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8.リーシュの祭典
④
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「それじゃあ、ジャレッド王子とカミリアに挨拶に行きましょうか……。憂鬱だけど」
私は面倒になる気持ちを押し殺して言った。サイラスは神妙な顔でうなずく。
ジャレッド王子とカミリアは、この時間帯はお城のほうにいるらしい。手紙にはそう書かれていた。私とサイラスはお城のほうまで足を進める。
二人の姿はすぐに見つかった。
城門の前に人だかりが出来ており、その真ん中に着飾ったジャレッド王子とカミリアが笑みを浮かべて並んでいたのだ。
人々の合間を縫って近づくと、カミリアと目が合った。カミリアは大げさに驚いた顔をした後で、やけに明るい声で私を呼ぶ。
「エヴェリーナ様、来てくださったんですね!」
カミリアの言葉を聞いて、人々の視線がこちらに集中する。
私は作り笑いを浮かべて近づいた。カミリアの隣のジャレッド王子も私の存在に気づいたようで、自分で呼び出したというのにいかにも嫌そうな顔でこちらを見る。
「ジャレッド殿下、カミリア様、先日はわざわざお手紙をいただきありがとうございます。ご挨拶に参りました」
「あぁ、エヴェリーナ。カミリアがどうしても君を呼びたいと言うので手紙を出したんだ。ほら、君はカミリアと……色々あっただろう? 優しいカミリアは、君が自分に対してやってしまったことで気まずい思いをして、国の大切な行事であるリーシュの祭典にも参加しづらいのではないかと考えたらしいんだ」
人が大勢見ているからか、ジャレッド王子は嫌そうな顔をすぐに引っ込め、感じのいい態度で返事をした。しかし言葉の節々に悪意が混じっている。
色々あっただの、私がカミリアにやってしまったことだのと意味深なことを言うせいで、そばに集まっていた人々は困惑顔をしていた。
「ジャレッド殿下、お嬢様は……」
サイラスがジャレッド王子に向かって何か言いかけたので、私は慌てて制した。
「カミリア様、お気遣いありがとうございます。おかげで今年も気兼ねなくリーシュの祭典に参加できましたわ」
何か言いたげにこちらを見るサイラスに首を振って、カミリアに向かって言う。
カミリアは頬に手をあて、甘ったるい声で言った。
「いいえ。リーシュの祭典はリーシュ様とベルン様を称える大切なお祭りですもの。いろいろあったとはいえ、エヴェリーナ様にも参加して欲しいですわ」
ジャレッド王子もカミリアも、まるで周りに印象付けるのが目的かのように「いろいろあった」を強調する。
私はこの場にいる人たちからは、嫉妬でカミリアに嫌がらせをしておいて、そのカミリアにお情けで祭典に呼んでもらった哀れな令嬢に見えているのかもしれない。
けれど、この場でやっていないと否定したところで堂々巡りになるだけだ。
王太子と王太子お気に入りの聖女の言葉を覆すことがどれだけ難しいかなんて、一度目の人生で嫌というほど思い知らされた。
私は何も反論せずに二人に笑みを返す。
すると、カミリアがすっとこちらへ近づいてくる。彼女はそっと私の手を取り、両手で握りしめた。
「エヴェリーナ様、私あなたに以前されたことはとても悲しかったですが、こんな風に笑い合えるようになって嬉しいんです」
「まぁ、そんなことを言っていただけるなんて光栄ですわ」
「祭典の最後に神殿の者たちで式を行うことはご存知ですよね? 仲直りのしるしに、ぜひエヴェリーナ様にもいらして欲しいわ」
カミリアは私の手を握りしめたままそんなことを言う。
「いえ、私は……」
「私、聖女として舞台で祈りの言葉を捧げる予定なんです! ぜひエヴェリーナ様にも見ていただきたいわ。だから絶対に最後までお祭りにいてくださいね。祭典が終わったら、最後にまたお会いしましょう?」
カミリアはまるで友人に語りかけるかのように、親しみのこもった口調で言う。
言葉だけ聞いていれば悪意など何も感じられない。しかし、彼女はつまり私に「最後まで祭典にいろ」と命令しているのだ。自分が去年まで持っていた立場を失った祭典を、最後まで眺めていろと。
