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第9章 ウイスキーの街
24 治癒魔法
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その後あゆみに俺が今回の一件の経緯をこいつから隠してたことがバレ、現状こうやって言い訳をさせられることになったわけだが。
もちろん自分の心情はなるべく省いて話してたんだがそれでも端々に上がる俺の不満の声音であゆみも俺がかなり頭にきてるのに気づいたようだ。最後の方は非常に神妙になって俯いてた。
「まあそういう訳で取り敢えずレネん所に顔出してから帰るぞ」
俺がそう言うとあゆみが無言で頷く。
つい頭でも撫でて慰めてやりたくなっちまうが今回は駄目だ。後でしっかり話し合うまでは許すような態度を取ったらマズい。
「……監査は?」
「は?」
突然何をっと思えばあゆみが真っ赤な顔で少し涙を滲ませながら俺を見上げた。
「監査は諦めるの?」
「お前なぁ。今はそれどころじゃないだろ」
俺の言葉を聞いたあゆみはおとなしく引き下がった。
こいつの頭の中は一体どうなってんだ?
脈絡もなく突然出てきた監査という言葉にちょっと引っかかりながら俺はあゆみを抱えてレネの元へ向かった。
「入るぞ」
ノックと共にそう断って部屋に入れば明け方とまるっきり同じ面子が俺たちを待ち受けていた。
「あゆみ、大丈夫なのか?」
キールの問にあゆみが少し力なく微笑んで答える。
「大丈夫です、ご心配おかけしました」
あゆみがそう言って俺に抱えられたまま小さく会釈する。
……それ、俺には言わねーのかよ。
ちらっとそんなことが頭をかすめた。
「ネロ、まずは座れ。あゆみは先にテリースの診断を隣で受けて来い」
あゆみを抱えたまま空いてた椅子に座ろうとするとテリースが俺のところにあゆみを受け取りにくる。
「ご心配なく。私たちはすぐ隣りにいますしすぐに済みますから」
そう言ってニッコリといつもの人の好さそうな顔で微笑みながら手を差し出すテリースに流石に今度は任せるしかなく、仕方なく腕の中のあゆみを託した。
不機嫌を誤魔化すように乱暴に椅子に身体を預けてレネが出してくれた茶を啜った。途端、舌を突き刺すようなとんでもない苦みに俺が顔を顰めるとアルディが「このお茶はテリース曰く健康にいいそうですよ」と嬉しそうに言いつつ飲み切ってない自分の茶器を押し返しながらこちらを見る。
「悪いが俺、猫舌だからこれは飲めねえ」
「水を足しましょうか?」
「いや、苦すぎて俺の味覚じゃ無理」
「それも猫舌の言い訳になるんですかね」
アルディが呆れてこちらを見てるがこんな苦い茶を一体誰が飲むんだ?
っと思ったら飲んでる奴がいた。アルディのすぐ横でキールが顔色一つ変えずに自分の茶を飲み切ってから俺に話しかけてくる。
「あゆみがテリースの診断を受けてる間にお前もちょっと覚悟しとけ。今ごろテリースがあゆみに痛覚隔離を止めろって言ってるから──」
「痛えっ!」
突然激痛が足首の横に走った。
「──怪我が残ってたら痛むぞって言おうと思ったんだが遅かったな」
「だっ大丈夫だ」
突然だったから勝手に声が出ちまっただけで見れば大したことない小さな打撲だった。何となく最初の戦闘中にくじいたのを覚えてるがいつ痛みがなくなったのかは思い出せない。それがどうも今まであゆみの痛覚隔離のお陰で隠れてたってことらしい。
俺がズボン捲くって痣を確認してるとあゆみたちが部屋に戻ってくる。
「ほらあゆみさん、ご覧なさい。ああして傷に気づかないまま戦闘を続けてしまうと下手をすれば傷をかばう事もせずに不必要な負荷をかけて悪化させてしまう事もありえるのです。ですから決して必要以上の部位に必要以上の強さで使ってはいけません」
テリースが説明する横であゆみが少し青くなってる。杖を返されたあゆみが少し焦り気味に俺に向かって自分で歩いてきた。
「黒猫君、本当にごめんなさい」
「ネロ君一応見せてください」
心配そうに謝りながら俺の痣を見つめるあゆみの頭をつい撫でちまってから隣の椅子に座らせてるとテリースも来て足首を軽く診断してくれる。
「どうってことねえって」
「そうですね……」
打撲は小さいし腫れてもいない。テリースがちょっと首を傾げてから自分の椅子に座りながら続けた。
「その打撲、実は昨日拝見した時に気づいてたのですがわざと何も言わなかったんですよ」
「はあ?」
「あゆみさんに痛覚隔離の過剰使用の危険性をご理解頂ける非常にいい例だと思いましてね」
あゆみが横で神妙に頷いた。だが待て。
「おい、俺は研修材料扱いかよ」
俺の文句にテリースが悪びれもせずに続ける。
