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ハインツ伝

災いの終わり

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 ハインツは深夜嫌な予感がして飛び起き、窓の外を確認すると魔道具の水晶に触れて結界を発動させる。
 ヘーラの開発した魔道結界は如何なる害がある物の侵入を防ぐという。
 ただし、効果時間中は中から出ることも出来ないという。

「レズン」

 ハインツの声に素早く反応したレズンは室内に入るとハインツの言葉を待った。

「外の様子がおかしいようなので、ヘーラ様謹製の結界を発動させました。
 外からもですが中からも干渉できないので、だれも無理に出ようとしないように通達してください。
 その折にはちゃんと服を着てください」

 ハインツの言葉に一瞬自分の姿を確認すると真っ裸だったが、気にした風もなく

「ご用命承りました、ご安心ください、この姿はハインツ様にしか見せませんから」

 そう言って部屋を出て行くレズンを見送ると「何処で教育を間違えたのでしょうか・・・」と軽く目頭をマッサージして館の他の設備を起動させて回り、ハインツ特務隊に召集をかけた。

 ハインツ特務隊を館の四つの門に配置して弓兵を2つの塔の上に配置することでいざという時に備えた。

 日が昇る頃街の地下に続く部分から黒い煙が上がっているのが確認できた。
 嫌な予感が消えないまま見たその光景は、ハインツの子供の頃に見た地獄の様な光景とかぶっていた。
 震える体に鞭打ち背を伸ばし、崩れそうな膝をたて直したハインツは落ち着くようにメガネを押し上げると。

「克服したつもりでしたが・・・ノーライフキングでも出たのでしょうかね」

 結界を一時解き地下入り口を封鎖指示を出し、住民達には一時封鎖と近づかないように告げた。
 その後、密閉扉を閉めノーライフキングであった場合の決死隊の準備を始めていった。

「ハインツさま!申しわけありません、ワタクシの父であった物が逃げ出しております」

 ズタボロの男がレズンのヒールに頭を踏みつけられピクピクと蠢いていた。

「それと、この事態は何か繋がっているのですか?」

「はい、どうやらこの生ゴミは遺跡の噂話をしたらしいのです、忌々しい」

 踏みつける力を増すと男は再び痙攣する、しかし怒りが収まらないのか足を振り上げて背中を蹴りつける。

「ちゃんと話は聞きだしているんですね?」

「それは勿論です、事細かに聞き出しております、なおこのゴミクズはこの街の伝承を伝えたとのことです」

「伝承・・・ですか?」

「はい、よく解らない物ですが「地中には骸の災い、黒き太陽は硬き約定、硬きもので打ち据える事なかれ」

「骸の災いは多分ノーライフキングのことでしょうからそれを中心に確認を」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ブラウンの場合

 ブラウンがダーヌに着いたのは飛び出した翌日の夕方だった。
 驚く兵達を尻目に代官館の扉を開けるとズカズカと入っていく、金髪をポニーテールにした女性がブラウンの目の前に立ちふさがった。

「貴方は何者ですか?」

「俺はブラウン、ハインツは居るか?」

「偽者はもう結構ですわ」

 そう呟くと、一気に間合いを詰めるとレイピアを鋭く突き出すがブラウンに触れる前にパンダヌキに尻尾で腕を叩かれレイピアを取り落としてしまう。

「な!獣が!!」

 着地を狙ってつま先でパンダヌキの腹を蹴り上げようとするが、”ゴキ”と鈍い音がして蹴り上げるのは失敗、逆に足を抱えて痛みに転げまわる羽目になった。

「何事ですか・・・ブラウン様?」

「ハインツ、無事だったか?」

「はい、どうやらノーライフキングの出現のようです」

 ハインツの執務室で現状の情報を報告すると、ブラウンが地下に向かい、パンダヌキが浄化タヌキの力を使って地下の死瘴気の浄化をする事に決まった。

 ブラウンは休憩する事無く、そのまま地下に降り立った。
 死瘴気があまりに強すぎてパンダヌキは早速、浄化タヌキのスキルを全開にする。
 発掘部隊と警護隊の人間は紫の繭に包まれており、ゾンビにでも変換されそうであったが、浄化スキルを全開にしたお陰でドンドン繭が小さくなって行っていた。

「じゃあ、後は頼んだ、行ってくる」

 ブラウンは奥から湧いて来たスケルトンソルジャーを大剣の一振りで数百切伏せると、まるで大きな草を切り裂く様にドンドンと刈り取っていく。
 まるで無人の野を行くがごとく刈り取り歩みを進める。

「貴様でおじゃるか?マロの復讐を邪魔する者は」

「はぁ、お前がボスじゃないだろう?」

「ま、マロがボスでおじゃる」

「お前ホワイトだろう?ソルジャーからは最低イエローじゃないと召喚できないだろう」

 ノーライフキングには等級があり 金>赤>緑>黄>青>白の順で強さと召喚出来るスケルトンの質が変わるのだ。

「煩いでおじゃる!お前達行くでおじゃる」

 声に反応するようにスケルトンソルジャーが殺到するが尽く切り伏せられ、吹き飛ばされていく。
 さらにスケルトンアーチャーが弓を放つがそれすら打ち返され、あっと言う間に5000のスケルトンソルジャーや1000のスケルトンアーチャーが全滅しノーライフキングだけになった。

「さてと、詳しい話を聞こうか」

「誰がしゃべるかでおじゃる」

「ノーライフキングって浄化されないかぎり死なないんだよ」

「だからマロは無敵でおじゃる」

「そっか」

 勝ち誇るノーライフキングに怖い笑顔を浮かべると「金のノーライフキングとどっちが耐えれるかな?」と呟いて、遺跡の一部の部屋に連れ込んだ。

「ホワイト、そろそろ兵力も・・・」

 イエローのノーライフキングは半霊体のノーライフキングを素手で殴ったりして、ありえない音をさせているブラウンの姿に戦慄し、ガタガタと震えるだけだった。



「じゃあ、お前がハインツへの復讐のために封印を解いたと」

「はい、そうでおじゃる・・・」

「でお前がこいつの親ね」

「うむ」

 封印するのも現在では難しそうだと知っているブラウンはある提案をすることにした。

「ホワイトは駄目だが、イエローお前ウチの鉱山で働かないか?ノーライフキングは元々地下が好きだと聞くし
イエローからは死瘴気もある程度抑えられるんだろう?」

「確かにありがたい提案である。
だが、ワレはある程度しか抑えられぬぞ」

「そこは浄化タヌキを呼んでもらうから大丈夫だ」

「マロの復讐はどうするつもりでごじゃる!」

「お前まだそんな事言っているのか」

「そんな事じゃないでおじゃる!」

 普通は懲りる所を懲りないのがこの男?なのだろう。
 ブラウンはポンと肩に手を置くとニッコリ笑って。

「安心しろ、お前はハインツのお部屋に行く事になるからな」

「あの部屋に戻るのはいやでおじゃる~」

 ブラウンはそう言うと引きずっていってしまった。

「ワシはあんなのに逆らうなって御免じゃ」

 こうして、たいした被害の無いまま元代官によって起こされた事件は解決した。
 ノーライフキングが出るとたいていの国は国土を腐らせ衰退するものだが、今回は恐ろしいほど被害は軽微であった。
 
「ブラウン様ご尽力ありがとうございます」

「なに、気になったから来ただけだよ」

「ゴミクズはワタクシが確り教育いたしますわ、死なないのですから・・・」

 レズンは怖い笑顔を浮かべて手に持っていたムチを握り締めた。
 穏やかな時間を取り戻した街は何時もと変わらない、そんな空気を纏っていた。
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