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第10章〈最終レッスン〉一周年記念パーティーにて

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 あ、わたしによりかかったまま、寝ちゃった。

 本当に疲れていたんだ。
 起こしてはかわいそうだと思ったわたしは、しばらく、そのままの姿勢で彼の寝息に耳を澄ましていた。

 他には何の音もしない、静謐な夜更け。

 世界にいるのはわたしたち二人だけのように錯覚してしまいそうになる。

 そして、そのことがこの上なく幸せで……

「う……ん」
 彼が身じろぎしたのを合図に、わたしは、そっと彼の唇に自分の唇を重ねた。

「優紀……」
「起きてた?」
「ほんの少し前にね」

 そう言うと、彼はわたしの腕をひっぱった。
 そして、ソファーに重なりあって倒れこんだ。

「あん、玲伊さん」

 彼はわたしの首に手を回し、下から見つめてきた。

「初めてだね。優紀が自分からキスしてくれたのは」

「うーん、前にも、したことあったけど」
「あのときは、言われたからだろう。でも、今日は違った」

 その様子があまりにも嬉しそうだったので、わたしは身を屈めて、もう一度、唇を重ねた。
 
 はじめは大人しくわたしのキスを受けていた玲伊さんだったけれど、そのうち、ほのかにビールの味のする舌がわたしの口腔を這いまわりはじめて、形勢はすぐに逆転してしまった。

 わたしを抱いたまま、彼は起き上がり、逆にわたしの背をソファーに押しつけ、唇を激しく貪りはじめた。

 気が遠くなるほど長いキスから解放されたとき、わたしは囁いた。

「ねえ、疲れているんじゃなかったの?」

「今、少し寝たから平気だ」
「でも、5分も寝てない」そう言って、わたしは笑った。

 彼はふっと微笑みを漏らすと、ちょっと不満げな声で言った。

「レッスンの成果が出すぎたみたいだな。優紀、何されてもぜんぜん動じなくなったよね。前は、ちょっと深いキスしただけで、顔を真っ赤にしていたのに」

 わたしは笑顔のまま、答えた。
「先生の熱心なご指導のおかげで」

 そんなわたしの鼻先を彼はちょんとつつく。

「本当に生意気な生徒だな。でも、そんなことを言っていられるのも今だけだよ」
「きゃっ」

 彼はわたしを抱き上げ、口づけを落としながら、そこから一番近い、ゲストルームのベッドに運んでいった。

 わたしをベッドに横たえると、彼はすぐ、わたしのバスローブのベルトをほどいた。
 そして、自分のバスローブも脱ぎ去った彼にすぐ、組み敷かれてしまう。

 両腕をまとめて頭の上で押さえると、彼は囁きながら、首筋に顔を埋める。

「優紀……愛してる」

 素肌が重なり合い、わたしは安堵に似たため息を漏らす。

 彼の唇は、額に、頬に、首筋に這いまわる。

 そのうち、さっきのシャワーブースで火を付けられた、たまらなく悩ましい感覚に、ふたたび捉えられてしまう。

「あ……ん、玲伊……さん」

 彼は半身を起こすと、熱のこもった視線をわたしに据えた。

 そして、わたしが弱いところを熟知している彼の指は、両方の胸の尖端を同時にそっと撫でさすりはじめた。

「やっ、ああん……」

 感じている様を余すところなく見られていることの羞恥と、じわじわと脚の間に熱がたまってゆくような快楽に、わたしは声をあげながら、いやいやするように首を左右に振る。

「ああ、可愛いよ……もっと感じてみせて」

 彼は片方の指をわたしの中心に這わせてゆく。
 それから、手で脚を押し開くと、そこに顔を伏せて、舌で弄びはじめた。

「ああ、あん、はぁ……ん」
 もうとても、声を抑えられなかった。

 絶え間なく漏れるわたしの声に煽られ、彼の行為も激しさを増してゆく。

 わたしが幾度も絶頂に達し、声も枯れはてたころ、ようやく彼がわたしを押し開いた。

「あぁ」
 二人で同時に、ため息のような声を上げる。

「ゆ……うき」
 今までにない激しさで抱かれながら、必死で目を開けて、わたしは彼を見つめ続けた。

 情欲に身を焦がす、この世のものとは思えないほど美しい彼……わたしだけが知っている玲伊さんの姿を。

「れ……いさ……ん」

 まるで祈りを捧げるかのように、わたしは彼の名を呼んでいた。

 そんなわたしの声に答えて、彼は、まるで自分の存在をわたしに深く刻みつけるかのように、激しくわたしを貪りつづける……

 わたしが欲しているように、彼もわたしを欲してくれている。

 そのことが、何よりもわたしを陶然とさせた。

 そして、心も体も、未知の快楽へといざなわれていった。
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