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第1章 土地神ってなんですか

第9話 盗人の訪れ

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 順調かに見えた俺の土地神生活も、中々上がることのない土地レベルに少し不満が溜まり始めていた。

「はぁーあ。今日は何をするかなぁ」

 村人達よりも少し豪華な家の中で、一人ポツリと呟く。畑も増やす必要性が無いし、家の改築も終わってしまった。もうやることが無くなってしまったのである。

「そうだ!ここでダラダラしているのもなんだし、狩りにでも連れて行ってもらうとするか!」

 名案を閃いた俺は、すぐさま靴を履いて家の外へとでていく。日は昇ったばかりだし、村の狩り担当の人達もまだ出発していないはずだ。何の役にも立たないだろうけど、狩りをこの目で見られなんて、こんな良い機会はない。

 すれ違う村人達に手だけで挨拶を返しながら、狩り担当のリーダーであるガイシュの家まで歩いていく。

 もう少しで家に到着すると言った時、畑がある方向から騒ぎ声が聞こえてきた。歓喜の声と言うよりは動揺や怒りといった感じの声色に、俺は気になって進行方向を変える。

 畑に到着すると、そこには畑の管理者たちが全員集合していた。何があったのかと彼らの元へと駆けよると、その騒ぎの原因が俺の目にも飛び込んできた。

 なんと畑の作物が乱雑に刈り取られていたのだ。無造作に歩いたのが分かるくらい、畑の中には畝を踏み潰すような足跡が多く残っている。俺が指導した村人達ならば絶対に残す筈がない足跡に、俺は困惑を隠しきれなかった。

「くそぉ!ナオキ様の畑がこんな目に遭うなんて!」
「あいつらだ!あいつらが盗んでいったんだ!」

 フランクが踏み潰された作物を手に取りながら、親の仇を見るような瞳で荒れ地の方を見つめだす。その言葉を皮切りに、畑の管理者達は声を荒げながら拳を振り上げ始めた。

「絶対に許さんぞ!!ナオキ様の畑をめちゃくちゃにした奴らに目にもの見せてやる!!」
「そうだそうだ!!」
「みんな武器を取れぇ!罪人どもに裁きを与えてやるんだぁ!」

 トールがそう声をかけると、数人が村に向かって走っていった。俺は殺気じみた彼等の行動に思わず身震いしてしまう。よくわからないが、このままじゃマズイことになる気がする。俺は彼等を止めようと必死に声をかけた。

「ちょっと、ちょっと!皆落ち着いて!あいつらって誰の事を言ってるんだ!?」
「ナオキ様はご存じありませんでしたか。あの先に私達と同じような規模の集落があるのです。村の名は「ルノー」といい、野蛮な連中が暮らしているのですよ」

 トールが指さした方向を見ると、微かに小さな村のような物が見えた。俺よりもこの地に詳しい村人達が言っているのだから、きっとその村の連中が盗んでいったのだろう。

「その村の連中がナオキ様の育てた野菜欲しさに、畑を荒らしていったに違いありません!」

 フランクが声を大にして叫ぶ。それに賛同するように村人達も声を上げた。そして、武器を取りに行っていた者達が、狩り担当の者達も引き連れて帰ってきたのを見て、トールはより一層大きな声を上げる。

「いいか皆!!これからルノーの奴らに目にもの見せてやるぞぉ!覚悟は良いな!」
「おおー!!」

 そう言うや否や、この場にいた俺を除く全員がルノー村の方に向かって歩き始めてしまった。俺は必死に制止の声をかけるが、村人達はきく耳を持たない。

「皆止まれって!向こうにも何か事情があったかもしれないだろうが!」
「いいえナオキ様!どんな理由があろうとも、神に与えられし作物を乱雑に扱っていい理由などないのです!」

