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晴の思い出のパン

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まだ日の出前の暗いうちに目が覚めてしまったのは、昨日の興奮のせいだろうか。

理玖のおかげで晴が俺への気持ちを自覚してくれて、本当の恋人になれたんだ。

理玖には少し不安がらせてしまって悪かったが、きっとアルが誤解を解いて、甘えさせてじっくりと身体で愛を伝えていることだろう。

なんせ、アルの初恋は理玖なんだからな。

さっさと伝えておけば晴の話に理玖が勘違いすることもなかっただろうに。

それにしても、晴がアルの話を聞いて、あの折り鶴が初恋だと勘違いするとはな。
どこまで純粋なんだか……。

まあ、そこが晴のいいところなんだけれど。

ふふっ。

晴の寝顔を見つめているだけで笑みが溢れる。
あまりにも可愛くて柔らかな髪を撫でていると、晴が『ううーん』と身動いだ。

まだ起きるには早すぎる。
起こさないようにと腕の中に閉じ込めると、強張った顔がふにゃりと柔らかく安心しきった表情に変わった。

俺の匂いを感じて、この表情をしてくれたんだったら嬉しいんだけどな。

晴が腕の中にいることが嬉しくて幸せで胸がいっぱいになった。

晴の温もりに俺もまた眠気が襲ってきて、知らない間に眠ってしまっていた。

次に起きた時には太陽の光が遮光カーテンの隙間から漏れて部屋がほんのり明るくなっていた。

サイドテーブルにスマホを置いていたはずと手を伸ばし、慌てて時計を見るとまだ起きるには少し早く、寝坊せずに済んだことにほっとした。

二度寝なんか久しぶりにしたな。

なんだか妙にスッキリしているのは二度寝のせいだけではない。

きっと晴と心が繋がったからだろう。

朝から二度目の晴の寝顔を堪能していると、パチッと大きな目を開けた。

晴の瞳に俺が映っているのが見える。

ただそれだけで嬉しくなるんだから、俺も大概だな。

「晴、おはよ」

自分の口から出ているとは思えないほど、挨拶の声が甘ったるい。
晴に言おうとするだけでそんな声が出るんだから仕方ないだろう。

晴は俺の声を間近で聞いて、途端に顔を真っ赤にした。

「あ……っ、たかゆきさん、おはよう……」

真っ赤な顔を俺の胸に押し付け、こもった声でそう挨拶してくれた。

「はーる、可愛い顔を見せて」

そういって覗き込むと、おずおずと顔を上げてきた。

「た、たかゆきさんが……あんな声出すから……ドキドキしちゃった」

俺の声にこんなに反応してくれるようになったのも、自覚したからなんだろうな。

ああ、恋人になった晴が可愛くてたまらない。

今日も出社するとすぐに晴は桜木部長の元へ呼ばれて行ってしまった。

まぁ、リュウールの方は次の撮影まで晴の仕事がないのだから仕方がない。
晴には次の案件も入っているしな。

リュウールへのポスター納品は2日後。

それまで特別急ぐ仕事はないのだが、桜木部長からは納品が終わってからでないとメンバーには入れられないと言われているので仕方がない。

俺も早くリュウールにポスターを納品して、桜木部長たちの方に合流したい!

とりあえず、今日は次の撮影の日時決めからしておくか。

と、スケジュールの確認作業を始めた途端、プライベート用のスマホが鳴った。

誰だ? タイミングが悪い……と思いながら表示を見ると、『東巫署ひがしかんなぎしょ 森崎』とあった。

森崎刑事? あいつらの話か?

俺は慌ててスマホだけを持ち、営業部オフィスから廊下へと出た。

ーもしもし

ー私、東巫署の森崎と申しますが……早瀬さんの携帯で宜しいでしょうか?

ーはい。ちょっと場所を変えますので少しお待ちいただいて宜しいですか?

