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第10章〈最終レッスン〉一周年記念パーティーにて

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 わたしたちは打ち上げから早々に部屋に引き上げた。

 ビールかけ被害のせいだ。

 でも、二人ともかなり疲れていたので、それはそれで、いい口実になった。

「うわ、まだ、べたべたしてる。気持ちわるっ」

「早くシャワー浴びなきゃ」
 玲伊さんはシャワーブースに直行し、わたしは着替えやタオルを持って、後に続いた。
「タオル、置いておくね」とわたしが言うと、中から「優紀も浴びたらいい」と彼。
「うん」とわたしも言葉を返した。

 ここで暮らしはじめたころなら、絶対にためらうシチュエーションだ。

 でも慣れというのは恐ろしいな、と思いつつ、ドレスを脱ぎ、彼の待つシャワーブースに入っていった。

 贅肉というものがまったくない、引き締まった彼の体は芸術品のようで、感心して見とれてしまう。
 西洋の美術館に陳列されている古代の彫刻にも、まったく引けをとらない。

 遠目で眺めていて、なかなかそばにいかないわたしに焦れて、彼は手を差し伸べる。

「おいで、優紀」

 その手を握るとぐっと引かれ、すでに全身に水滴を滴らせている玲伊さんの胸に抱きとめられた。

「あのドレスを着た優紀、あまりにも色っぽくてさ。早くこうしたくてうずうずしてたよ」

 耳に密のような甘い言葉を注ぎ込まれて、それだけで、わたしはすっかり骨抜きにされてしまう。

 さっと体を洗い、シャンプーもしてもらい、それから、絶え間なく降り注ぐシャワーに打たれながら口づけを繰り返した。

「優紀……」

 彼は腕に一層の力をこめて、わたしを抱きよせる。
 すでに張りつめている彼の欲望がわたしのお腹のあたりで存在感を示している。

「そっちに手をついてごらん……」
 欲情にかすれた声で彼が言う。
「ん……」
 そして、わたしも、素直に彼の言うことをきいてしまう。

 彼の手がわたしの双丘を押し開き、確かめるように狭間を行き来する。

「ああんっ……」

 彼の指が繊細な動きで敏感な部分を弄りはじめ、もう片方の手は胸を揉みしだき……

 狭いブースのなか、シャワーの水音と喘ぎ声が満ちてゆく。

 すると、彼の手の動きが急に止まった。

「えっ?」
「もっとしてほしい?」

 わたしは首だけ回して、もちろんと目で訴える。
 あんなことをされて、情欲を焚きつけられて、普通でいられるわけがない。

「でも、今は……ここまでにしておくよ。後でたっぷり可愛がってあげるから」
「どうして?」

 玲伊さんはちょっと困った顔をして、それから耳朶をそっと嚙みながら囁いた。
 
「ちょっと興奮しすぎてる。今、優紀のなかに入ったら、一瞬で暴発しちゃいそうだからさ」と。

 あけすけで正直な言葉に、わたしは顔を赤くして俯き、それから答えた。
「うん、わかった」

 彼は顔にかかっているわたしの髪を両手で後ろに回し、それから唇を啄んだ。

 ふたりともバスローブだけ身に纏い、玲伊さんはこんなときでも丁寧にわたしの髪を乾かしてくれた。
 
「もう一度、乾杯するか」
 そう言って、彼は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、ナッツをお皿に乗せてソファーテーブルに置いた。
 
「リインカネーションの一周年と、優紀のリインカネーション(再生・転生)に、あらためて乾杯」

 グラスを合わせてきた彼に、わたしは尋ねた。

「わたしの〝リインカネーション〟って?」
「ああ。今日限りで、もう過去を思い悩むことはなくなるだろう?」
「あ、本当に」

 彼は微笑み、それからわたしの髪に指を絡めた。

「それにしても今日の優紀は本当に素敵だった。惚れ直したよ」
「でも全部、玲伊さんのおかげだから」

 彼はわたしの髪を口元に持っていき、軽く口づけをしながら、わたしを見つめる。
「いや、俺は導いただけ。優紀の努力が実を結んだんだよ」

「そうだ。わたし、これからもエクササイズ続けたい。体が軽くなると調子がいいことがわかったから」
 
「ああ、いいんじゃないかな。結婚式も控えてるしな。でもあんまり筋肉をつけないように気をつけろよ。優紀、ハマると徹底的にやるだろ」
 と言いながら、彼はわたしの二の腕を撫でた。

「うん、そうだね。気をつけます」

「あー、それにしても、いい夜だ」
 彼は甘えるように、わたしの肩に頭をもたせかけてきた。

 その様子がなんだか子供みたいで、わたしは腕を回すと、彼の頭をそっと撫でた。

 仕事中の彼からは、とても考えられない無防備な姿。
 わたしだけが知っている玲伊さん。
 わたしの心に彼への想い、そして愛おしさが募ってゆく。

「しかし、さすがに疲れたね、今日は」と玲伊さんは大きなあくびを一つした。

「一日中、店中を駆けまわっていたんだもんね。お疲れ様……あれ、玲伊さん?」

 横を向くと、彼は腕を胸の前で組み、目をつむっていた。

 睡魔には勝てなかったようでそのうち、スース―と寝息が聞こえてきた。
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