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番外編2 男心と春の午後
潤んだ瞳に煽られて
しおりを挟む千紗子の涙が落ち着いたのを見計らい、千紗子の唇にそっと自分の唇を重ねる。
小さいのにふっくらとしているそれは、良く熟れた果実のように甘く柔らかだ。
ぴったりと重ね合わせると、千紗子のそれは一彰の唇にすっぽりと収まる。もう幾度も重ね合わせてきたはずのその唇の形を、飽きもせずに確かめたくて、一彰は自らの唇で彼女のものをなぞっていく。
彼女の下唇を自分の唇で挟み込み、食むようになぞると、吐息と共に開く。一彰はそこから自分の舌を素早く差し込んだ。
「んっ、」
口内をそっと撫で上げると、甘い声が上がる。
その声が一彰をどんなに煽っているのか、彼女はきっとその十分の一も分かっていないだろう。
助走は終わり、とばかりに、一気に彼女の口内を掻き回す。歯列をなぞり、舌を絡め、吸っては舌の裏をなぞる。その度に千紗子は甘い吐息を漏らす。
千紗子の息がすっかり上がったのを感じて、一彰は彼女の口を塞いでいた唇を、首筋へと移動させた。
ピクリ、と千紗子の体が跳ねあがるのが分かる。
それに気付かない振りをして、一彰は彼女の耳のすぐ下のうなじに軽く吸い付いた。
「やっ」
この三か月間、幾度となく抱いてきた彼女の、弱いところを一彰はすっかり熟知している。
白いうなじに吸い付きながら、なぞるように首筋をたどると、腕の中の千紗子が、身を捩ってかすかな抵抗を見せた。
千紗子を囲う腕に力を込め、自分の体に押し付けると、うなじから鎖骨に向けて、舌でなぞる。
「んんっ、はぁっ、」
その小さな口を少しだけ開けて、我慢できずに漏らした吐息交じりの声が、艶やかなほど色っぽい。
頬を赤く染め瞳を閉じている千紗子は、その姿を逃さず見つめる瞳に気付くことはない。
無自覚な千紗子に煽られた一彰は、ふつふつと沸き上がる黒い欲望を抑えることが出来なくなった。
目の前にある首筋に、軽く歯を立てると、力強く吸いついた。
「んぁっ…か、一彰さんっ!」
一彰が何をしようとしているのか察した千紗子が、慌てて腕で一彰の胸を押し返すが、一彰の腕はびくともしない。
薄っすらと桃色に染まる肌に、赤い花びらが散る。
一彰は満足げに、付けた赤い痕を上からペロリと舐めた。
「一彰さんっ」
咎めるように名前を呼ばれて、目を上げると、潤んだ瞳が自分を睨んでいる。
(そんなふうに睨んでも、煽っているようにしかみえないな)
クスリ、と笑いを漏らすと、千紗子の眉がみるみる上がっていった。
「なっ!怒ってるんだけど、私……」
「そうだな」
「あんなに、見えるところに付けないでって、お願いしてたのに……」
膨らませた頬は赤く、一彰を見上げる瞳は朝露に濡れた花のようにキラキラと輝いている。
そんな姿が一彰をただ煽っているだけだということに、千紗子本人はまったく気付く気配はない。
「ごめんな?」
「~~~っ!」
少しだけ首をかしげて謝ると、なぜか声もなく憤慨された。
プイッと横を向いた頬が赤くて、それすらも今の一彰には美味しそうな果実にしか見えず、そこに音を立てて口づけると、もう一度謝罪の言葉を口にする。
「ごめん。そんなに怒らないで、ちぃ」
本当に悪いと思っているのか、と問われると正直困るが、千紗子にそっぽを向かれたままなのは辛い。
彼女の横顔を見つめながら、こちらを向いてくれるのを黙ったままじっと待った。
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