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第一部 第三章 それぞれの闇と求める希望の光
1 少年は初めて逢ったその瞬間に恋を知る リーヴァイSide
しおりを挟むあれは今より……もう二十二年前になるのだな。
あの日は宮殿の中庭よりも奥まった場所にあるそこは歴代の后妃お気に入りの薔薇園で、当時はまだご存命であられた后妃陛下主催の……とは申してもだ。
招待されていたのは皇族並びに皇帝一家、そして親交の深いごく一部の貴族達だけで行われる私的なお茶会だった。
当然俺は大公家嫡男故に拒否は許されよう筈もなく、またその内容を容易に想像出来る事によりあの頃の俺は不承不承と言った体で宮殿へ伺候したのだ。
一緒に伺候した両親は先に両陛下へ挨拶に赴いていた。
また本来ならば俺も同席せねばならなかったのだがそこはまだ何と言っても6歳児。
両親へ無理を言えば誕生日が一ヶ月違いの従兄である皇太子エイドリアン、そのエドの宮へ行くとは言えどもそこは断じて一人ではない。
皇弟であり現大公の嫡男故に護衛の騎士と守り役と言う名の監視人バートとメイは、たった二歳しか変わらないのにも拘らず何時も俺を何かと弄りたい放題――――何て事は今と然して余り変わりがないな。
特に問題なのはメイよりもバートだ。
メイは優秀な武人ばかりを排出するジプソン子爵家の者だけにあの頭の中と言うか、全身筋肉で出来ていると言っても過言ではない。
だがバートは違う。
武術は当然の事ながらあいつの頭脳はぴんぴんに研ぎ澄まされ、切れ味の良過ぎるナイフの様に切れる上に加えて冷酷非情な人間だったな。
あの頃はまだ8歳の子供にも拘らず、あいつだけは何時も何処か違う所を見えている様にしか思えなかった。
いや、今もそれも余り変わらない。
そしてあの頃の俺はそんな奴らをどうにかしてぎゃふんと言わせたい。
まだ何も知らなかった6歳児の俺は慣れ親しんでいる宮殿は自宅同様何処よりも安全な場所なのだと、愚かにもその様な甘い考えで以ってある行動を起こしたのだ。
まあ行動とは言ってもそこは子供らしく単なるかくれんぼ――――なのだがな。
しかし場所は広大な宮殿とそれをぐるりと囲む広大なる敷地。
小さな6歳児一人が隠れる場所何てそれこそ何処にでも存在したのだ。
それと同時に危険も……な。
折しもその頃は帝国内において皇帝陛下の政へ反意を示す高位の貴族一派が存在していたのだ。
然もそ奴ら達は当時敵対関係にあった隣国とどうやら内通を重ねていたらしい。
また幾ら皇族とは言えその頃の俺は単なる6歳児の子供でであり当然込み入った大人達の事情も詳しくは教えて貰えず、いや違う。
俺は単なる、そう何処にでもいる無知な子供に過ぎなかったのだっ。
何故なら馬鹿な俺は、ただ気心の知れた男友達と遊びに耽るか魔導力と魔法について時間の許す限り研究室へと籠り、好きな研究だけをしていたいガキに過ぎなかったのだ。
だから両親や大人達……バート達ですら単なるお子様だった俺へ敢えて何も言わなかったのだろう。
ああ違うな。
あいつらを決して責めている訳ではない。
ただ俺が余りにも愚かな人間だったと言う事なのだっ。
広大な宮殿には建物だけではなく森もあれば小川や小さいけれども湖ももあった。
そして幾つもの、それこそ馴れている者でさえ迷子になりそうなくらい緻密に作られた庭園等は恰好の隠れ場となる。
宮殿内にある部屋数だけでも多分二百はあるだろう。
それに加えての――――である。
人一人いなくなってもわからないくらいの場所を俺は何故か全て把握している心算となれば、その瞬間が訪れるまで傲慢にも高を括っていたのだ。
そう、皇族の中で一番暗殺し易い者を狙っていた連中にしてみれば、俺は実に恰好の獲物だっただろう。
何と言っても俺自身が奴らの方へ飛び込んだのだからな。
最初は護衛の騎士を、そうしてバート達を庭園で撒いた後思わぬ成功に酔いしれた俺は簡単に、ああいとも簡単に囚われかけたのだ。
まあ囚われる瞬間に覚えたての魔法を行使しその場は一応難を逃れはした。
だが事態は何ら変わってはいないのが現状。
そこは宮殿より少し離れた庭園で、茶会を催されるバラ園よりも離れていた。
必然的に助けは早々にくる事がないくらい馬鹿で愚かなガキにでも十分過ぎる程の理解は出来ていた。
しかしそれでもだ、俺は泣きたいのを必死に我慢すれば生まれて初めて味わう恐怖と不安、そして後悔の念が綯い交ぜとなる中でも必死に生きて再び両親へ、母上へ会いたいと強く願ったのだ!!
だからここは何としても上手く逃げ果せなければっ、早く宮殿を警備する騎士や兵達へ合流しなければとそればかりを願っていた。
途中何度もこけては身体のあちこちが血だらけになりながらも必死に逃げ回っていた。
場所何てその時にはもう全くわからない。
本当にここは俺の知っている宮殿なのかと、少し前の俺自身へ問い正しかったけれどもだっ。
それはその先を無事に生きていれば……の出来る事であり、殺気を放つ刺客より今現在進行形で必死に逃げている俺には出来ない事であった。
「あれ、ここは……?」
必死に逃げ惑っていた。
だがふと気が付けば偶然にもそこは俺の良く見知っている場所だった。
そうここはバラ園より少し離れた、幼い頃よく母上と一緒に来た――――。
「リーヴァイっ⁉」
覚えているのはこちらへ必死に、そう何時もの大公妃然としたドレスの裾を捌き優雅に歩いている母上のものではなく必死の形相で重いドレスを振り乱し、一人こちらへと全力で駆けてきた母上は――――!?
「伏せなさいっ、リーヴァイ!!」
目の前で今までに見た事のない極大魔法を一瞬で行使していたのだった。
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