77 / 111
知らない時間
76:疫病神は自衛する
しおりを挟む
「本当に君は疫病神だな!!」
救民祭が始まった直後のことだった。
開会式にオケアノスと出席した私は王太子妃として出席者に愛想を振りまいていた。挨拶や儀式が終わり、自分の仕事は終わりだと馬車に乗ろうとしたその瞬間だった。風を切るような音がした瞬間、私の肩に何かが当たったと思うとドレスに血が滲み出した。
血が出て来る感覚と痛みからどこからか、弓矢か何かで射られたのだと察しつつ、突き刺さってはいないことからかすり傷と判断した。それに年に1度の祭りに水を差してはいけないと、朦朧とし始める意識の中で馬車に倒れ込もうとした。しかし、矢に毒でも塗ってあったのか、思ったよりもキズが深かったのか、思いのほかの痛みに耐えかねた私がその場にしゃがみこむと、腕を伝って血が滴り落ちて来たのである。
すると、私の横に居たサラが大きな叫び声を出し、その場で卒倒したのである。
その声とサラが倒れこむ光景によって、周囲にいた国民がこの場で事件が起きたことに気がつき辺りは一瞬でパニックになったのである。
「誰かが皇女を暗殺しようとした!!」
「いや、怪我をしたのはテンペスタス子爵令嬢のようだぞ?!」
「どうやらさきほど高貴な女性が暗殺されたようだ!!」
一瞬で情報は錯綜してしまい人々は口々思い思いのことを叫びながら、犯人を捜そうとしたり、逃げ出そうとしたりとし、周囲は完全にパニック状態になって出店や催し物の舞台も関係なく詰め寄って来ていた。
怪我をしている私は人並みに飲まれそうになって恐ろしくなり、近くにいたオケアノスに助けを求めようと手を伸ばした。
パシッ
しかし、その手は虚しく払いのけらたのである。
オケアノスはサラを抱きかかえながら私にこう吐き捨てた。
「本当に君は疫病神だな!!」
「や、疫病神?」
「君の国の伝統行事に比べれば新興国の祭りなんて穢して良いと思ったのか?神聖な祭りを血で汚すなんて!サラを怖がらせて卒倒させて、民を混乱させているじゃないか!何故ただ黙って座っているだけのことが出来ない?」
「私のせいではございません!誰かが、私を狙って来たのは見て分かりますでしょう?!」
「僕の国の国民が君の命を狙ったと言いたいのか!なんて侮辱をっ!!大体、王族なのだからこのように目立つ場所に出る際には最新の注意をすべきだったのではないか?まったく、君の国ではそんなことも教えてくれないのか……これだから田舎の国は」
「私の国を田舎をおっしゃいましたか!!」
「ああ言ったとも!あんな辺鄙な何もない国、皇族なんて名ばかりだろうに。せめて自衛くらいしてくれないか。ーーああ、サラ可哀想に。恐ろしかっただろう」
オケアノスがそう言うと、彼の腕の中にいたサラは弱々しげに声をだした。
「…申し訳ございません、オケアノス様。せっかくのお祭りなのに…」
「サラのせいではない、急いで王宮に戻って治療をしよう」
「…いえ、私よりも皇女様を…」
「自分がこんな状態なのに皇女の心配をするなんて、全く君は聖女だ。心配するな、すぐに王宮の侍医に見せてやるからな」
「皇女様、すみません」
サラが少し笑いながら放った『すみません』が何を意味していたのかわからない。
オケアノスはサラを横抱きにすると足早に馬車に乗り込み、御者に急ぎ王宮に戻るように叫ぶと言いつけられた御者は狼狽えながら声を発した。
「皇女様もお連れしないと」
「この馬車は2人乗りで小さい、サラを横にしなければ行けないから皇女は陛下の馬車に乗せる」
「し、しかし、陛下の馬車は…」
「早く出せ!!」
苛立たしげに怒号を浴びせられた御者は、私に心配そうな視線を向けながら仕方なさそうに馬に鞭を打った。
肩を射たれた私は背後で暴動のようになっている民衆が暴れている中で、馬車が小さくなっていくのをただ見つめるしかなかった。
◆◆◆◆◆◆
思い出したわ~。あまりにも屈辱的だったから忘れていたのね。
軽快に馬に乗りながら過去を思い返しているとクイエテが私の横に馬を着けて豪快に笑いかけてきた。
