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21 燭台
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私は言うが早いが、燭台を手に彼へと駆け出した。令嬢に有るまじき行為だと言われても良い。いい加減、この事態には、本当に頭に来ていた。
目の前の男が、話が通じないというのなら。私だって、自分の身を守るために、強硬手段を使うしかない。
けど、力のない私がよろよろと燭台を振り下ろした先で、男は余裕の表情で身を翻して避けた。
「なっ……! 何をするんだ! いくら、愛するレティシアだとて、僕に暴力をふるうなんて、許せない……今度は、お前を呪ってやっても、良いんだぞ!」
だから、名前を呼ばないでと言いたいところを、ぐっと堪えて私は男を睨み付けた。
「良いわよ! ジークが、この先また、私のせいで何かで苦しむんだとしたら、その方が良い! やりなさいよ! それで、貴方の気が済むんなら! 私を、ジークの身代わりにしなさいよ!!」
完全に怒り心頭の私はもう一度、良くわからないことを喚き散らす男に向かって燭台を構え直した。
鬼気迫るほどに怒りを見せる私の迫力に、男は押され気味になって逃げ腰になった。
両手を上げて、武器を持ち迫る私に止まるような指示をしてきたって無視だ。私がそれを聞かねばならない道理はないもの。
「……待て。違う。話し合おう……きっと、僕たちの間には誤解があるはずだ」
慌てて両手を合わせて頼んでも、そんなことは私には関係ない。
「誤解なんて、何ひとつとしてないわよ! ジークと私は相思相愛で、誰に邪魔されたって、二人の気持ちが引き裂かれたりなんてしない。私はジークと結婚するために、これまで十年間、ずっと必死で頑張って来たのよ! 名前も知らないあんたになんか、私たちの邪魔なんてさせない!」
「あんたに……なんか。酷い。レティシア。君はそんな女の子じゃない」
彼の中の私の理想像は、こんな最低な行為をされても何もかも許せる女の子なのかもしれない。そうじゃなくて……ごめんね。
「お生憎様。私は、元々こういう女よ。それに、私が可愛いところを見せる異性は、ただ一人ジークだけなの! それにそういう勝手な自分に都合の良い決め付けで、私の意志を操作しようなんてしないで。もう二度と、私に関わらないで。気持ち悪い。大嫌いよ!!」
心からの言葉を荒げて大きく振りかぶって、私はなんとか手に持っていた燭台を男にぶつけることが出来た。
ひょろひょろとした体躯の男はわざとらしく悲劇的に倒れて、いかにも大きな衝撃を受けましたというような被害者面だ。けど、もしこの人に何か言い分があるように私にだって言いたいことがあるというのは、当たり前の話である。弁護側が居るとしたら、被告側の言い分もあるはすだ。
「そんな……きっと、君は僕に会えば、喜んでくれるとばかり」
「どんな、おめでたいご都合主義な妄想なの……? そんなこと知らないわよ。ジークに、何故あんなことをしたの? 言っておくけど、ジーク本人が許しても、私は絶対に貴方を許さないからね」
私は、思いっきり憎しみを込めて相手を睨み付けた。何の落ち度もないジークに対し、なんであんな酷いことが出来たの。どんな理由を聞いたとしても、納得なんて出来るはずがない。
「……ここに居る僕は、まだその行為をしていない。君の魔法人形が死ねば、あいつはまた過去へと戻る。その繰り返しのはずだ。だから、それはまだ僕のせいじゃない」
要するに今回の繰り返しでは、私は死んでいないし、ジークだって過去には戻らない。ということは、この人にまだ罪はない。という主張なのは、私にも理解は出来た。
目の前の男が、話が通じないというのなら。私だって、自分の身を守るために、強硬手段を使うしかない。
けど、力のない私がよろよろと燭台を振り下ろした先で、男は余裕の表情で身を翻して避けた。
「なっ……! 何をするんだ! いくら、愛するレティシアだとて、僕に暴力をふるうなんて、許せない……今度は、お前を呪ってやっても、良いんだぞ!」
だから、名前を呼ばないでと言いたいところを、ぐっと堪えて私は男を睨み付けた。
「良いわよ! ジークが、この先また、私のせいで何かで苦しむんだとしたら、その方が良い! やりなさいよ! それで、貴方の気が済むんなら! 私を、ジークの身代わりにしなさいよ!!」
完全に怒り心頭の私はもう一度、良くわからないことを喚き散らす男に向かって燭台を構え直した。
鬼気迫るほどに怒りを見せる私の迫力に、男は押され気味になって逃げ腰になった。
両手を上げて、武器を持ち迫る私に止まるような指示をしてきたって無視だ。私がそれを聞かねばならない道理はないもの。
「……待て。違う。話し合おう……きっと、僕たちの間には誤解があるはずだ」
慌てて両手を合わせて頼んでも、そんなことは私には関係ない。
「誤解なんて、何ひとつとしてないわよ! ジークと私は相思相愛で、誰に邪魔されたって、二人の気持ちが引き裂かれたりなんてしない。私はジークと結婚するために、これまで十年間、ずっと必死で頑張って来たのよ! 名前も知らないあんたになんか、私たちの邪魔なんてさせない!」
「あんたに……なんか。酷い。レティシア。君はそんな女の子じゃない」
彼の中の私の理想像は、こんな最低な行為をされても何もかも許せる女の子なのかもしれない。そうじゃなくて……ごめんね。
「お生憎様。私は、元々こういう女よ。それに、私が可愛いところを見せる異性は、ただ一人ジークだけなの! それにそういう勝手な自分に都合の良い決め付けで、私の意志を操作しようなんてしないで。もう二度と、私に関わらないで。気持ち悪い。大嫌いよ!!」
心からの言葉を荒げて大きく振りかぶって、私はなんとか手に持っていた燭台を男にぶつけることが出来た。
ひょろひょろとした体躯の男はわざとらしく悲劇的に倒れて、いかにも大きな衝撃を受けましたというような被害者面だ。けど、もしこの人に何か言い分があるように私にだって言いたいことがあるというのは、当たり前の話である。弁護側が居るとしたら、被告側の言い分もあるはすだ。
「そんな……きっと、君は僕に会えば、喜んでくれるとばかり」
「どんな、おめでたいご都合主義な妄想なの……? そんなこと知らないわよ。ジークに、何故あんなことをしたの? 言っておくけど、ジーク本人が許しても、私は絶対に貴方を許さないからね」
私は、思いっきり憎しみを込めて相手を睨み付けた。何の落ち度もないジークに対し、なんであんな酷いことが出来たの。どんな理由を聞いたとしても、納得なんて出来るはずがない。
「……ここに居る僕は、まだその行為をしていない。君の魔法人形が死ねば、あいつはまた過去へと戻る。その繰り返しのはずだ。だから、それはまだ僕のせいじゃない」
要するに今回の繰り返しでは、私は死んでいないし、ジークだって過去には戻らない。ということは、この人にまだ罪はない。という主張なのは、私にも理解は出来た。
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