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3.面倒な第二王子
④
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「サイラス、大丈夫よ。ただの水だしどうってことないわ」
「しかし……!」
「本当よ。ねぇ、ミリウス様」
私はサイラスを制して、ミリウスに向き直る。
「なんだ」
「私も自分がかわいそうだと思っていました。誰も彼も憎くて、どうして私がこんな目に遭わなければならないのかわからなくて、喚き散らしたくなったこともあります」
一度目の人生では、実際にそうしたのだ。王子に何度も納得がいかないと喚き散らし、果てはカミリアの暗殺まで依頼した。私にはその権利があると思った。
私は自分を哀れんでばかりいた。私を捨てたジャレッド王子が憎くて、私を陥れたカミリアが憎くて。
「でも、そうしたところで何も手に入りませんでした。もがいているうちに、本当に大切なものまで失ってしまったんです。とても後悔しました」
王子とカミリアへの恨みを忘れられなかった結果、私はサイラスを死なせてしまった。彼が生きているうちはその優しさに気づくことすらなかった。
そうなって初めて、自分が執着していたものに何の価値もないことを知ったのだ。本当に大切にするべきものは別にあったのだと。
「だから、もう気にしないことにしたんです。自分を哀れむのはやめました。公爵に見捨てられたと言っても私は衣食住足りた生活をさせてもらっていますし、命を脅かされることはありませんもの。
それに、婚約破棄以降色んな人が私から離れていきましたけれど……でも、王子を敵に回した令嬢から距離を取るのは仕方ありませんわ。それより、変わらない態度で接してくれる人を大切にしようと思うんです」
婚約者に裏切られたことも、聖女に危害を加えた嫉妬深い令嬢だと汚名を着せられたことも、今となってはどうでもいい。それで離れていく人がいても構わない。
だって本当に大切なものは、ちゃんと残っているもの。
言いきって顔を上げたら、ミリウスはぽかんとした顔で私を見ていた。サイラスもミリウスの従者たちも呆気に取られたように私を見つめている。
「お前、本当にエヴェリーナか?」
ミリウスが上擦った声で言った。
「エヴェリーナでなかったら誰だと言うんです?」
「いや、その……」
ミリウスはさっきまでの威勢はどこへやら、途端に歯切れが悪くなる。
従者たちはミリウスの勢いが削がれたと見ると、慌てた様子で彼をテーブルから引き離す。従者の一人がこちらに頭を下げてきた。
「しかし……!」
「本当よ。ねぇ、ミリウス様」
私はサイラスを制して、ミリウスに向き直る。
「なんだ」
「私も自分がかわいそうだと思っていました。誰も彼も憎くて、どうして私がこんな目に遭わなければならないのかわからなくて、喚き散らしたくなったこともあります」
一度目の人生では、実際にそうしたのだ。王子に何度も納得がいかないと喚き散らし、果てはカミリアの暗殺まで依頼した。私にはその権利があると思った。
私は自分を哀れんでばかりいた。私を捨てたジャレッド王子が憎くて、私を陥れたカミリアが憎くて。
「でも、そうしたところで何も手に入りませんでした。もがいているうちに、本当に大切なものまで失ってしまったんです。とても後悔しました」
王子とカミリアへの恨みを忘れられなかった結果、私はサイラスを死なせてしまった。彼が生きているうちはその優しさに気づくことすらなかった。
そうなって初めて、自分が執着していたものに何の価値もないことを知ったのだ。本当に大切にするべきものは別にあったのだと。
「だから、もう気にしないことにしたんです。自分を哀れむのはやめました。公爵に見捨てられたと言っても私は衣食住足りた生活をさせてもらっていますし、命を脅かされることはありませんもの。
それに、婚約破棄以降色んな人が私から離れていきましたけれど……でも、王子を敵に回した令嬢から距離を取るのは仕方ありませんわ。それより、変わらない態度で接してくれる人を大切にしようと思うんです」
婚約者に裏切られたことも、聖女に危害を加えた嫉妬深い令嬢だと汚名を着せられたことも、今となってはどうでもいい。それで離れていく人がいても構わない。
だって本当に大切なものは、ちゃんと残っているもの。
言いきって顔を上げたら、ミリウスはぽかんとした顔で私を見ていた。サイラスもミリウスの従者たちも呆気に取られたように私を見つめている。
「お前、本当にエヴェリーナか?」
ミリウスが上擦った声で言った。
「エヴェリーナでなかったら誰だと言うんです?」
「いや、その……」
ミリウスはさっきまでの威勢はどこへやら、途端に歯切れが悪くなる。
従者たちはミリウスの勢いが削がれたと見ると、慌てた様子で彼をテーブルから引き離す。従者の一人がこちらに頭を下げてきた。
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