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58話 他視点
しおりを挟む「あの番が【ファティナの花】を持ち帰っただと」
大神殿の大司教の部屋で、司教の報告に大司教は声を荒げた。
ルヴァイスが意識を取り戻して2ケ月。
意識を取り戻したルヴァイスは教団排除の方向を隠すことなく行動しはじめた。
いままでは番ソフィアを外に出す事すらしなかったはずが、エルフの末裔と大々的に宣言し、【聖気】に頼らぬ世界をと、宣言したのである。
「はい、どうやらエルフの血を引いていたようです。
市民は【金色の聖女】とソフィア様をほめたたえています。
そしてわが教団に資金援助していた貴族たちは教団から距離をおきはじめました。
おそらく【ファティナの花】の栽培の利権にあやかろうと王族派に寝返るつもりかと」
そういって、申し訳なさそうに書類と大司教を交互に見る。
【金色の聖女】
それは教団が出来上がるよりずっと前から竜人の間で言い伝えられている伝説。
竜人たちに危機が訪れるその時現れる伝説の聖女。
竜人たちを幸せに導くだろうと予言された存在。
最近の不作の中、ファテナの花をもたらしたことによりそういったうわさが自然に広まったのだろう。
(あともう少しだったのに、あの女忌々しい!!
これでは我々は、存在意義を失ってしまう!!
この800年間、竜王国を支えてきた我々が!!
そんなことを許すものか!!)
大神官はばんっと机をたたくのだった。
◆◆◆
「ずいぶん大々的にやるんですね。もっと隠すのかと思っていました」
ジャイルの研究室で、研究の成果を確認に来ていたルヴァイスにジャイルが話しかけた。
「ファティナの花を広めたことか?」
「ええ、ソフィアちゃんを表舞台にだすとはおもいませんでした」
ソフィアがエルフの末裔であり、【ファテナの花】を持ち帰ったと大々的に宣伝してからルヴァイスの机にはソフィアと謁見したいという竜人の国の貴族からの手紙や、竜神以外に人間の王国もぜひお目通りをと書簡が送られてきている。
「もし私に何かあったときに、私がいなくてもやっていけるようソフィアの地位を盤石にしておく必要がある。信用できる貴族の支持を取り付けておかねばならぬだろう。
【聖気】をつくれる【ファティナの花】の栽培をはじめれば神殿連中の権威も落ちる。今までのように好き勝手にはできぬ」
「さすがのルヴァイス様も今回の件で弱気になりましたか」
「……ああ、そうかもな」
そういって、ルヴァイスはソファに座りながら腕を組んだ。
自分の庇護下で守るにしてもそれはルヴァイスが常に守ってやれることが前提だ。
今回のようにルヴァイスに何かあったとき、守れない。
弟に頼むにしても、ルヴァイスが権威を失えば、神殿は弟のラディスにではなく従兄を王位につけようとするだろう。
神殿にいいなりの従兄が王位についてしまってはソフィアも研究所も守れない。
そんなことを考えていると、思いっきり引いた顔でジャイルがルヴァイスを見つめていた。
「……なんだその不服そうな顔は」
「いや、そこで認めるなんてルヴァイス様らしくない。
熱でもあるんじゃ?」
「お前はいつも一言余計だ」
そう言ってジャイルの頬をつねる。
病床に伏せっていた間、何か忘れてはいけないことがあったはずなのに思い出せない。
そのせいか常に不安だけがつきまとっている。
誰が向けていたソフィアに対する異常なほどの悪意。
なぜか教団からソフィアを守らないければいけないと気持ちが焦る。
守ると宣言するだけなら簡単だ。
だが、それが実行できぬなら何も意味がない。
今回のようにルヴァイスが病に伏せってしまい、後ろ盾なくなれば教団は間違いなく刃をソフィアと研究員に向けるだろう。彼らが教団に排除されるようなことになってはならない。
できる事ならソフィアを前面に出すことなく守ってやれるのが理想だが、自分の体が呪われ、いつ命を落とすかわからない状態の今、ソフィア本人にも力をつける必要がある。
「私に何かあってもソフィアや研究所が守られる体制をつくる。
手始めにソフィアを疎ましく思っている教団の力をそぐことが先決だ。
そのためにはソフィアにも力を貸してもらうしかあるまい」
ルヴァイスの言葉にジャイルはふむと頷いた。
「やっぱり頭でもうったんですかね」
「だからなぜだ」
ルヴァイスが半眼でジャイルを睨みつけるのだった。
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