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第4章 〈レッスン1〉 ハグの効用

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 それから、エステルーム、メイクスタジオも案内してもらい、最後にジムに向かった。

 メンテナンス日の決まりなのだろう。
 どの階に行っても業者さんが丁寧に清掃作業にいそしんでいる。
 
 当然、ジムも定休日で、わたしたちの他には誰もいなかった。

 広く明るい室内には、ランニングマシンやエアロバイク、それに、どうやって使うのか、皆目見当がつかない筋トレ用の機器がずらりと並んでいる。

 わたしは運動習慣がまったくないので、ついていけるのか、ちょっと不安になる。

「あの、インストラクターさんはついていただけるのですか? わたし、こういうところで運動したこと、一度もなくて」
「ご心配なく。ちゃんと専属のスタッフがつきますよ」

 体組成計の前までくると、岩崎さんはタブレットを手に取り、わたしの名前や年齢を入力しはじめた。

「じゃあ、お手数ですけれど靴下を脱いで、この上に乗ってください」

 足形の上に乗ると、瞬時で前の画面に計測結果が表示された。
 一目では読み切れないほどのデータ量だ。
 
 岩崎さんが結果をすぐプリントして、手渡してくれた。

「こちらの結果に合わせて、お食事やトレーニングの計画を立てさせていただきますね」

 体重やBMIだけでなく、筋肉量や脂肪量やどの部位に脂肪がついているかなど、グラフになっていて一目瞭然。
 
 うわ、年齢の標準よりかなり筋肉が少ない。
 運動不足がまるわかり。
 う、お腹周りの脂肪はけっこうついてる。

 いや、玲伊さんが一緒じゃなくて良かったかも。
 これを目の前で見られてしまうのは、さすがに恥ずかしい。

 ジムを出て、扉に鍵をかけながら岩崎さんは言った。

「今日はこれで終わりになります。お疲れ様でした」
「どうもありがとうございました」

 そのとき、ふと思った。
「もしかして岩崎さん、今日、お休みの日だったんじゃないんですか?」

「いえ、休館というのは店舗部分だけです。私たち事務スタッフは基本的に土日が休日なので、今日は出勤日ですよ」

 わたしはほっと息をついた。

「それならよかったです。わたしのために休日返上されたのだったら、申し訳ないと思って」

「いいえ。それにもしそうだとしても、そんなお気遣いはいらないのに。今回の件はこちらから加藤さんにお願いしていることですし」

 そう言いながらも、岩崎さんはにっこり微笑んでくれた。
「加藤さんが優しくていい人で良かったです」

「こちらこそ、ご担当が岩崎さんで本当に良かったと思ってました」

 わたしたちは何、褒め合っているんでしょうね、と言いながら、顔を見合わせて、ふふっと笑いあった。

「苗字で呼び合うのも、なんだか堅苦しいですよね。えーと、優紀さんって呼んでもいいですか?」

「もちろん、岩崎さんは」

りつっていいます。男みたいでしょう」
「いいえ、とっても素敵な名前。じゃあ、律さんでいいですか」

 彼女は、はいと元気に答えた。
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