「ええ。ですが昨日拝見したときにはもう少し酷く腫れて来ると思ってたんですが」
「へ?」
「逆に良くなってきてますね」
「…………」
こいつ結構酷いよな。そんな状態で俺には何も知らせずにあゆみの研修用に痛覚隔離外させたのかよ。
「テリースそれはどういう事だ?」
声もなくテリースを睨む俺と神妙に俯いてるあゆみの間からキールが声をかけた。
「あゆみ効果じゃねえのか?」
俺が適当に答えるとテリースが一人納得のいってる顔で相槌を打つ。
「ええ、多分あゆみさんが無意識に治療を行ってるのでしょう。治癒魔法の一種ですね。ただこのような打撲などの治療は階位にして大体中級2位以上の技量が必要ですので私では確実な事は言えません」
「え? じゃあ打撲の治療も出来る治癒魔法があるんですか?」
ああ、そう言うことか。今までこの世界の治療はこういう内部の損傷は直せないんだって勘違いしてたが要はテリースの技術的な制約だったのか。
「あるにはあるのですが人間には使える者がほとんどいません。治癒魔法自体がエルフ特有の固有魔法ですから」
「じゃあ俺のは?」
「ああ、獣人にも稀に治癒を促進できる者がいますがそれは全く別系統の魔術です。いえ、魔術というか特技と言ったほうが正しいくらいで、自己治癒能力を高める事で傷を早く治すだけですからその治癒力は怪我をした本人のものです」
「え? それじゃああゆみの火傷が治ったのは……」
「ネロ君があゆみさんの自己治癒能力を触発して一気に自分で治癒させたということです。ただ本人の身体が行う以上に確実に元通りに治癒させることができますからやはり非常に有能な特技ですね」
これ魔法じゃなかったのか……いや、それだけじゃない。これじゃあゆみの傷は俺が直してやったって言えるのか?
ちょっと複雑な心境で俺が考え込むとあゆみが横から声を上げた。
「テリースさん、是非私その治癒魔法も勉強したいんですけどどうしたらいいんですか?」
やけに真剣にあゆみが話題に食いついてる。聞かれたテリースは少し困った顔で答えた。
「さあ、治癒魔法が出来るものは基本はエルフだけですからね。あゆみさんのこの治癒魔法に関しては機会があればエルフに相談するのが一番かと思います」
「ああ、じゃあナンシーに着いたらシアンさんとシモンさんに相談しましょう」
良いことを思い付いたとあゆみが少し嬉しそうにそう答えキールが凄く嫌そうに顔をゆがめた。
もちろん自分の心情はなるべく省いて話してたんだがそれでも端々に上がる俺の不満の声音であゆみも俺がかなり頭にきてるのに気づいたようだ。最後の方は非常に神妙になって俯いてた。
「まあそういう訳で取り敢えずレネん所に顔出してから帰るぞ」
俺がそう言うとあゆみが無言で頷く。
つい頭でも撫でて慰めてやりたくなっちまうが今回は駄目だ。後でしっかり話し合うまでは許すような態度を取ったらマズい。
「……監査は?」
「は?」
突然何をっと思えばあゆみが真っ赤な顔で少し涙を滲ませながら俺を見上げた。
「監査は諦めるの?」
「お前なぁ。今はそれどころじゃないだろ」
俺の言葉を聞いたあゆみはおとなしく引き下がった。
こいつの頭の中は一体どうなってんだ?
脈絡もなく突然出てきた監査という言葉にちょっと引っかかりながら俺はあゆみを抱えてレネの元へ向かった。
「入るぞ」
ノックと共にそう断って部屋に入れば明け方とまるっきり同じ面子が俺たちを待ち受けていた。
「あゆみ、大丈夫なのか?」
キールの問にあゆみが少し力なく微笑んで答える。
「大丈夫です、ご心配おかけしました」
あゆみがそう言って俺に抱えられたまま小さく会釈する。
……それ、俺には言わねーのかよ。
ちらっとそんなことが頭をかすめた。
「ネロ、まずは座れ。あゆみは先にテリースの診断を隣で受けて来い」
あゆみを抱えたまま空いてた椅子に座ろうとするとテリースが俺のところにあゆみを受け取りにくる。
「ご心配なく。私たちはすぐ隣りにいますしすぐに済みますから」
そう言ってニッコリといつもの人の好さそうな顔で微笑みながら手を差し出すテリースに流石に今度は任せるしかなく、仕方なく腕の中のあゆみを託した。
不機嫌を誤魔化すように乱暴に椅子に身体を預けてレネが出してくれた茶を啜った。途端、舌を突き刺すようなとんでもない苦みに俺が顔を顰めるとアルディが「このお茶はテリース曰く健康にいいそうですよ」と嬉しそうに言いつつ飲み切ってない自分の茶器を押し返しながらこちらを見る。
「悪いが俺、猫舌だからこれは飲めねえ」
「水を足しましょうか?」
「いや、苦すぎて俺の味覚じゃ無理」
「それも猫舌の言い訳になるんですかね」
アルディが呆れてこちらを見てるがこんな苦い茶を一体誰が飲むんだ?
