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8.リーシュの祭典

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 リスベリア王国では、一年に一度、この国を作ったと言われる女神リーシュ様と英雄ベルン様を称える祭典が行われる。

 お祭りは一日かけて行われ、たくさんのお店が出たり、建国の歴史を元にした演劇が行われたりと、王都中が大変賑やかになる。

 祭典のメインになるのは、夜に王族たちが光魔法で照らされた馬車に乗って王都を回るパレードと、神殿関係者による祈りの儀式の二つだ。

 先日までジャレッド王子の婚約者だった私は、祭典の日には毎年彼と一緒の馬車に乗り、にこやかに手を振りながら王都を回っていた。

 今年はその席にカミリアが座ることになるのだろう。一度目の人生でそれを聞かされた私は、荒れに荒れたのを思い出す。

 自分の代わりを別の女が務める光景なんて見たくなくて、もちろん祭典には参加しなかった。

 けれど、国を挙げてのお祭りだから当然話は聞こえてきて、非常に不愉快だったのを覚えている。


 ……今は、何をそんなに荒れていたのかちっともわからない。

 十歳からずっとジャレッド王子と共に参加していた祭典は、窮屈で緊張して、疲れて仕方ない行事だった。

 ジャレッド王子は時間が空けば早々に私を放ってどこかへ行ってしまうし、一部の人たちからは次期王太子妃としてやっかみの目で見られるしで、楽しいことなんてひとつもない。

 王太子の婚約者として祭典に参加できるという名誉が与えられる以外、メリットは何もないのだ。

 今の私には名誉など興味がなく、もちろんジャレッド王子にも何の興味もないので、祭典に参加しなくていいことはむしろ喜ぶべきことだった。


「お嬢様、少しよろしいでしょうか」

「どうぞ!」

 ノックの音とともにサイラスの声が聞こえてきたので、急いでドアの前まで駆けて行く。私の顔を見ると、サイラスは優しく微笑んだ。

「どうしたの、何か用事でも?」

「実は、お嬢様にお願いしたいことがあって……」

 尋ねると、サイラスは躊躇いがちに言う。

 私のほうから散々何かして欲しいことはないのか聞いて頼みを引き出すことはあったけれど、サイラスからお願いされるなんて初めてのことだ。

 私は張りきって身を乗りだす。

「何なに? いいわよ。なんでも聞いてあげるわ!」

「あはは、まだ内容を言ってないのにいいんですか?」

「もちろん。サイラスの頼みならなんだって全力で叶えてあげるから」

 そう言ったらサイラスはくすくす笑いだす。

「実は、来週あたりにディラン様の住むシュティアの街に行きたいんです。ディラン様に連絡をしたらお屋敷に泊めてくださるとおっしゃり、旦那様も快く休みをくださったのですが……」

 サイラスはそう言ってちょっと迷うような仕草をした。

「私一人だと心細いので、お嬢様も一緒に来てくれないでしょうか?」

 遠慮がちにそう言うサイラス。

 シュティアの街とは、私の二番目の兄であるディランお兄様が住む街だ。

 王都のすぐ隣にあるアメル領からは少し離れた場所にある。といっても、リスベリア王国自体小さな国だし、そこまで距離があるわけではない。

 私は首を傾げてサイラスを見た。

「シュティアの街に行くのが心細いの? お屋敷の仕事でほかの街に一人で行かされることよくあるじゃない」

「行きますが、シュティアの街は遠いので」

「そうなの? なんだか不思議ね。でも、もちろんいいわよ。一緒に行きましょう」

 ちょっと疑問に思いながらもそう言ってサイラスの手を両手で握ったら、サイラスは少し顔を赤らめて、嬉しそうにお礼を言ってくれた。
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