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58:公爵夫人

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 朝、ベッドの中で天井を眺めながら、タイテーニアは色々と考えていた。
 昨夜、手加減なく自分を翻弄した鬼畜な夫の事……ではなく、王太子の黒いモヤ対策である。

 地方に飛ばされたあの護衛は、常に王太子へとモヤを出してはいなかった。
 オベロニスへと青黒いモヤを出した侍従と同じタイミングだった。
 侍従は、おそらくだが常に一緒にいる自分より信頼され、優先されるオベロニスを妬んだものだった。

 もし護衛が同じ理由なら、黒ではなく青のはず。
 なぜ黒だったのか。
 実は男色家で、オベロニスが好きで王太子に嫉妬を……と考え、それなら横にいた自分が標的だと、タイテーニアは考え直す。

 圧倒的に情報が少な過ぎる。
 そもそもあの時、あの三人が選ばれタイテーニアと会った理由は、オベロニスの体調が悪くなる時に居る事が多いからだった。
 王家と因縁があるとも言っていたような……?

 そこまで考えたところで、部屋の扉がノックされた。
 メイドだろうと返事をしたら、オベロニスだった。


「体は大丈夫か?」
 バツが悪そうに聞いてくるオベロニスに、タイテーニアは膨れっ面する。
「大丈夫に見えます?」
 ベッドの脇まで来たオベロニスは、ベッドに腰掛け、怒っているタイテーニアの額へとくちづけを落とした。

「最初は軽いお仕置きのつもりだったのだが、反応が可愛すぎて止まらなかった」
 叱られた犬のようなオベロニスに、タイテーニアは溜め息を吐き出す。
「もう良いです。行為自体は必要な事ですし」
 タイテーニアには後継を産むという、貴族夫人の1番の重要任務がある。
 やる事をやらねば、子供は出来ないのだ。

 むしろ政略結婚で義務のように子作りをする夫婦に比べたら、何倍も幸せな状態と言える。
「ティア!」
 嬉しそうに破顔するオベロニスに、「でも」とタイテーニアは続ける。
「後1ヶ月は、『3日に1回』は変わりませんからね!」

 慣れるまでは1日置きの約束だったのが、オベロニスと職場に行くようになり『3日に1回』へと減らされていた。
 当初、「今ならあの馬鹿王太子へ黒いモヤを飛ばせる気がする」とオベロニスは呟き、タイテーニアを苦笑させた。
 そして実際に、その発言の翌日にほんのりと黒いモヤを飛ばしていた。
 その1回のみだったので、特に報告はしていない。



「あの護衛の幼馴染が私に媚薬を盛り、それが原因で他国の老齢な公爵の後妻となった」
 オベロニスはタイテーニアにせがまれ、例の護衛の話を始めた。
「えぇ!?」
 予想の斜め上過ぎる話に、タイテーニアは本気で驚く。

「幼馴染とはいえ、あの護衛は全然関わっていなかったし、身内ではないからそれを理由に解雇も出来なかったので、そのまま護衛を続けていたんだ」
「でも、恨まれていたのは、オーベンではなく王太子殿下でしたよ?」

 タイテーニアの問いに、オベロニスは「あ~」と天を仰ぐ。
「私より王太子が怒ってしまってね。令嬢の親に「それほど公爵家に嫁ぎたいなら、他国に後妻を探している人がいるよ」とその公爵を紹介した」
 タイテーニアも、「あ~」と天を仰ぐ。

 王太子に打診されたら、それは断れないだろう。
 しかも公爵当主オベロニスに媚薬を盛った令嬢だ。
「その公爵はね、息子が八人、娘が十人いて、愛人も十人以上いるんだ。しかも孫どころか曾孫までいる」
 予想以上の状況に、タイテーニアが絶句する。

「それなのに後継に地位を譲らず、見事な暴君らしい」
 それなら、公爵夫人になるより、修道院に入った方が幸せな人生を送れそうだ、と口には出さないが二人共思っていた。


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