ直してしまいました」

「もう……シュカ様には恥ずかしい姿ばかり見せていますね。あの……どうして私なんかとの婚約を承諾してくださったのですか?伯爵家の養子になったとはいえ、急な話でしたのに」

「そうですね、アリスといると面白いことが起きそうだったからでしょうか。元ご両親への挨拶も面白かったですよ」

お、面白いですって?私にとっては人生を左右する出来事でしたのに……でも、そんなに優しい顔で微笑まれたら、悪い気はしません。

私が黙り込んでしまったので、シュカ様は少し慌てたようです。

「面白い以外にも理由はありますよ。でも、今は内緒です。またそのうちお伝えしますから。さあ、もうユーネル伯爵家に着きますよ」

慌てたシュカ様がなんだか可愛らしくて、私は笑いながら頷きました。

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