森崎刑事が了承したのを確認して、急いで階段を駆け上がり、人気ひとけのない資料室へとやってきた。

ーすみません、お待たせしました。

ーいえ、こちらこそ。お忙しい時間に申し訳ありません。

ーそれで、何かありましたか?

ー香月くん絡みの事件で、三浦あすかと鉢屋大地については傷害と拉致・監禁で既に起訴となり身柄を拘置所で拘束されています。また逃亡や被害者への復讐の恐れもあることから保釈請求は認められませんでした。

ーそうですか……。良かった。あっ、でも真島は?

ー真島については不法侵入と器物損壊で逮捕しましたが、初犯であることと窃盗などの他の犯罪がないこと、壊したものの弁済が終わっていることから不起訴となり保釈されました。

ー保釈? それに弁済って……相当な金額だと思うんですが。

ー真島の親が一括で支払ったそうです。

ーそう、ですか……

ー保釈されたばかりで真島もおかしなことはしないとは思いますが、もしかしたらということもありますので、香月くんにはくれぐれも注意するようにお伝えください。

ーわかりました。わざわざご連絡ありがとうございます。

真島が不起訴になるとは思わなかった。
また晴に近づいたりしないだろうか?
せっかく晴が気兼ねなく外を出歩けるようになったと思ったのに……。

それでも――今度は俺が晴を守る、絶対に。

電話を終え、営業部オフィスに戻ると入り口で桜木部長と晴にバッタリ出会った。

「早瀬、どこ行ってたんだ?」

「ちょっと資料室に資料を戻してきたところです」

「そうか。今から俺たちはフェリーチェに行ってくるからな」

晴が出かける?
せっかく不起訴になったというのにバカなことはしないとは思いたいが、真島はうちの会社も知ってるし、まさかの事態がおこらないとも限らない。

本当ならば行かせたくはないが、晴の行動を制限したくはない。
ならば、俺が守るしかない。

「部長、私も同行して宜しいでしょうか?」

さりげなく同行を求めながら、必死にアイコンタクトで訴えかける。

部長、頼む! 気づいてくれ!
その一心でじっと部長の顔を見つめた。

「他の案件は大丈夫なのか?」

「はい。問題ありません」

「なら良いだろう。すぐに準備してくれ」

なんとか想いは通じたようだ。
助かった。

「あっ、香月くん。さっきの会議室にポールペンを忘れてきたみたいだ。申し訳ないがとってきてもらえないだろうか?」

「はい。すぐに行ってきますね」

晴は柔かな返事を返すとすぐに階段へと向かった。

その姿を見送っていると部長から口を開いた。

「それで、何があったんだ?」

やはり、さっきので部長には気づいてもらえたようだ。

「真島が……この前うちに不法侵入で捕まったあいつが不起訴になったそうです。報復しに来るかもしれないからくれぐれも気をつけるようにと森崎刑事から連絡があったんです」