っと思ったら飲んでる奴がいた。アルディのすぐ横でキールが顔色一つ変えずに自分の茶を飲み切ってから俺に話しかけてくる。
「あゆみがテリースの診断を受けてる間にお前もちょっと覚悟しとけ。今ごろテリースがあゆみに痛覚隔離を止めろって言ってるから──」
「痛えっ!」
突然激痛が足首の横に走った。
「──怪我が残ってたら痛むぞって言おうと思ったんだが遅かったな」
「だっ大丈夫だ」
突然だったから勝手に声が出ちまっただけで見れば大したことない小さな打撲だった。何となく最初の戦闘中にくじいたのを覚えてるがいつ痛みがなくなったのかは思い出せない。それがどうも今まであゆみの痛覚隔離のお陰で隠れてたってことらしい。
俺がズボン捲くって痣を確認してるとあゆみたちが部屋に戻ってくる。
「ほらあゆみさん、ご覧なさい。ああして傷に気づかないまま戦闘を続けてしまうと下手をすれば傷をかばう事もせずに不必要な負荷をかけて悪化させてしまう事もありえるのです。ですから決して必要以上の部位に必要以上の強さで使ってはいけません」
テリースが説明する横であゆみが少し青くなってる。杖を返されたあゆみが少し焦り気味に俺に向かって自分で歩いてきた。
「黒猫君、本当にごめんなさい」
「ネロ君一応見せてください」
心配そうに謝りながら俺の痣を見つめるあゆみの頭をつい撫でちまってから隣の椅子に座らせてるとテリースも来て足首を軽く診断してくれる。
「どうってことねえって」
「そうですね……」
打撲は小さいし腫れてもいない。テリースがちょっと首を傾げてから自分の椅子に座りながら続けた。
「その打撲、実は昨日拝見した時に気づいてたのですがわざと何も言わなかったんですよ」
「はあ?」
「あゆみさんに痛覚隔離の過剰使用の危険性をご理解頂ける非常にいい例だと思いましてね」
あゆみが横で神妙に頷いた。だが待て。
「おい、俺は研修材料扱いかよ」
俺の文句にテリースが悪びれもせずに続ける。
「ええ。ですが昨日拝見したときにはもう少し酷く腫れて来ると思ってたんですが」
「へ?」
「逆に良くなってきてますね」
「…………」
こいつ結構酷いよな。そんな状態で俺には何も知らせずにあゆみの研修用に痛覚隔離外させたのかよ。
「テリースそれはどういう事だ?」
声もなくテリースを睨む俺と神妙に俯いてるあゆみの間からキールが声をかけた。
「あゆみ効果じゃねえのか?」
俺が適当に答えるとテリースが一人納得のいってる顔で相槌を打つ。
「ええ、多分あゆみさんが無意識に治療を行ってるのでしょう。治癒魔法の一種ですね。ただこのような打撲などの治療は階位にして大体中級2位以上の技量が必要ですので私では確実な事は言えません」
「え? じゃあ打撲の治療も出来る治癒魔法があるんですか?」
ああ、そう言うことか。今までこの世界の治療はこういう内部の損傷は直せないんだって勘違いしてたが要はテリースの技術的な制約だったのか。
「あるにはあるのですが人間には使える者がほとんどいません。治癒魔法自体がエルフ特有の固有魔法ですから」
「じゃあ俺のは?」
「ああ、獣人にも稀に治癒を促進できる者がいますがそれは全く別系統の魔術です。いえ、魔術というか特技と言ったほうが正しいくらいで、自己治癒能力を高める事で傷を早く治すだけですからその治癒力は怪我をした本人のものです」
「え? それじゃああゆみの火傷が治ったのは……」
「ネロ君があゆみさんの自己治癒能力を触発して一気に自分で治癒させたということです。ただ本人の身体が行う以上に確実に元通りに治癒させることができますからやはり非常に有能な特技ですね」
これ魔法じゃなかったのか……いや、それだけじゃない。これじゃあゆみの傷は俺が直してやったって言えるのか?
ちょっと複雑な心境で俺が考え込むとあゆみが横から声を上げた。
「テリースさん、是非私その治癒魔法も勉強したいんですけどどうしたらいいんですか?」
やけに真剣にあゆみが話題に食いついてる。聞かれたテリースは少し困った顔で答えた。
「さあ、治癒魔法が出来るものは基本はエルフだけですからね。あゆみさんのこの治癒魔法に関しては機会があればエルフに相談するのが一番かと思います」
「ああ、じゃあナンシーに着いたらシアンさんとシモンさんに相談しましょう」
良いことを思い付いたとあゆみが少し嬉しそうにそう答えキールが凄く嫌そうに顔をゆがめた。
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