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風邪かしら?

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 時刻は朝の6時。

 オリヴィアはゆっくりとベッドから上半身を起き上がらせるも、その日は何故だか身体が重だるく感じた。

「昨日の疲れでも残ってるのかしら……?」

 かと言って、昨日はそんなに重労働なこともしていない。

 確かダンスのレッスンがあったけれど、基本しかやっていないし、後は歴史を習って、それから……。

「うぅーん、まあ、メイドが来るまでまだ2時間はあるし、もう少し寝ようかしら?」

 寝不足ならギリギリまで寝ていれば治るだろうともう一度横になってみる。

 しかし、一度目を覚ましてしまうと、中々眠れない。

 仕方なく私は身体を上半身だけ起こして本でも読むことにした。

 しかし、何だか本の内容が全然頭に入ってこない。

 頭がぼーっとしていて集中が出来ないのだ。

 そのせいで何度も同じ文章を読み返してしまう。

「うーん、おかしいなぁ」

 仕方なく、本を読むのを諦めて大人しく横になって目を瞑る。

 しかし、眠ることは出来ない。

 そう悩んでいる内に、お付きのメイドが来る時間になった。

「オリヴィア様、朝でございます。
おはようございます」

 メイドにコンコンとノックされ、私はフラフラとした足取りで扉の鍵を開ける。

「失礼します……あら?」

 メイドは、私の姿を見て目を丸くしてびっくりしていた。

 それもそうだろう。いつも私はメイドが来る前に寝巻きから着替えているのに、今日はまだ寝巻きのままなのだから。

「オリヴィアお嬢様、どうかされましたか?」

 普段と違う私の様子に、メイドはすぐに勘づいた。

「別に……何だか疲れが取れていないのか、ベッドで横になってただけよ」

 私が気怠げにそう答えると、メイドは私の様子をじっと見てきた。

「オリヴィアお嬢様、少しお顔が赤いですよ?」

「そう? 今日は少し暖かいから、そのせいじゃないかしら?」

 オリヴィアの言葉を聞いたメイドは訝しげな顔で答える。

「今日は昨日よりも冷え込んできていますよ?」

 そうしてメイドはぐいぐいとオリヴィアをベッドの方へと連れて行った。

「え? 何よ?」

「オリヴィアお嬢様、恐らく風邪を引かれたのでしょう。
今お医者様をお呼びしますので、それまでベッドで休んでいてください」

「え、医者を呼ぶほどでもないでしょ。
そんな大袈裟な」

 私がそう言うのも束の間、メイドはひょいと私を持ち上げベッドに下ろし、丁寧に布団まで被せてくれた。

「大袈裟ではありません。風邪は万病の元ですから。
朝食は食べられそうですか?
お部屋までお持ちしますのでオリヴィアお嬢様はゆっくり休んでいてください」

 そう言ってメイドは部屋を去っていった。

「風邪如きでそんな大袈裟ね」

 私自身普段はあまり風邪を引かないのだが、恐らく昨日から急に冷え込んだせいで風邪を引いてしまったらしい。

 このお屋敷に来てから、風邪を引くのは初めての事だ。

「はぁ、本当は今日は図書室でまだ読んでない本を読もうと思っていたのに」

 今日は家庭教師が誰も来ない日なので、ゆっくりと読書しようと思っていたのだ。

 と言っても、ネックレスは2時間までだから、邪魔されないのもその時限りなのだが。

 それから暫くして、メイドが朝食を乗せたワゴンを持って戻ってきた。

「オリヴィアお嬢様、一応朝食は軽めにパンとサラダとスープとリンゴをお持ちしました。
勿論食べきれなければ残してもいいので無理はしないで下さいね?
リンゴは擦りましょうか?」

