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23話 大したこと

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 僕が古谷書店に帰ってくるとほぼ泣き顔のユナと口をへの字にして腕を組んでいるフルヤさんがいた。

「シュン、気持ちはわかるがやってはいけないよ、上流貴族に逆らうのは」

 重い、暗い声がいかに大変なことかをものがたっていた。空気が重い。
 今まで僕は怒られる経験は多くしたことがあったが、経験はほとんどなかったのだろう。
 汗とは違ったものが頬をつたって落ちていく。僕が悪いはずなのに。
 なんで僕が泣かなければならないのだろうか?ユナだって必死に涙をこらえているのに。こらえるどころか涙はどんどん流れていく。

「すみません、僕は、泣いていい立場じゃないのに。僕なんて、大したことないのに」

 涙とともに出てきたのは弱音にもとれる言い訳だった。みじめだけど、まじめに。

「大したことがないわけないだろ」

 なぜ、この人は否定するのだろうか。
 大したことがあれば、僕は日本で親から捨てられなんかしない。
 この世界で自ら家を出ていったりしない。なのに、なぜ。

「私たちにとってシュンは十分大した人なんだよ。人見知りだったユナが心を打ち解けていたり、私が君をこの家に住まわせることだって君のことを大切に思ってるからだ」

 ……僕のことが、大切?
 兄と同じだ。僕のことをしっかりと見て、考えて。そうやって僕のことを認めてくれているんだ。
 僕の目には、もう涙はなかった。新しい決意の、その前に。

「心配をかけて申し訳ございませんでした」

 今は精一杯謝罪をしよう。


 翌日。
 傷だらけになった僕が学校へ行くとセイヨウに驚かれた。

「シュン、何かあったのか?」

「ちょっとね、でも今は大丈夫」

 どうやら昨日のことを知っている人は殆どいなかった。というか生徒会から呼び出されることもなかったことからおそらくこのことはどこにも伝わってなさそうだった。
 またいつもどおりの毎日が始まると思っていたが、家に帰るとトリオスがいた。

「なぜトリオス様がここに!?」

「貴族のカードだよ、ある程度の居場所は分かるし近くに貴族がいたら気づくようになってるの」

 通話機能だけじゃなくてGPSもついているのかこのカード。兄に隠し事は無理そうだな。

「フルヤさんから話は聞いているよ、シェイド公に立ち向かったんだってな」

 立ち向かったわけではなく、反射条件みたいなものでユナを逃したかっただけなのだが……。

「ま、そんなわけで顔を見せに来たってところかな。シェイド公はこの話はあまりしたくないらしい。貴族の名折れだって」

 兄が少し気まずそうに言ったのはスルーする方針で。

「とりあえず今日はここで泊まっていくことにするよ、部屋は借りるよ」

「ちょっと、そんな急に言われても」

「フルヤさんに許可はとったし、シュンとゆっくり喋りたいんだよ。お手伝いもちゃんとするからさ」

 まあ、フルヤさんに許可とってるんだったら僕は何も言えない。兄なりに励ましに来たのだろうから。
 でも今後はこっちにも話して欲しいと切に願いたいものであった。
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