「皇女様がこんなに乗馬が巧いとは思わなかった!ペルラでは馬に乗ることが多いのですか?」
「いいえ、でも乗れて損はないと思って練習したんです」
過去のあの出来事の後にね。
馬車に置いて行かれた私は、陛下達の馬車とも合流が出来ず、朦朧とする中で歩いて王宮まで帰ることとなった。途中でたまたま馬に乗っていた人に出会い、その人がその馬に私を乗せてくれていなければきっと途中で息絶えていた。ーーあの時点でそうなっていたなら、こうしてもう一度人生をやり直せていなかったのだろうか。
「練習されたのですか!素晴らしい!!カエオレウムの女性はあまり馬に乗らないので、一緒に乗ってくれる人が出来たようで嬉しいです。それに、皇女様のお誘いのお陰でセールビエンスも一緒に来てくれるんですもの!」
「わ、私も巧く乗れていますか?」
「セールビエンス様、とてもお上手だと思いますよ!私よりも姿勢が綺麗だと思いますし、本当に今日が初めてなのですか?」
「そうね!セールビエンスは本当は運動神経が良いのに周囲の目を気にして部屋に閉じこもっているんですもの。私は昔っから勿体ないと思っていたのよ!」
「運動神経が良い?そんなはずはありませんわ!去年のダンスなんて本当に酷いものだったのですよ…」
謙遜のような恐縮のように驚いているセールビエンスに、クイエテがため息をついていた。
「ほんとーに気がついてないの?私、去年のあなたの話を別のグループの方々から聞いているけど、あなたがダンスが出来ないのではなくて、あなたが周囲より上手過ぎて浮いていただけのようよ?」
「まさかっ、そんなことはありません!」
クイエテの指摘にセールビエンスが馬の手綱から両手を話して、否定のように手を横に振っているではないか。
昨年のセールビエンス達の催しは過去も今も見たことがないから私では判断ができないけど、今目の前でしている乗馬能力を見る限りセールビエンスが運動が得意そうなのは私も同意するしかない。
救民祭が始まった直後のことだった。
開会式にオケアノスと出席した私は王太子妃として出席者に愛想を振りまいていた。挨拶や儀式が終わり、自分の仕事は終わりだと馬車に乗ろうとしたその瞬間だった。風を切るような音がした瞬間、私の肩に何かが当たったと思うとドレスに血が滲み出した。
血が出て来る感覚と痛みからどこからか、弓矢か何かで射られたのだと察しつつ、突き刺さってはいないことからかすり傷と判断した。それに年に1度の祭りに水を差してはいけないと、朦朧とし始める意識の中で馬車に倒れ込もうとした。しかし、矢に毒でも塗ってあったのか、思ったよりもキズが深かったのか、思いのほかの痛みに耐えかねた私がその場にしゃがみこむと、腕を伝って血が滴り落ちて来たのである。
すると、私の横に居たサラが大きな叫び声を出し、その場で卒倒したのである。
その声とサラが倒れこむ光景によって、周囲にいた国民がこの場で事件が起きたことに気がつき辺りは一瞬でパニックになったのである。
「誰かが皇女を暗殺しようとした!!」
「いや、怪我をしたのはテンペスタス子爵令嬢のようだぞ?!」
「どうやらさきほど高貴な女性が暗殺されたようだ!!」
一瞬で情報は錯綜してしまい人々は口々思い思いのことを叫びながら、犯人を捜そうとしたり、逃げ出そうとしたりとし、周囲は完全にパニック状態になって出店や催し物の舞台も関係なく詰め寄って来ていた。
怪我をしている私は人並みに飲まれそうになって恐ろしくなり、近くにいたオケアノスに助けを求めようと手を伸ばした。
パシッ
しかし、その手は虚しく払いのけらたのである。
オケアノスはサラを抱きかかえながら私にこう吐き捨てた。
「本当に君は疫病神だな!!」
「や、疫病神?」
「君の国の伝統行事に比べれば新興国の祭りなんて穢して良いと思ったのか?神聖な祭りを血で汚すなんて!サラを怖がらせて卒倒させて、民を混乱させているじゃないか!何故ただ黙って座っているだけのことが出来ない?」
「私のせいではございません!誰かが、私を狙って来たのは見て分かりますでしょう?!」