「いや、そのままで大丈夫よ。
いただきます」

 私は少しずつサラダを食べる。

 あまりお腹は減っていないが、栄養は摂って置かなくては。

「それから、お医者様はお昼には来ますので、それまでは安静にしていて下さいね」

「……分かったわ」

 私は仕方なく頷く。
 いつもなら多少は否定していたかもしれないが、単純に身体がしんどかった為、否定する気にもなれなかった。

「それと、他のご兄弟にも、今日はオリヴィアお嬢様の元には行かない様に忠告しておきますので」

 私はそれを聞いて何だか嫌な予感がした。

 絶対来る。
 あいつらなら止めても無駄だろう。

 私が心配したのがすぐに分かったのか、メイドはご安心くださいと言葉を続けた。

「メイド長のメアリーが言い聞かせていますし、私ども他のメイドや執事も目を光らせていますので!」

 それを聞いて私は少し安心する。

 それなら多分大丈夫だろう。

「それでは、また朝食を食べ終わったら下げに来ますね。
何かありましたら、こちらの呼び鈴でお呼びください。
近くの者が駆けつけますので」

 メイドはそれだけ言い残し私の部屋を去っていった。

 私は出された食事をなるべく残したくないので、ゆっくりと時間をかけながらも全て完食した。

 残していいとは言われても、やはり下町気質のせいか、食べ物を残すと言う考えがそもそも頭にないのだ。

「さて、それじゃあ呼び鈴で呼んで片付けて貰えばいいかしら?」

 私はチリンチリンと呼び鈴を鳴らす。

 すると、はーい! と大きな返事をしながら、バタバタと1人のメイドが入ってきた。

「オリヴィアち……お嬢様!
どうされましたか!?」

 私はジーッとメイドを見る。

 そのメイドは背が低く、金髪のショートカットに碧い瞳をしており、そばかすが目立つがまるでお人形の様な可愛らしい顔立ちをしていた。

「……あんたエマでしょ?」

「え、ええ!?
ち、違いますよ~ぅ!」

 そのメイドと名乗る少女はブンブンと手を横に振って全力で違うとアピールしてくる。

「見覚えのない顔だけど」

「私最近入ったばかりなので、初対面なんです~」

 見れば見る程に怪しく感じる。

 ここは一つ鎌をかけるとするか。

「あ~そうなんだ。
てっきりエマに顔が似ていたから勘違いしちゃった」

 私はとぼける様にそう言った。

「えへへ~、そんなに似てないですよぅ~」

 私の言葉を聞いて上手く誤魔化せたと思っているのか、メイドと名乗る少女はニコニコと笑顔になる。

「実はエマには内緒にしてて欲しいんだけどね。
私エマの顔が好みなのよね~」

「ええっ!?」

 まあ、嘘なのだけれど。

 しかし、目の前の少女はみるみると顔が赤くなっていく。

「貴女の顔もエマに似てて好みだわ。
もっとよく見せてくれないかしら?」

 私はそう言って少女の顔に手を伸ばす。

「え!? ええ!?
オ、オリヴィアちゃん!?
本当なの!? 本当に本当!?」

 そう言って抱きついて来ようとする少女を避けながら私は少女の頭を掴んだ。

 そして私はそのまま少女の頭頂部の髪を引っ張ってみると、案の定ウィッグが取れてそこから綺麗な長い金髪が出てきた。

「やっぱりエマじゃない」
「いや、それよりオリヴィアちゃん私の顔が好みって!」
 
 エマはそう私に迫ってきた。

「勿論嘘よ」

 私は冷静に答える。

「そんな!? 騙してたのね!
酷いわ、あんまりだわ!」

「それを言うならあんただって現在進行形で私に自分がメイドだと騙そうとしてたでしょ?」

「うっ!」

 エマは怒ってきたが、私にそう言われて言い返せなくなる。

 それから騒ぎを聞きつけてメアリーがやって来た

「エマお嬢様!
今日はオリヴィアお嬢様の元に行っちゃ駄目だと言ったじゃないですか!」

「メアリー! ちょっと待って! 後生だから~!」

「駄目です。オリヴィアお嬢様が全然安静に出来ないでしょ!」

「うわ~ん!」

 こうして、エマは半ば無理矢理メアリーに連行されていった。

「やっと静かになった……」

 今ので少し疲れたせいか、何だか身体が一層重く感じる。

 医者が来るまで私はゆっくりと眠ることにした。
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