「不起訴……そうか。会社への行き帰りはお前がいるからいいとして、外回りで出る時は考えないといけないな。お前がいつでも同行できるとは限らんだろ?」

「いえ、どんなことをしても私が同行して晴を……香月くんを守ります」

「そうか……。そうだな、お前が守ってやれ。できるだけ同行できるように調整しよう」

「ありがとうございます」

そこまで話したところで、階段の方からタッタと走ってくる音が聞こえてくる。

晴は部長の目の前までやってきて、

「遅くなってすみません。ポールペンが見当たらなくて……」

「ああ、申し訳ない。ファイルの間に挟まっていたんだ。今、早瀬に迎えに行かそうと思っていたところだったんだ」

「そうですか。見つかったのなら良かったです」

部長が晴に話を聞かれないためについた嘘だったが、ポールペンが見つかったことを素直に喜んでいる晴にはほんの少し申し訳ない気がした。

「じゃあ、出かける準備をしようか」

部長はそう言って先にオフィスへと入って行った。

「晴、俺も一緒に行けることになったから」

「わぁ、良かったです! フェリーチェさんに行くの初めてだから隆之さんが一緒だと安心します」

ふふっと少しはみかみながら笑う晴が可愛くて、俺はこの笑顔を絶対に守ってやる! その想いでいっぱいだった。



通常CMを制作する場合、クライアントはうちのような広告代理店とCM制作会社の2社とやりとりをするのが一般的だ。

しかし、うちは印刷部があるように社内にCM制作部も常設しているのでクライアントは余計な打ち合わせや追加料金などを抑えることができるのだ。

企業が初めてCMを流す場合には、CM制作費用に加えて放送枠の費用もかかってくるのだが、今回のクライアントは天下のフェリーチェ。
あの大手老舗パンメーカーのフェリーチェはすでに年間を通して全国で放送枠をもっているため、放送枠の打ち合わせは必要ない。

うちのCM制作部の担当との打ち合わせがメインになってくるが、今回のCMは以前のCMの復刻版。
全く同じものではないが、それをモチーフにしているため以前の担当だった桜木部長とフェリーチェの担当だった長谷川さんがメインで動くこととなる。
そこにアイディアを追加したのが晴だ。

今回のCMは予算も通常の倍の金額が用意されているそうで、また、長谷川さんは出来上がりまでは完全サプライズで作るというのを自分のクビを賭けてフェリーチェの上層部に納得させたというのだからそれだけでもフェリーチェの意気込みが分かるというものだ。

今回そのプロジェクトに俺も参加させてもらえることになったことはずっと営業でやってきた俺には良い経験になるはずだ。

もちろん、入社前にポスター制作もCM制作も経験できる晴はもっともっと良い経験になるだろう。

フェリーチェに着くと、長谷川さんがすでにロビーで待ってくれていた。

もうフェリーチェでも偉い立場になっているのに、こんなに腰を低くして待っているのは、よほどこのCMの復刻が嬉しいのだろう。

「やぁ、香月くん! よく来てくれたね!」

長谷川さんはこのCM復刻の立役者となった晴のことを相当買っている。

今日も晴の顔を見ただけで満面の笑みを浮かべている。
それは晴の実力はもちろん、顔の可愛らしさもあるのだろうとは思うが……。

「おい、俺たちもいるぞ」

「ああ、桜木と早瀬くん! よぉ」

俺たちに向かっては手を上にあげるだけ。
この対応の違い。
やっぱり晴のことを気に入っているようだ。

「うちの一番良い会議室を空けてあるから、早く行こう」

そう言うと長谷川さんは晴の手を取り、さっさとエレベーターへと歩いて行ってしまう。

俺と桜木部長は顔を見合わせて苦笑いしてしまった。

「早瀬、お前さっきの真島の話……香月くんにするのか?」

「はい。話さなければいけないとは思っています」

「そうか……。香月くんも心の準備が必要だし襲われる前に聞いておいた方が良いとは思うが、いつ来るかもわからない敵を待つのはストレスになるかもしれんな」

「そうなんです。ただでさえ、以前ストレスとフラッシュバックで過呼吸を起こしてるのでそれが心配で……」

今日の森崎刑事からの連絡で前もって知れたことは有り難かったが、すぐに晴に知らせるべきかは悩むところだ。
どうするのが晴にとって良い選択なのか……。

「まぁ、お前が思う通りにしたらいい。香月くんのことはお前が一番考えてるんだろうしな。俺の目の前にもしそいつが現れたらやってやるさ」

「はい。心強いです。ありがとうございます」

俺たちがエレベーター前に到着したタイミングで上行きのエレベーターがやってきた。

晴は長谷川さんとやたら話が盛り上がっているようだ。

「香月くんは和食好きそうだけど、パンは食べるの?」

「はい。もちろんです! 町のパン屋さんも好きですけど、やっぱり僕は昔から馴染みのあるフェリーチェさんのパンが大好きですよ!」

「おっ、嬉しいことを言ってくれるね! さすが、トップ営業マンの早瀬くんに入社前からマンツーマンで教えて貰ってるだけのことはあるなぁ。クライアントを褒めまくるのは営業マンの鉄則だからね」