「僕の国の国民が君の命を狙ったと言いたいのか!なんて侮辱をっ!!大体、王族なのだからこのように目立つ場所に出る際には最新の注意をすべきだったのではないか?まったく、君の国ではそんなことも教えてくれないのか……これだから田舎の国は」
「私の国を田舎をおっしゃいましたか!!」
「ああ言ったとも!あんな辺鄙な何もない国、皇族なんて名ばかりだろうに。せめて自衛くらいしてくれないか。ーーああ、サラ可哀想に。恐ろしかっただろう」
オケアノスがそう言うと、彼の腕の中にいたサラは弱々しげに声をだした。
「…申し訳ございません、オケアノス様。せっかくのお祭りなのに…」
「サラのせいではない、急いで王宮に戻って治療をしよう」
「…いえ、私よりも皇女様を…」
「自分がこんな状態なのに皇女の心配をするなんて、全く君は聖女だ。心配するな、すぐに王宮の侍医に見せてやるからな」
「皇女様、すみません」
サラが少し笑いながら放った『すみません』が何を意味していたのかわからない。
オケアノスはサラを横抱きにすると足早に馬車に乗り込み、御者に急ぎ王宮に戻るように叫ぶと言いつけられた御者は狼狽えながら声を発した。
「皇女様もお連れしないと」
「この馬車は2人乗りで小さい、サラを横にしなければ行けないから皇女は陛下の馬車に乗せる」
「し、しかし、陛下の馬車は…」
「早く出せ!!」
苛立たしげに怒号を浴びせられた御者は、私に心配そうな視線を向けながら仕方なさそうに馬に鞭を打った。
肩を射たれた私は背後で暴動のようになっている民衆が暴れている中で、馬車が小さくなっていくのをただ見つめるしかなかった。
◆◆◆◆◆◆
思い出したわ~。あまりにも屈辱的だったから忘れていたのね。
軽快に馬に乗りながら過去を思い返しているとクイエテが私の横に馬を着けて豪快に笑いかけてきた。
「皇女様がこんなに乗馬が巧いとは思わなかった!ペルラでは馬に乗ることが多いのですか?」
「いいえ、でも乗れて損はないと思って練習したんです」
過去のあの出来事の後にね。
馬車に置いて行かれた私は、陛下達の馬車とも合流が出来ず、朦朧とする中で歩いて王宮まで帰ることとなった。途中でたまたま馬に乗っていた人に出会い、その人がその馬に私を乗せてくれていなければきっと途中で息絶えていた。ーーあの時点でそうなっていたなら、こうしてもう一度人生をやり直せていなかったのだろうか。
「練習されたのですか!素晴らしい!!カエオレウムの女性はあまり馬に乗らないので、一緒に乗ってくれる人が出来たようで嬉しいです。それに、皇女様のお誘いのお陰でセールビエンスも一緒に来てくれるんですもの!」
「わ、私も巧く乗れていますか?」
「セールビエンス様、とてもお上手だと思いますよ!私よりも姿勢が綺麗だと思いますし、本当に今日が初めてなのですか?」
「そうね!セールビエンスは本当は運動神経が良いのに周囲の目を気にして部屋に閉じこもっているんですもの。私は昔っから勿体ないと思っていたのよ!」
「運動神経が良い?そんなはずはありませんわ!去年のダンスなんて本当に酷いものだったのですよ…」
謙遜のような恐縮のように驚いているセールビエンスに、クイエテがため息をついていた。
「ほんとーに気がついてないの?私、去年のあなたの話を別のグループの方々から聞いているけど、あなたがダンスが出来ないのではなくて、あなたが周囲より上手過ぎて浮いていただけのようよ?」
「まさかっ、そんなことはありません!」
クイエテの指摘にセールビエンスが馬の手綱から両手を話して、否定のように手を横に振っているではないか。
昨年のセールビエンス達の催しは過去も今も見たことがないから私では判断ができないけど、今目の前でしている乗馬能力を見る限りセールビエンスが運動が得意そうなのは私も同意するしかない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
107
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる