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告白

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 熱く甘いひと時が過ぎ、ローゼはユリアンの腕を枕に、心地良い疲労感の中を漂っていた。
「……つい、夢中になってしまったが、辛くなかったか」
 微睡まどろんでいるように見えたユリアンが、口を開いた。
「はい……ユリアン様が、私の名を沢山呼んでくださって、嬉しかったです」
 言って、ローゼは微笑んだ。
「そうか? 覚えていないな……」
 ユリアンは、少し恥ずかしそうな顔をした。
「……あの、書庫の書物に書いてあったのですが……」
「何だ?」
「『愛し合う』のは、子供を作る為の行為なのですね。……私も、ユリアン様の赤ちゃんを産むのでしょうか?」
 ローゼは書物に書かれていることを読んで驚きはしたものの、同時に、ユリアンに似た美しい子供が生まれるのだと、嬉しくなったのだ。
「それなら、心配ないぞ」
「心配?」
「俺は、『避妊薬』……一時的に子供を作る機能を停止させる薬を飲んでいるから、お前を妊娠させることはない」
 そう言って、ユリアンはローゼの髪を撫でた。
「……そう、なんですね」
 ローゼは、ほんの少し残念な気持ちになったが、それもユリアンの気遣いなのだと悟った。
「……お前に、話しておきたいことがある」
 少しの沈黙の後、ユリアンが再び口を開いた。
「俺は、戸籍上は父であるエーデルシュタイン伯爵と、その正妻の子ということになっている。……だが、俺の生みの母は、奴隷だった」
 彼の言葉に、ローゼは何と答えればいいのか分からなかった。
「生みの母は、俺を生んで間もなく亡くなったそうだ。美しい人だったと聞いている」
 美しかったユリアンの母にエーデルシュタイン伯爵が惚れこみ、自分のものとした結果、ユリアンが生まれたのだという。
 一方で、エーデルシュタイン伯爵の正妻は、健康上の理由で出産が望めない身体になってしまった。
 世継ぎを生むことを義務とされる貴族の正妻にとって、それは存在意義を失うことでもあった。
 しかし、家同士の利害の一致からの婚姻でもあった為、伯爵夫妻は離縁の選択肢を取ることはしたくなかった。
 そこで、生みの母を亡くしたユリアンを伯爵夫妻の実子として育てることにしたのだ。
 幼い頃のユリアンは何も知らず、父の正妻を生みの母と信じて育った。
 多忙だった父は家にいることが少なく、ユリアンにとって「母」は最も身近な、彼が愛情を向ける存在だった。
 だが、「母」はユリアンに触れようともせず、養育は乳母や使用人たちに丸投げしていた。
 「母」に構って欲しくてユリアンが傍に寄ると、忙しいと言われて遠ざけられた。
「俺は、母に嫌われていると薄々うすうすは感じていた。自分が母の望むような『いい子』ではないから、好いてもらえないのだと思った」
 ユリアンは幼いながらも常に礼儀正しく振舞い、親の言うことには絶対服従し、勉学にも励んだ。
 それでも「母」はユリアンに関心を示すことはなく、代わりに投げつけられたのは「お前に母などと呼ばれる覚えはない。近寄るな」という言葉だった。
 その時から、ユリアンも「母」を避けるようになり、言葉もほとんど交わさないまま、数年後に「母」はやまいで亡くなった。
「……今なら、『母』の気持ちも理解できる。夫が別の女との間に作った子供など見たくもないだろう。しかし、当時は俺も幼かったから、ひどく傷ついて、誰かに好意を示すことが恐ろしくなってしまった」
 初めてユリアンの生い立ちを知ったローゼは、胸が痛くなると共に、彼に対して愛おしさを覚えた。
「表沙汰にはされていなくても、俺と似た境遇の者など幾らでもいるだろうし、お前からすれば甘えていると言われそうだが」
 ユリアンは自嘲するかのように笑った。
「『避妊薬』がもう少し早く完成していたなら、俺も生まれずに済んだだろう。そうすれば、生みの母も死なず、育ての母も苦しまなかっただろうな」
「そんなの……そんなの、だめです……!」
 ローゼは、ユリアンを抱きしめて言った。
「ユリアン様がいなければ、私は、どうなっていたか分かりません……こんな風に幸せになれたのは、ユリアン様の御蔭おかげです。生まれないほうが良かったなんて……言わないでください」
 ユリアンも、ローゼを抱きしめた。
「そうだな。俺も、お前に救われている……何があっても離したりしないから、覚悟しておけ」
 彼の腕の中で、ローゼは頷き、微笑んだ。
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