晴の言葉がお世辞と思われたのか……。
さて、晴はどう返すか見ものだな。

「いえいえ、本当ですよ。僕、フェリーチェさんのライ麦ショコラパンが大好きで、中高生の時は毎日のように買って食べてたんで、販売終了して泣いちゃいましたよ。だから、僕自分で作るしかないと思ってホームベーカリー 買ったんです!」

「えっ? ホームベーカリー  ? 香月くんが?」

ああ、そういえアパートに置いてたな。
毎日パン焼いてるって言ってたっけ。

「最初は手捏ねで作ってたんですけど、捏ねる時の音がうるさいって隣の部屋からクレームが来ちゃって……。それでホームベーカリー  買ったんです! あのパンの味を思い出しながら、強力粉とライ麦粉の配合考えたりして1年くらい試行錯誤してだいぶ似た味のを作れるようになったんですよ。ふふっ」

少し得意げな顔で長谷川さんを見ている晴が本当に可愛い。

「ええ……っ、マジか……」

いやいや、長谷川さん驚きすぎて言葉遣いが学生っぽくなっちゃってますよ。

「ねぇ、今度そのパン食べさせてよ!」

「はい。喜んで! というか、食べて頂けるなんて嬉しいです。ついでにあの美味しいライ麦ショコラパンのレシピも教えてもらえませんか? なーんて、ふふっ」

ああ、晴の可愛さが天井を越してしまいそうだ。
長谷川さんもすっかり晴にメロメロになってしまっている。

会議室に着いても長谷川さんはまだ晴の手作りパンについて気になっているようだった。

「香月くんのパン、早く食べたいなー。桜木ぃ、今度香月くんがうちに来るのはいつだったか?」

「2~3週後になるだろうな。俺はまた明後日には来るぞ」

来週はリュウールの第一弾発売と、再来週には第二弾、第三弾のポスター撮影も入っている。
それが終わらないと無理だろうな。

「いや、お前はいいんだよ! 香月くん来るの、そんなに先かよ。そんな先まで待てないなぁ……はぁ」

長谷川さんが心底悲しそうに表情を見せると、何やら考え込んだ晴が、ふと、良いことを思いついた! と言わんばかりの笑顔を見せた。

「長谷川さん、もし良かったら僕のアパートに来ませんか? 是非焼き立てを召し上がっていただきたいです!」

「えっ? 香月くん家にお邪魔して良いのかい?」

「はい。僕もフェリーチェの方に召し上がってもらえたら嬉しいですし」

長谷川さんが晴のアパートに行く?
2人っきりで?
いや、そんなことよりも晴のアパートには真島が現れるかもしれない。

「は……香月くん、君のアパートじゃなくて俺の家でもいいんじゃないか?」

そう提案してみたけれど、

「えっ? なんで早瀬くんの家に? どういうこと?」

晴のパンが食べたいと言っている長谷川さんにこんな提案してもそりゃあ驚くよな。

晴も

「普段のお料理なら早瀬さん家が良いんですけど、パンを焼くのはやっぱり慣れてるところが良いかなって。うちにはホームベーカリーもオーブンも置きっぱなしにしてますし。早瀬さんも一緒にどうですか?」