もしも私が一度目の人生のようにジャレッド王子の婚約者でなくなったことを嘆いていたのなら、それはそれは残酷な仕打ちだっただろう。
私は面倒になる気持ちを押し殺して言った。サイラスは神妙な顔でうなずく。
ジャレッド王子とカミリアは、この時間帯はお城のほうにいるらしい。手紙にはそう書かれていた。私とサイラスはお城のほうまで足を進める。
二人の姿はすぐに見つかった。
城門の前に人だかりが出来ており、その真ん中に着飾ったジャレッド王子とカミリアが笑みを浮かべて並んでいたのだ。
人々の合間を縫って近づくと、カミリアと目が合った。カミリアは大げさに驚いた顔をした後で、やけに明るい声で私を呼ぶ。
「エヴェリーナ様、来てくださったんですね!」
カミリアの言葉を聞いて、人々の視線がこちらに集中する。
私は作り笑いを浮かべて近づいた。カミリアの隣のジャレッド王子も私の存在に気づいたようで、自分で呼び出したというのにいかにも嫌そうな顔でこちらを見る。
「ジャレッド殿下、カミリア様、先日はわざわざお手紙をいただきありがとうございます。ご挨拶に参りました」
「あぁ、エヴェリーナ。カミリアがどうしても君を呼びたいと言うので手紙を出したんだ。ほら、君はカミリアと……色々あっただろう? 優しいカミリアは、君が自分に対してやってしまったことで気まずい思いをして、国の大切な行事であるリーシュの祭典にも参加しづらいのではないかと考えたらしいんだ」
人が大勢見ているからか、ジャレッド王子は嫌そうな顔をすぐに引っ込め、感じのいい態度で返事をした。しかし言葉の節々に悪意が混じっている。
色々あっただの、私がカミリアにやってしまったことだのと意味深なことを言うせいで、そばに集まっていた人々は困惑顔をしていた。
「ジャレッド殿下、お嬢様は……」
サイラスがジャレッド王子に向かって何か言いかけたので、私は慌てて制した。
「カミリア様、お気遣いありがとうございます。おかげで今年も気兼ねなくリーシュの祭典に参加できましたわ」
何か言いたげにこちらを見るサイラスに首を振って、カミリアに向かって言う。
カミリアは頬に手をあて、甘ったるい声で言った。
「いいえ。リーシュの祭典はリーシュ様とベルン様を称える大切なお祭りですもの。いろいろあったとはいえ、エヴェリーナ様にも参加して欲しいですわ」
ジャレッド王子もカミリアも、まるで周りに印象付けるのが目的かのように「いろいろあった」を強調する。
私はこの場にいる人たちからは、嫉妬でカミリアに嫌がらせをしておいて、そのカミリアにお情けで祭典に呼んでもらった哀れな令嬢に見えているのかもしれない。
けれど、この場でやっていないと否定したところで堂々巡りになるだけだ。
王太子と王太子お気に入りの聖女の言葉を覆すことがどれだけ難しいかなんて、一度目の人生で嫌というほど思い知らされた。
私は何も反論せずに二人に笑みを返す。
すると、カミリアがすっとこちらへ近づいてくる。彼女はそっと私の手を取り、両手で握りしめた。
「エヴェリーナ様、私あなたに以前されたことはとても悲しかったですが、こんな風に笑い合えるようになって嬉しいんです」
「まぁ、そんなことを言っていただけるなんて光栄ですわ」
「祭典の最後に神殿の者たちで式を行うことはご存知ですよね? 仲直りのしるしに、ぜひエヴェリーナ様にもいらして欲しいわ」
カミリアは私の手を握りしめたままそんなことを言う。
「いえ、私は……」
「私、聖女として舞台で祈りの言葉を捧げる予定なんです! ぜひエヴェリーナ様にも見ていただきたいわ。だから絶対に最後までお祭りにいてくださいね。祭典が終わったら、最後にまたお会いしましょう?」
カミリアはまるで友人に語りかけるかのように、親しみのこもった口調で言う。
言葉だけ聞いていれば悪意など何も感じられない。しかし、彼女はつまり私に「最後まで祭典にいろ」と命令しているのだ。自分が去年まで持っていた立場を失った祭典を、最後まで眺めていろと。
もしも私が一度目の人生のようにジャレッド王子の婚約者でなくなったことを嘆いていたのなら、それはそれは残酷な仕打ちだっただろう。
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