前世で辛い思いをしたので、神様が謝罪に来ました

初昔 茶ノ介

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4巻

4-1

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 私――雨宮咲あめみやさきは、いじめ、虐待ぎゃくたい、パワハラなど苦しいことばかりの人生を送った挙句あげく、最期は残業帰りに落雷に打たれて一生を終えた。
 ……はずだったんだけど、神様であるナーティ様が現れて、この不幸な人生はナーティ様の弟であるラスダ様の手違いによるものだったのだと謝ってきた。
 そして、私に彼女の管理する魔法の世界――シャルズに転生しないかという提案をしてきたのだ。


 こうして、おびとしてたくさんの才能と、頼れる子猫の従魔じゅうまネルをもらった私は、サキ・アメミヤとして第二の人生をスタートさせた。
 転生後、身寄りのない私を養子として迎えてくれたのは、王都エルトにあるアルベルト公爵家こうしゃくけ
 当主であるフレル様、その奥さんであるキャロル様、そして二人の子供であるフランとアネットによって……私は生まれて初めて家族の温かさを知ったんだ。今ではフレル様とキャロル様をパパ、ママって呼ばせてもらっているしね!
 それからパパがアルベルト公爵家の家督かとくを引き継いだと同時に、私は正式にアルベルト家の養子として迎えられ、サキ・アルベルト・アメミヤとして貴族家の一員となった。
 こんな風に家族に恵まれているんだけど、家族だけじゃなく友達にも恵まれているんだよね。
 魔法を学ぶために通っている学園では、ブルーム公爵家の一人娘で努力家な赤髪の女の子アニエちゃん、水魔法が得意で青髪とメガネがトレードマークのミシャちゃん、おっちょこちょいだけど誰よりも元気な金髪の男の子オージェと仲良くなって、毎日すごく楽しいの! 


 でも、そんなある日、アニエちゃんが消息しょうそくってしまった。
 アニエちゃんの失踪しっそうにいち早く気付いた私たち四人が、彼女の痕跡を追ってたどり着いたのは……なんと、これまで何度も私と対立している国家反逆組織リベリオンの基地だった。
 その後なんとかしてアニエちゃんを見つけ出したんだけど、アニエちゃんの両親――ロベルスさんとナタリーさんと戦うことに!?
 というのも、彼らはリベリオンに精神操作されていたのだ! 
 二人はすごく強くて私は負けそうになったんだけど、アニエちゃんたちが洗脳をいてくれたおかげで、なんとかみんな無事に帰ってこられた。
 だけど今度は、リベリオンの真の目的は王都を大量の魔物の軍勢で攻め落とすことだと判明。私は、王様や貴族家と協力して魔物と戦うことになった。
 最初はいけるかなーと思ったんだけど、アニエちゃんを救出する際に魔力をだいぶ使ってしまったせいで戦闘の途中で倒れてしまう。もう駄目だめかと諦めかけたその時、すごく強い学園の先輩――レオン先輩が助けてくれた。
 こうしてなんとか王都には平和が戻って、私は褒賞ほうしょうとして王様から研究所をもらえたの!
 リベリオンの攻撃はどんどん過激になってきてるけど、絶対に負けたりしないんだから!
 サキ・アメミヤ、今日も幸せ目指して生きています!




 1 アニエちゃんのお茶会作戦


 王都が襲撃にあってから半年が過ぎた。気付けば秋になっていて、外の空気は肌寒く感じるほどだ。
 でも、私の心はそんな寒さを感じないほどにドキドキしている。
 なぜなら、王様に頼んでいた研究所がとうとう完成したから。
 これからパパとママ、クールなイケメンのフランと小さくて可愛いアネットと一緒に研究所を見に行くことになっていて、今は馬車で向かっている最中だ。
 ウキウキと外を眺める私に、ママが話しかけてくる。

「サキちゃん、そんなに目を輝かせながら外を見て……本当に楽しみなのね」
「うん、一人でも行けるように、道を覚えているの」

 私は最近やっと、慣れた人となら緊張せずに話ができるようになった。
 それでも急に話しかけられたり、知らない人の前やたくさんの視線が集まったりするとまだ怖かったりするけど……それでも成長は成長だもん!
 そんなことを考えていた私の耳に、パパの優しい声が届く。

