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一年前のあれこれ 5
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僕の気持ちはさておき、シャルルの話はその後も続いた。
攻略対象は他にもいて、男三人と女二人。隠しキャラクターが一人。主人公の性別はスタート時に任意で選択できる。五人のうち誰を攻略するかは主人公の自由で、上手く立ち回れば全員と恋人関係になることもできるのだそうだ。
なんだその爛れた設定は。しかもそのうちの一人がクリスだと?クリスは王子だぞ。
そんなもの許されるはずがない。妄想だとしても酷すぎる。思わず頭を抱えた僕を構うことなくシャルルはなおも話し続ける。
「難易度で言うと殿下が一番難しいんです。どうしたって婚約者からの略奪愛になりますし、身分差という壁もあります。攻略に失敗すると隣国のエロジジイの妾になるエンディングが発生しますから、リスクも最も大きいルートなんです。あ、ちなみに他の対象者は攻略に失敗しても友情エンドか独りぼっちエンドなので、その後もエイマーズ伯爵家の子として生活していけます」
クリスの好感度設定は大変繊細らしく、恋愛ルートに入っていても更に一定の値を超えていなければ告白しても振られる。一定の値を超えていても告白イベントで選択肢を誤れば振られる。そのうえに悪役令息の逆鱗に触れて隣国へと売り飛ばされる。踏んだり蹴ったりのバッドエンドがご用意されているそうだ。
他対象者のうち一人でも主人公に恋愛感情を抱いていると救済ルートも発生するらしいが、シャルルは他の誰とも接触を図っていないのだと言う。
同学年の対象者とは挨拶を交わす程度。上級生、下級生に至っては会ったこともないらしい。
「だって僕は殿下一筋ですから。他の方を好きでもないのに保険で攻略するなんて失礼なことできません!」
わけの分からないことを言う割に、ちょこちょこまともなことを言うんだよなぁ。判断に困る。きっぱりと言い切ったシャルルは少なくとも複数の人間の心を弄ぶ趣味はないようだ。
しかしそれなら、何故と思う。
どうしてわざわざ婚約者のいるクリスの下へ来るのだろう。
「あー……どうして、殿下なのですか?あなたのそれが起こり得る未来だと言うのなら、普通殿下を避けるものでしょう?」
「クリストファー殿下のことが好きだからですよ?それ以外にありません」
「好き?」
「はい。きっかけは前世のゲームですが、この世界であの方と出会って本当の恋になりました」
なにを当たり前のことを聞いているのか、そう言いたげな顔でシャルルは答える。
「困難な道で、非難を受けることも理解しています。あなたにとっては不快だろうことも。でも好きなんです。愛される可能性と方法を知っているんです。だったら……指を咥えて見ているだけなんて、僕にはできませんでした」
「あなたは……」
彼の正直な言葉に、僕は驚いた。彼に想いを寄せる人間が少なくないのは知っていたが、臆面もなく僕に対して彼への好意を言葉にしてきたのはシャルルが初めてだったのだ。
シャルルの荒唐無稽な発言の全てが信じられるわけではない。だがこの言葉は真実なのだろう。彼はクリスを愛していて、見ているだけでは耐えられなくなったのだ。
僕とは違って。
ちらりと頭の片隅に燃える赤毛が過ぎったその時。
「レッドメイン様は、ギリアン伯爵のことを愛していらっしゃいますよね?」
「っな!」
まるで見透かしたようなタイミングで放たれた言葉に、思わず手にしていたカップを落としそうになった。
攻略対象は他にもいて、男三人と女二人。隠しキャラクターが一人。主人公の性別はスタート時に任意で選択できる。五人のうち誰を攻略するかは主人公の自由で、上手く立ち回れば全員と恋人関係になることもできるのだそうだ。
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他対象者のうち一人でも主人公に恋愛感情を抱いていると救済ルートも発生するらしいが、シャルルは他の誰とも接触を図っていないのだと言う。
同学年の対象者とは挨拶を交わす程度。上級生、下級生に至っては会ったこともないらしい。
「だって僕は殿下一筋ですから。他の方を好きでもないのに保険で攻略するなんて失礼なことできません!」
わけの分からないことを言う割に、ちょこちょこまともなことを言うんだよなぁ。判断に困る。きっぱりと言い切ったシャルルは少なくとも複数の人間の心を弄ぶ趣味はないようだ。
しかしそれなら、何故と思う。
どうしてわざわざ婚約者のいるクリスの下へ来るのだろう。
「あー……どうして、殿下なのですか?あなたのそれが起こり得る未来だと言うのなら、普通殿下を避けるものでしょう?」
「クリストファー殿下のことが好きだからですよ?それ以外にありません」
「好き?」
「はい。きっかけは前世のゲームですが、この世界であの方と出会って本当の恋になりました」
なにを当たり前のことを聞いているのか、そう言いたげな顔でシャルルは答える。
「困難な道で、非難を受けることも理解しています。あなたにとっては不快だろうことも。でも好きなんです。愛される可能性と方法を知っているんです。だったら……指を咥えて見ているだけなんて、僕にはできませんでした」
「あなたは……」
彼の正直な言葉に、僕は驚いた。彼に想いを寄せる人間が少なくないのは知っていたが、臆面もなく僕に対して彼への好意を言葉にしてきたのはシャルルが初めてだったのだ。
シャルルの荒唐無稽な発言の全てが信じられるわけではない。だがこの言葉は真実なのだろう。彼はクリスを愛していて、見ているだけでは耐えられなくなったのだ。
僕とは違って。
ちらりと頭の片隅に燃える赤毛が過ぎったその時。
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