上 下
1 / 25

01 私の恋人

しおりを挟む
 私の恋人で婚約者のジークフリート・マックールは、本当に文句の付けようのないくらいに素敵な人だ。

 彼は私にとって完璧な恋人であると、言い切ってしまっても差支えないと思う。

 王都の治安維持を主に任された王都騎士団を纏める若き騎士団長であり、この国の王に古くから仕える、伝統もあり広い領地を持つ裕福な貴族マックール侯爵家の次男。

 ここで特筆すべきなのは、彼の持っているその麗しい容姿だ。さらりとした絹糸のような黒髪に、きらめく金色の目。騎士という職業の上に鍛え上げられた整った肉体を持ち、凛々しく端麗な顔立ち。

 もちろん。長年彼の傍に居る私が、ここまで好きになってしまっているということは、ジークの持つ魅力は素晴らしい外見だけではない。中身だって、どこを取ったとしても彼は特級品だ。優しく穏やかで、愛情深く理知的で努力家。

 もう。本当に非の打ち所が、見つからない。

 こんなに素敵な人が自分の恋人で、良いのか? と、言われてしまうと、それは少しだけ自信はない。

 けど、幼い私の婚約者の打診時に、候補者としてのジークに初めて会った八歳の頃から、何もかもを持っている彼の隣に居るためにと、平凡なものしか持っていなかったただの貴族令嬢の私も、十年間かけて私なりに必死で頑張った……つもりではいる。

 初対面のジークが帰ってしまった後に、次の候補者と会う日付を相談してきたお父様に「さっきのジークフリート様じゃないと、私はもう誰とも一生結婚しない!」と泣き喚いて暴れたのも、今では良い思い出だ。

 そんな訳で、十年も前から大好きなジークとの結婚は一応確約済だったんだけど、もうすぐ私は十年も待ちに待っていた結婚式を経て、ようやく彼の妻を名乗ることが許される。

 私と立派なお役目を持つジークの二人もこの国では適齢期で、そろそろ両家では結婚を……という暗黙の了解もあって、私は最近彼の家にお邪魔して、式のことだったり、新しく広大なマックール家の敷地内に建設する私たちの新居のことだったりを相談しに行くことも多い。

 ジークのお母さまは、彼が幼い頃に病気でお若くして亡くなられている。それに、彼の兄でマックール家の跡継ぎで長男であるエルネストお義兄様は、何故か理由は知らないけど、婚約者もいないし、未だに結婚は考えていないようだった。

 だから、もうすぐお義父様になられるマックール侯爵は、結婚するジークには近くに住んで欲しかったようだった。新しくマックール家に入ることになる貴重な女手である私に、敷地内の本宅のすぐ近くに住んでもらって、色々と家のことを手伝って欲しいという気持ちがあるのだと思う。

 それは私には特に支障のないことだし、通常であれば騎士として自分の力で身を立てる次男のジークと気楽な暮らしをするところに、マックール本家に同居のような流れになってしまうのも、別に構わなかった。

 というか、私はジークと一緒に居られれば、なんでも良いんだけど。大好きな彼と一緒に居られるんだったら、本当になんだって構わない。

 もし、ジークが地獄に堕ちると言うのなら、私も迷わず付いて行くことを選ぶ。そのくらい、彼のことが好き。

「レティシア。そろそろ、式後の新婚旅行の行き先は、決めたの?」

 マックール邸のポカポカの春日の当たるテラスでお茶をしていた時に、そう私に聞いて来たのは、ジークの親友で同僚のアルベール・ロナンだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

偽りの恋人達

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,066pt お気に入り:39

彼女を悪役だと宣うのなら、彼女に何をされたか言ってみろ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:15,023pt お気に入り:107

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:41,232pt お気に入り:5,371

夫は私を愛してくれない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:37,509pt お気に入り:793

婚約者から愛妾になりました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,009pt お気に入り:936

本当はあなたを愛してました

m
恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,657pt お気に入り:218

ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,067pt お気に入り:59

虎被りをやめたら文句ばかりだった婚約者がぞっこんになった

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,245pt お気に入り:2,268

平凡少年とダンジョン旅

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:163pt お気に入り:1

処理中です...