とアパートで作る気満々だ。

「それならそうしよう。俺も行くよ」

晴に言われたらそう言うしか出来なかった。
真島のことはあとでゆっくり考えよう。

俺たちがそんな会話をしているのを不思議そうな顔で見ている長谷川さんに軽く事情を説明しておく。

「いえ、実は香月くん、ちょっと事情があって今、うちで一緒に住んでるんですよ。わざわざ場所を移動しなくてもうちでいいかと提案したんですけど……」

「ああ、なるほどね。でも、香月くんの言うようにパンは慣れた環境の方が作りやすかったりするからね。オーブンもそれによってクセがあるし」

「へぇ、そういうものなんですね」

それは知らなかった。

「最近家をずっと空けてたので片付けてからお呼びしたいんですけど、週末土曜か日曜ならお呼びできると思いますよ」

「本当かい!! じゃあ、土曜日に行かせてもらおうかな。香月くんのパン楽しみだな」

興奮してウキウキと喜ぶその様子は普段冷静で落ち着いたイメージの長谷川さんとは随分違う。
よほど嬉しいんだな。

「香月くん。俺も行っていいか?」

慌てたように桜木部長も話に乗ってくる。
どうやら桜木部長も晴のパンが気になっているらしい。

「もちろん! 是非来てください!」

「土曜日だったな。楽しみにしている」

「はい。僕、料理作るの大好きなのでパン以外も作りますね。ご飯食べないでお腹空かせて来てくださいね」

ニッコリと微笑む晴のなんと可愛らしいことか……。
長谷川さんも、そして桜木部長も嬉しそうに大きく頷いていた。

今日の打ち合わせに晴はついてくる必要があったのかと思うほど、今日は書類を交わすことが主なやりとりで次から打ち合わせについての話をした程度で終わってしまった。

恐らく長谷川さんが晴に会いたくて連れてくるように言っただけなのだろう。

急遽週末に晴の家に行くことが決まったのは予定外ではあったが、最近は晴もなかなか料理を楽しむ機会も少なかったから、これで良かったのだと思う。

「それじゃあ香月くん、土曜日ね!」

「はい。時間が決定しましたらまたご連絡します」

「ああ、楽しみにしてるよ」

長谷川さんはそんなに晴のパンが食べたいのか?
まぁ、その理由もあるだろうが恐らく晴を気に入っているから一緒の時間を過ごしたいだけなのだろう。
長谷川さんからは晴に対して恋愛感情めいたものは感じないので大丈夫だとは思うが、
あれだけ好意を寄せられているのをみるのは正直言って嫉妬してしまう。

「早瀬、香月くん。悪かったな。あいつは人として気にいるととことん入れ込んでしまうところがあるから。本当なら休日まで上司とは会いたくないだろうが、私も香月くんのパンも料理も食べたくてな。つい、便乗してしまった」

「いいえ、僕、人に食べてもらうの好きなのできていただけるのはすごく嬉しいです。桜木部長や長谷川さんとお話しできるのもすごく勉強になりますし、僕が一番週末を楽しみにしてるんですよ」

そういってふわりと笑う晴に俺も桜木部長も心の底からやられてしまっていた。

ああ、晴はなんでこんなに可愛いんだろうな……。

会社へと戻る途中、桜木部長のおすすめの店があるということで、そこで昼食を食べることになった。

こじんまりした小さな定食屋の店内はサラリーマンでいっぱいだ。

「ここは美味しいのはもちろんだが、種類も多いし、何より安いんだ」

出入り口横に置かれた食券機で、晴は和風ハンバーグ定食、俺はトンカツ定食、そして桜木部長は茄子味噌定食を選んだ。

奥まったところに空いていた4人掛けの席に3人で座ると、店員が食券を取りにきた。

「うわぁ……。イケメン集団じゃん」

俺たちをみてまだ若そうな女性店員からそんな言葉が漏れる。

違う店でこういう時、水やおしぼりの追加だと言ってひっきりなしに代わる代わる店員が見に来てゆっくりできないことがあったから、またかと思ってしまった。

静かに食事ができないかもな……と少しガッカリしていたのだが、予想に反して料理を運んでくる時以外は誰も寄り付かず、ゆっくりと食事を楽しむことができた。

「早瀬、この店いい店だろ?」

どうやら桜木部長は俺が何を考えていたのか全部お見通しだったようだ。

「さすが、部長のおすすめの店というだけのことはありますね!」

またひとつお気に入りの店が増えたな。
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