「サキ、もうすぐ研究所に着くけど、僕とキャロルに約束してほしいことがあるんだ」

 私は座り直してパパの方を見る。

「約束?」
「そう。いくつかあるんだけど、聞いてくれるかな?」
「うん……聞く」

 私の返事を聞いて、パパは微笑ほほえみながら続けた。

「一つ、一人では研究所へ行かないこと。二つ、研究所に泊まったりせず必ず屋敷に帰ってくること。三つ、研究内容をあまり親交のない人に話さないこと。四つ、親しい人に話す場合はしっかりとその人に口止めをすること。守れるかな?」

 うわぁ、想像以上に多い……。

「どうして一人じゃ、ダメなの?」

 それに対して答えたのはママだった。

「サキちゃん、夢中になるとずっとそれに没頭ぼっとうしちゃうじゃない? そのまま遅くまで帰ってこないと心配なの。だから必ず誰かを連れてって」
「私、そんなに周り見えなくならないもん」

 頬を膨らませる私に、パパは平然と返す。

「そうなのかい? ネルはそう言っていたよ?」

 私はムッとして抱っこしているネルを見ると、ネルは素知らぬ顔で目を逸らした。
 むー……私のことそんな風に思っていたの?
 私はため息をついてから、パパに向き直る。

「わかった、誰かと行く。それじゃあ親しい人以外に話をしちゃダメなのは、なんで?」
「サキの研究内容は、どれも国に大きな利益をもたらす可能性があるものばかりなんだ。研究に対してとやかく言うつもりはないし、好きなことを調べてもらっていい。ただ、その内容が流出してしまった場合どうなるかわからないんだ。万が一悪用されたら大変だからね。サキだって、悪い人たちに狙われたくはないだろう?」

 パパの言葉に、私は首をぶんぶんと縦に振った。
 なるほど、そんなこと考えてもみなかった。私の研究ってそんなに価値があるものなのか。
 発動したくても、何かしらの欠陥があって魔法として成立しない魔法――魔術難問まじゅつなんもんの研究とか、まだ誰も作れていない強力な薬の開発とかは、もし成功したら現実世界でいうノーベル賞をもらえるレベルなのかもしれない。でも……。

「うん、わかった。でもね、その心配はしなくていいよ?」
「あら、どうしてかしら?」

 不思議そうな顔をするママに、私は胸を張って言う。

「何かできたら、最初にパパとママに見せるから。そうしたら私のこと褒めてくれるでしょ? その後、人に話していいか聞く」

 私の言葉に、ママとパパは顔をほころばせた。

「あらあらぁ。何を作ってくれるのか楽しみだわ」
「うん、そうしてくれると助かるし、僕も楽しみだよ」
「えへへ」

 すると、アネットとフランも声を上げる。

「お姉さま! アネットもお姉さまの研究が見たいです!」
「僕もサキの研究見てみたいな」
「ふふふ、二人にはお手伝いをお願いするかもね」

 そんな話をしているうちに馬車が止まった。どうやら研究所へ到着したようだ。


 馬車を降りて顔を上げると、目の前には学園の課外授業で行ったアクアブルムの研究所にそっくりの建物があった。
 王都の建物とは雰囲気が違う、金属でできた、入り口が自動ドアの研究所……ここが私の第二の城なんだ!
 テンションが上がった私はドアに小走りで駆け寄っていったが、扉が開かずにおでこをドンッとぶつけてしまう。

「いたたた……」
「お姉さま、大丈夫ですか?」

 駆け寄ってきたアネットに、私はなんとか笑みを返す。

「う、うん」

 アネットから少し遅れてやってきたフランが、首をかしげながら聞いてくる。

「扉が開かないのかい? アクアブルムの研究所は勝手に開いたのに」
「むむむ……見た目だけ自動ドア」
「それじゃあ意味がないじゃないですの! アネットは勝手に開くドアを楽しみにしていましたのに!」

