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ジャレッドとカミリアのその後
①
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「もういや……一体いつまで続ければいいの……」
古びた修道院の奥まった一室。私はテーブルの上に積み上げられた大量の魔道具を眺めながら呻き声を上げた。
何百個もあるこの魔道具に、今日中に全て魔力を込めなければならないのだ。これが終わっても仕事が終わるわけではない。修道院の掃除、洗濯場の皿洗い、裏の畑の農作業。やることは山程ある。
国王陛下に更生するようにと与えられた罰だけれど、私が罰を受けなければならない意味がわからなかった。
どうして聖女の私がこんな面倒なことをしなきゃならないの?
今、私がいるのはリスベリア王国の最北にある辺鄙な村だ。私の出身の町だって結構な田舎だったけれど、ここはそこ以上に何もない。
あるのは荒涼とした大地と、数件の家、寂れたお店一つと……、それくらい。病院すら隣の村まで行かなければないのだ。
私は少なくとも数年はここで労働をしながら暮らさなければならないらしい。帰れるのはいつになるのかわからない。もしかすると一生このままなんじゃないかと考えると心底ぞっとした。
今の私にあるのは、悪用できないように腕輪を嵌められて制限された聖魔法の力だけだ。何も持っていないし、力になってくれる人もいない。
一緒にここに送られた美しい王子だったはずのジャレッド様は、今は平民のようにくたびれた服を着て、朝から晩まで農民に混じって荒れ果てた地を耕している。
あまりにみすぼらしいその姿に、涙が滲みそうになった。こんな男に好かれて喜んでいたなんて馬鹿みたい。
あんなに私に夢中だったはずの彼は、今では私を見かける度にいまいましそうに顔を背ける。
腹立たしいけれど、顔を見たくないのはこちらとて一緒なのでそれは別に構わなかった。
私が好きだったのは、王太子で、いつも綺麗な服を着て、みんなにかしずかれているジャレッド様なのだから。
どうしてこんなことになったんだろうと、憂鬱な思いでため息を吐く。
聖魔法の力に目覚めた私は、全てを手に入れたはずだったのに。
***
エヴェリーナ・アメルを暗殺未遂の容疑で王宮に呼び出した後、私とジャレッド様は国王陛下に大変なお叱りを受けた。
ジャレッド様は、国王陛下は今隣国との衝突が起こった地域に出向いていて忙しいから、今なら自由にやっても構わないと言っていたのに。
暗殺未遂の騒動を知った陛下は、わざわざ王宮まで戻って来て私たちとエヴェリーナの間に起こったことを調査し始めた。
結果、私がついたエヴェリーナに嫌がらせされたという嘘も、ジャレッド様と二人でエヴェリーナを王宮や祭典に呼び出して追い詰めたことも、証拠不十分のまま暗殺未遂の容疑者と決めつけたことも、全てバレてしまった。
陛下はアメル家のご令嬢になんてことをと真っ青になり、私たちに罰を言い渡した。
私に味方してくれていたはずの王妃様と、王妃様の言いなりの宰相は、陛下が戻って来るとすっかり縮こまって何も言ってくれなかった。
実の息子であるジャレッド様すら庇わないのだから相当なものだ。傍から見ても王妃様は彼を随分甘やかしていたのに。
私とジャレッド様は、王国の端にある村で労働して反省するよう命じられた。
ジャレッド様は王位継承権を剥奪され、第二王子のミリウス様に継承権が移った。私たちは監視を付けられ、陛下のお許しが出るまで村の中での生活を余儀なくされた。
大量の魔道具に魔力を込めながら、苦々しい思いでエヴェリーナのことを思い浮かべる。
あの女さえいなければ。
あの女が大人しく落ちぶれてくれてさえいたら、私がこんな目に遭うこともなかったのに。なんていまいましい女なんだろう。
古びた修道院の奥まった一室。私はテーブルの上に積み上げられた大量の魔道具を眺めながら呻き声を上げた。
何百個もあるこの魔道具に、今日中に全て魔力を込めなければならないのだ。これが終わっても仕事が終わるわけではない。修道院の掃除、洗濯場の皿洗い、裏の畑の農作業。やることは山程ある。
国王陛下に更生するようにと与えられた罰だけれど、私が罰を受けなければならない意味がわからなかった。
どうして聖女の私がこんな面倒なことをしなきゃならないの?
今、私がいるのはリスベリア王国の最北にある辺鄙な村だ。私の出身の町だって結構な田舎だったけれど、ここはそこ以上に何もない。
あるのは荒涼とした大地と、数件の家、寂れたお店一つと……、それくらい。病院すら隣の村まで行かなければないのだ。
私は少なくとも数年はここで労働をしながら暮らさなければならないらしい。帰れるのはいつになるのかわからない。もしかすると一生このままなんじゃないかと考えると心底ぞっとした。
今の私にあるのは、悪用できないように腕輪を嵌められて制限された聖魔法の力だけだ。何も持っていないし、力になってくれる人もいない。
一緒にここに送られた美しい王子だったはずのジャレッド様は、今は平民のようにくたびれた服を着て、朝から晩まで農民に混じって荒れ果てた地を耕している。
あまりにみすぼらしいその姿に、涙が滲みそうになった。こんな男に好かれて喜んでいたなんて馬鹿みたい。
あんなに私に夢中だったはずの彼は、今では私を見かける度にいまいましそうに顔を背ける。
腹立たしいけれど、顔を見たくないのはこちらとて一緒なのでそれは別に構わなかった。
私が好きだったのは、王太子で、いつも綺麗な服を着て、みんなにかしずかれているジャレッド様なのだから。
どうしてこんなことになったんだろうと、憂鬱な思いでため息を吐く。
聖魔法の力に目覚めた私は、全てを手に入れたはずだったのに。
***
エヴェリーナ・アメルを暗殺未遂の容疑で王宮に呼び出した後、私とジャレッド様は国王陛下に大変なお叱りを受けた。
ジャレッド様は、国王陛下は今隣国との衝突が起こった地域に出向いていて忙しいから、今なら自由にやっても構わないと言っていたのに。
暗殺未遂の騒動を知った陛下は、わざわざ王宮まで戻って来て私たちとエヴェリーナの間に起こったことを調査し始めた。
結果、私がついたエヴェリーナに嫌がらせされたという嘘も、ジャレッド様と二人でエヴェリーナを王宮や祭典に呼び出して追い詰めたことも、証拠不十分のまま暗殺未遂の容疑者と決めつけたことも、全てバレてしまった。
陛下はアメル家のご令嬢になんてことをと真っ青になり、私たちに罰を言い渡した。
私に味方してくれていたはずの王妃様と、王妃様の言いなりの宰相は、陛下が戻って来るとすっかり縮こまって何も言ってくれなかった。
実の息子であるジャレッド様すら庇わないのだから相当なものだ。傍から見ても王妃様は彼を随分甘やかしていたのに。
私とジャレッド様は、王国の端にある村で労働して反省するよう命じられた。
ジャレッド様は王位継承権を剥奪され、第二王子のミリウス様に継承権が移った。私たちは監視を付けられ、陛下のお許しが出るまで村の中での生活を余儀なくされた。
大量の魔道具に魔力を込めながら、苦々しい思いでエヴェリーナのことを思い浮かべる。
あの女さえいなければ。
あの女が大人しく落ちぶれてくれてさえいたら、私がこんな目に遭うこともなかったのに。なんていまいましい女なんだろう。
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