 彼らの行軍は止まらない。しかも、トールの発言がより一層村人達の怒りをかり立ててしまった。正直、俺も畑を踏み荒らされて頭にきているが、それくらいで人に暴力を振っていい筈がない。盗んだ奴らを懲らしめるために、村人達の手を汚してほしくないのだ。

 俺は行軍の前に駆けていき、恥ずかしい気持ちを必死にこらえながら彼等の前に立ち塞がった。

「土地神である俺の命令だ!!今すぐその足を止めろ!!」

 俺の言葉に村人達はピタリと足を止める。

「どんな理由があろうと神の与えた物を盗んではいけないと言ったな!それと同じように、どんな理由があろうと暴力を振るっちゃいけないんだよ!今すぐ武器を下ろせ!!」
「……出来ません!私達がナオキ様と一緒に作った畑を、奴らは踏み潰したのですよ!?それを見過ごせというのですか!!」

 最初に俺と畑を管理することになったフランクが、怒りと悔しさを滲ませながら声を荒げる。俺だって悔しくないわけじゃない。でも、このやり方は絶対に間違っている。

「見過ごせって言ってるんじゃない!まずは話を聞こうって言ってるんだ!」
「あいつらと話す!? そんなことできるわけが無いじゃないですか!」
「出来るさ!同じ人間なんだ!絶対に話は出来る!俺を信じろ!」

 力強く叫び己を鼓舞するかのように胸を叩く。俺の圧に気おされたのか、彼等はたじろいでいた。そして一人、一人と、手に持っていた鍬や斧を地面へと置き始める。だがトールだけは手に持っていた斧を離そうとはしなかった。

「トール……」
「私達は貴方を信じています。貴方が子供達の命を救い、村人達の命を救ってくれたことをこの目に焼き付けておりますから。だからこそ、この斧は離すことは出来ません!貴方を守る武器を持たずに、ルノーまではいけませんから!」

 そう言って斧を握りしめるトールさん。俺は仕方なくそれを許し、今度は俺が先頭になって村人達を率いていく。

 ルノー村に到着すると、その異様な雰囲気に俺達一行は驚いてしまった。村の入り口にはやつれた男性が倒れており、村の中にも同じように倒れている人の姿が見える。俺は急いで男性の傍へと駆けより声をかけた。

「大丈夫ですか!」
「あ……み……ず」
「水?水ですね!『水生成』発動!」

 かろうじて聞こえてきた『水』の言葉に俺はすぐさまスキルを発動させる。手の平から出ていく大量の水をもう片方の手で押さえながら、少しずつ男の口の中へと注いでいく。男はごくごくと音を立てながら水を飲み元気を取り戻していった。

「助かったぜ……あんたら……ミモイの奴らだな?」
「そうだ!我等の作物を盗んだ貴様らに裁きを与えにやって来たのだ!」

 口が利けるようになった男に、トールが容赦なく言葉をぶつける。男は俺に支えられながら体を起こし、うっすらと笑って見せた。

「裁きなら……とっくに受けてるさ」
「なんだと!」

 男の言葉にトールは動揺する。村から出ている異様な雰囲気が、男の発言が嘘ではないと思わせたからだ。

「どういうことですか?」
「俺達が水源に利用していた湖に……ゴブリン達が住処を作りやがったんだ。お蔭で俺達は……水を汲みにも行けやしねぇ。畑の作物は……全部枯れちまった」

 男は喋りながら涙を流していた。そして全てを語り終えると疲れたのか、瞼を閉じて眠りに落ちてしまった。俺は男を起こさぬよう、その場に横にさせてやる。

「全員で村の中を歩き回って、倒れている人を見かけたら連絡してくれ!!運べそうなら一箇所に集めて貰うと助かる!!」

 村人達に指示を飛ばし、俺は村の中へと入っていく。俺の言葉に動揺する村人達だったが、直ぐに行動を開始してくれた。その甲斐もあって、ルノー村の中から一人も犠牲者を出すことなく、全員を救うことが出来たのだった。

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