 アネットは、私が前に課外授業の思い出を話した時に、研究所のことをとても熱心に聞いていた。二学年のアネットはまだアクアブルムの課外授業へは行っていないから、私の研究所ができるのをとても楽しみにしていたんだよね。
 涙目になるアネットの頭を私が撫でていると、フランが口を開く。どうやら扉を調べていたみたいだ。

「サキ、自動ではないけど扉は開くようだよ」
「え?」

 パパが扉をゆっくりと横にスライドさせる。

「とりあえず中に入ってみたらいいんじゃないかしら?」

 ママに言われて全員で中に入る。
 入り口から続く廊下は窓がないせいか真っ暗で、ちょっと怖い……。

「あら、サキちゃんは暗いところは苦手かしら?」
「そ、そんなことない……もん」

 言ってみたものの、実は真っ暗な場所は得意じゃない。どうしても前の世界の会社で夜遅くまで残業していたことを思い出してしまうのだ。
 ついママのスカートをつかんでしまう。

「怖がるお姉さまも可愛いですわ」

 そう言うアネットもママのスカート掴んでいるけどね……。
 そのまま私たちは奥へ進み、大きな部屋に入る。その瞬間、明かりがついた。

「勝手につきましたわ!」

 感動しているアネットの脇を抜け、私は室内を歩き回ってみる。
 すると机の上に一枚の紙が置かれているのを発見した。
 これは……手紙?


『親愛なるサキ・アルベルト・アメミヤへ。
 言われた通りに研究所は用意したが、それを動かすのに必要なかみなりの魔石はアクアブルムの研究所のように用意できなかった。ま、そういうこともあるわな。現実はそんなに甘くねぇってことだ。ただ、仕組みはアクアブルムの研究所と同じにしてある。つまり、この研究所を動かしたかったら、自力で雷の魔石を採ってこーいってことだ。以上。皆のあこがれの王、ヴァンヘイム・エルトリアス・ベイクウェル。
 追伸ついしん 雷の魔石は貴重で、アクアブルムも最近数が少なくなってきて大変らしいから、そっちには手を出すな。後、この部屋の明かりもしばらくしたらなくなるから気をつけろ』


 な、な、何それぇ⁉
 雷の魔石がないとこの研究所が動かないってこと⁉
 しかも、魔石について一番頼りになりそうなアクアブルムのコネさえも使えなくされたし!
 だんだんと腹が立って息が荒くなる。

「むふー……」

 そんな私の様子を見て、戸惑ったようにパパが尋ねてくる。

「サキ、どうしたんだい? 鼻息を荒くして」
「……ん!」

 私は説明するのも嫌になって、パパに王様からの手紙を渡す。
 パパはそれを読むと、はぁ……と息を吐いた。

「サキ、すまない。王様はこういう人なんだ」
「いい……なんとなくわかってた」
「ってことは、今日は研究所でできることはなさそうだね……」
「うん……」

 こうして私たちは結局屋敷に戻ることにした。


 帰りの馬車で、私は魔石について考えていた。
 魔石がある場所、調達方法、必要な量……うーん、どれも答えが見つからない。
 パパなら何か知っているかな?

「パパ、雷の魔石って貴重なの?」
「雷の魔石か……確かに市場にはほとんど出回っていないからな……」

 パパは少し考えた後、魔石について説明してくれた。
 パパが言うには、魔石は貴族の間で高額で取引されているらしい。
 アルベルト家は商業区を治める公爵家なだけあって、市場の情報や出回っている商品なんかを把握している。しかし、裏取引を除いて、アルベルト家と商業ギルドが把握している範囲では雷の魔石は滅多めったに出回っていないとのこと。

「採掘すれば……いや、雷の魔石が採掘できる場所なんて想像もつかないしな……」

 パパはぶつぶつとそう口にして魔石のことを考えてくれているようだ。
 すると、ママはふと思い出したように手を叩く。

「そうだ! 魔石のことは残念だったけど、サキちゃん、来週のアレは大丈夫?」
「アレ……? なんのこと?」
「何って、来週はサキちゃんの初めてのお茶会でしょう?」
「……あ」

 わ、忘れてたぁ!
 ママから告げられた現実に、一気に研究所のガッカリ感が吹っ飛んでいって、あせりが生まれたのだった。


「ああぁぁぁ~どうすれば……」
「お姉さまから悲鳴みたいな声が漏れてますわ……」

 初めてのお茶会を次の日にひかえ、私は自室で頭を抱えていた。
 アネットが心配そうにしているのも気にならないほど、私の心境は焦りでいっぱいだ。
 そもそもお茶会ってなんのためにあるの? お互いの顔を覚えてもらうため……とか?
 私は震える声でフランに尋ねる。

「明日はどういうお茶会なんだっけ……?」
「王様主催の、王族、公爵家の子供たちのお茶会だね。二月ふたつきに一度、王様は子供たちが集まる場を設けているんだ。公爵家の中では重要なもよおしで、レオン先輩はバウアにいたのにこれに参加するためにわざわざ呼び戻されたっていううわさだよ」

 何それ怖い……ずる休みっていう手も使えないみたいだね……。
 フランの言葉に再び頭を悩ませていると、部屋の扉がノックされた。

「サキ、アニエスだけど」
「アニエちゃん? どうぞ」

 私の返事を聞いて、アニエちゃんが部屋に入ってくる。

「あぁ、やっぱり明日のことで悩んでいるのね」
「うん……私、どうしたら」

 私は涙目でアニエちゃんを見つめる。
 研究所が手に入り、研究したいテーマもたくさんある。これからは楽しいことばかりだと思っていたのに……いたのに……。
 あれも、これも、全部あの王様のせいでぇ~!
 なんかもう、王様にちょっと腹が立ってきたよ。
 やりたいことが全て、王様によって妨害されている気さえしてくる。
 でも、腹を立てても現状は変わらない。
 とにかく明日、初めて会う公爵家の人たちに失礼のないようにしないと……。
 そんな悲しい決意を固め始める私に、アニエちゃんは明るい声で言う。

「サキ、心配しないで! 私に考えがあるの」
「かん……がえ?」
「えぇ、これならお話が苦手のサキも大丈夫よ! 今日来たのはその秘策をサキに伝えるためよ!」

 あぁ、アニエちゃんが女神様みたいに見える……やっぱり持つべきものは友達だよぉ。
 その後、アニエちゃんの作戦をもとに、私たちは明日のお茶会戦いへと備えるのだった。


 そして次の日。
 私とフランとアネットは馬車に揺られてお茶会の会場へと向かっていた。お茶会は王城の中の庭園で行われるらしい。
 実は、このお茶会にはルールがある。
 それは、大人はついてこられないというルールだ。
 それにどういう意味があるのかはわからないけど、パパは「こんな時くらい大人に邪魔はさせねーぞって感じじゃないかな?」と言っていた。

「お姉さま、大丈夫ですか?」
「だだだ、大丈夫だよ」

 アネットの心配そうな声になんとか返事したけど……舌がうまく回ってくれない。
 そんな私の様子を見て、フランは気楽に笑っている。

「ははは、全然大丈夫じゃなさそうだね」

 むー……笑いごとじゃないのに……!
 でも私にはアニエちゃんが授けてくれた秘策がある。あの作戦は完璧だと思う。というか、思いたい。
 大丈夫、ちゃんと効果があるか試したし、後は頑張るだけだもん! 私とフランが……。
 あぁ、でもできることならこのまま王城に着かないで……。
 そんな私の祈りもむなしく、馬車はあっという間に王城に到着してしまったのだった。


「本日はようこそお越しくださいました」

 王城に到着すると、メイドさんが迎えてくれる。
 さすが王城に勤めるメイドさん……すらっと伸びた背筋に、綺麗きれいなストレートの髪が似合う美人さんだ。私のお付きのメイドさんであるクレールさんも綺麗だけど、どっちかといえば可愛いって感じだし、タイプが違う。

「本日はお招きいただき、感謝いたします。アルベルト家長男、フラン・アルベルト・イヴェールです」
「今日を楽しみに、日々を過ごしてまいりました。アルベルト家長女、アネット・アルベルト・イヴェールですわ」

 フランは右手を自分の胸に当て、アネットはドレスのスカートを少し上げながらお辞儀じぎをした。

「お招きいただき、嬉しい……です」

 綺麗に挨拶をする二人に対して、やはりぎこちない私。
 えっとぉ……招いてもらって嬉しいですーみたいな言葉の後にえっと、えっとぉ……。

「サキ、身分を言わないと」

 小声でフランに言われて、私は慌てて付け足す。

「アルベルト家養子の、サキ・アルベルト・アメミヤ……です」

 慣れていない様子を察したのだろう。メイドさんは私の不慣れな挨拶をしっかりと聞いてから、頭を深く下げた。

「ご丁寧にありがとうございます。私はメイド長のミリアナと申します。それではこれから会場にご案内いたしますので、こちらへどうぞ」

 私たちはミリアナさんについていく。
 うぅ、フラン……様子見なんてしないで、今、例の作戦を実行してもいいんじゃないの……?
 そんな思いを込めた視線をフランに送るけど、綺麗なウィンクが返ってきただけだった。


 そうこうしているうちに、会場である庭園に着いた。

「では、こちらでもうしばらくお待ちください」
「案内、感謝します」

 フランの返事にミリアナさんはお辞儀をして、来た道を戻っていった。
 周りを見ると、さすが王城の庭園だけあってとても綺麗だ。
 いろいろな花や整えられた草木に、遠目でもわかる高そうな長机と高そうな椅子が囲まれている。
 そして、その椅子の一つにアニエちゃんが座っていた。
 アニエちゃんもこちらに気付いたようで、立ち上がって歩いてきた。それに対して、フランが背筋を正してお辞儀をした。

「ご機嫌よう、アニエ。本日はお日柄もよく……」

 きっちりとした挨拶をするフランに対して、鬱陶うっとうしそうに手をしっしとやりながら、アニエちゃんは言う。

「あー、いいから私にそういうの。サキやアネットちゃんならともかく、フランにされても真面目さを感じないもの」
「それはひどいなぁ。貴族家としてちゃんとしようと思っていただけなのに。少し落ち込むよ」
「お兄さま、落ち込んでいる顔に見えませんわ」

 アネットが言う通り、フランの顔はニコニコとしている。
 そんなフランを見て軽くため息をついた後、アニエちゃんは私の方を向く。

「サキ、公爵家の子供の中じゃフランが一番性格悪いから、他の人に緊張しなくて大丈夫よ」

 安心できる情報じゃないけど……むしろ作戦に支障ししょうが出そうな情報なんだけど!
 でも、アニエちゃんが私のことを気にかけてくれているのは嬉しい。
 しかし、当のフランはどこ吹く風だ。

「そんなことないさ」
「あるわよ。自覚がないところが一番たち悪いの」

 そんなアニエちゃんのツッコミを聞きながら、私たちは席につく。
 私の右にアネット、左にアニエちゃん、向かいにフランが座るという完全に私を守るスタイルだ。
 それからしばらくお話をしていると、足音が聞こえてきた。
 その足音に私たち全員が反応する。

「誰か来たわ! フラン、準備はいい?」

 アニエちゃんの掛け声に、フランが応える。

「もちろんさ。第二ダブルダクネ!」

 フランが私に闇魔法をかける。
 すると、それに対して私の精神耐性スキルが発動する。精神耐性スキルによって私の精神は普段より落ち着いた状態になっていく。
 そう、アニエちゃんの作戦とは、フランが私に闇魔法をかけて、それに反応した私の精神耐性スキルの効果でお茶会を乗り切るというものだった。
 ネルに確認したところ、私の精神耐性スキルは緊張や人見知りといった軽いストレスには反応しないが、他人から精神攻撃を受けた際には、その技を弾いた上で一定時間、強制的に精神を安定させる効果があるらしい。
 その作用を利用して、緊張や人見知りをなくそうという狙いなのだ。
 ちょうどその効果が出てきたのを感じたあたりで、庭園の入り口に人影が見えた。
 私は挨拶のために立ち上がる。


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