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20 風
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◇◆◇
夜寝ている時に、アルベールに借りたあの魔除けの指輪が熱くなっているのを感じて、私は夜中にも関わらず目を覚ました。
目に映るのは、見慣れた自室のベッドの天蓋だ。そこから垂れているレースが……揺れている?
風が、吹き込んでいる。ということは、窓が開いている。けど、私がまだ眠る前には、それはきっちりと閉められた後だったはずだ。
「……誰が、居るの!?」
私は身体を起こして、窓辺へと視線を移した。そこに居たのは、見たこともない黒衣の男。
我がアヴェルラーク家が雇っている、優秀な護衛たちが来ないのもおかしい。風が吹いているはずなのに、風の音だって何ひとつ聞こえない。きっと、音消しの呪文が、使われているのだろう。
男はしゃがれた声で、言った。
「あれー? おかしいな……連れ去る今夜は万が一にも、起こしたらいけないと思って、魔法を重ね掛けしようと思ったのに……起きちゃった。レティシア。おはよう」
視界は薄闇の中で、良く見えない。だけど、男は微笑んだことがわかった。にいっと不気味に弧を描く口元。ひょろひょろとした体躯は、男が身体を鍛えるような……そんな職業ではないことを、示していた。
「……魔法を、重ね掛け? 貴方、なのね……ジークに悲劇を繰り返させる呪いを、掛けたのは……」
ついつい声が震えたのは、目の前に居る人物が怖かったからではない。あまりに湧き上がる怒りに……感情の昂ぶりを、どうしても止められなくて。
「あれ? そこは、上手く行ってたんだ。あいつには、僕もレティシアを取られたからね。お返しに、取られた側の気持ちを教えてやろうと思った」
「取られた? 私、貴方のこと……何も知らないんだけど。そんな風に親し気に名前を、呼ばないで欲しいわ」
まるで、旧知の中だと言わんばかりの男は、私の嫌味のこもった尖った言葉もさらりと受け流してしまったようだ。
「……そうだろうね。アヴェルラーク家の令嬢に、縁談の申し込みをしていたのは、マックールだけじゃない。僕は、あいつの前にレティシアに会っている。君の婚約者候補だった男だよ」
名前を呼ばないでって言ったのに、私の意志なんてどうでも良いと言わんばかりに無視されたのも嫌だった。
もう……本当にこの状況の全部が本当に、嫌なんだけど。
「……十年前の? マックール家に、婚約するなって脅迫したのも……貴方?」
「うん。そうそう。そして、君はアルベール・ロナンと恋仲になったはずだった。だが、上手く術が掛からなかったようだな。手応えは、あったはずなのに。その変な指輪に吸収されたせいか。というと、途中まで成功してはいたが……失敗したのか」
静かにベッドから起き出した私の指に嵌っている指輪を見たのか、男は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「そうよ。お気の毒様。大失敗よ……けど、なんで私の部屋に? 私はこれからアルベールと二人で、死ぬはずでしょう?」
「……流石に僕の作った魔法人形と言えど、今のレティシアのような、見事な受け答えは出来なくてね。まあ……あの男の前で死ぬだけなら、魔法人形で十分なんだが」
「許さない……あんなに、あの人を苦しめて」
ようやく憎らしい悪役と対峙出来た私は、両手をぎゅっと握りしめた。
「僕からレティシアを奪った罪だ。何度も警告したのに、その度に、はね除けた。だから、僕も最後の手段に出ざるを得なかった」
それは……そうでしょうね。この男の自分勝手な言い分に、本当に腹が立って仕方がなかった。
私はベッドの隣にあった燭台を、手に取った。腰までの高さのものなので、非力な私でも優に持ち上げることが出来る。そして、金属製だ。これで殴れば、きっと痛いと思う。
「ジークを、これ以上苦しめるなんて……絶対に、させないわよ!!」
夜寝ている時に、アルベールに借りたあの魔除けの指輪が熱くなっているのを感じて、私は夜中にも関わらず目を覚ました。
目に映るのは、見慣れた自室のベッドの天蓋だ。そこから垂れているレースが……揺れている?
風が、吹き込んでいる。ということは、窓が開いている。けど、私がまだ眠る前には、それはきっちりと閉められた後だったはずだ。
「……誰が、居るの!?」
私は身体を起こして、窓辺へと視線を移した。そこに居たのは、見たこともない黒衣の男。
我がアヴェルラーク家が雇っている、優秀な護衛たちが来ないのもおかしい。風が吹いているはずなのに、風の音だって何ひとつ聞こえない。きっと、音消しの呪文が、使われているのだろう。
男はしゃがれた声で、言った。
「あれー? おかしいな……連れ去る今夜は万が一にも、起こしたらいけないと思って、魔法を重ね掛けしようと思ったのに……起きちゃった。レティシア。おはよう」
視界は薄闇の中で、良く見えない。だけど、男は微笑んだことがわかった。にいっと不気味に弧を描く口元。ひょろひょろとした体躯は、男が身体を鍛えるような……そんな職業ではないことを、示していた。
「……魔法を、重ね掛け? 貴方、なのね……ジークに悲劇を繰り返させる呪いを、掛けたのは……」
ついつい声が震えたのは、目の前に居る人物が怖かったからではない。あまりに湧き上がる怒りに……感情の昂ぶりを、どうしても止められなくて。
「あれ? そこは、上手く行ってたんだ。あいつには、僕もレティシアを取られたからね。お返しに、取られた側の気持ちを教えてやろうと思った」
「取られた? 私、貴方のこと……何も知らないんだけど。そんな風に親し気に名前を、呼ばないで欲しいわ」
まるで、旧知の中だと言わんばかりの男は、私の嫌味のこもった尖った言葉もさらりと受け流してしまったようだ。
「……そうだろうね。アヴェルラーク家の令嬢に、縁談の申し込みをしていたのは、マックールだけじゃない。僕は、あいつの前にレティシアに会っている。君の婚約者候補だった男だよ」
名前を呼ばないでって言ったのに、私の意志なんてどうでも良いと言わんばかりに無視されたのも嫌だった。
もう……本当にこの状況の全部が本当に、嫌なんだけど。
「……十年前の? マックール家に、婚約するなって脅迫したのも……貴方?」
「うん。そうそう。そして、君はアルベール・ロナンと恋仲になったはずだった。だが、上手く術が掛からなかったようだな。手応えは、あったはずなのに。その変な指輪に吸収されたせいか。というと、途中まで成功してはいたが……失敗したのか」
静かにベッドから起き出した私の指に嵌っている指輪を見たのか、男は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「そうよ。お気の毒様。大失敗よ……けど、なんで私の部屋に? 私はこれからアルベールと二人で、死ぬはずでしょう?」
「……流石に僕の作った魔法人形と言えど、今のレティシアのような、見事な受け答えは出来なくてね。まあ……あの男の前で死ぬだけなら、魔法人形で十分なんだが」
「許さない……あんなに、あの人を苦しめて」
ようやく憎らしい悪役と対峙出来た私は、両手をぎゅっと握りしめた。
「僕からレティシアを奪った罪だ。何度も警告したのに、その度に、はね除けた。だから、僕も最後の手段に出ざるを得なかった」
それは……そうでしょうね。この男の自分勝手な言い分に、本当に腹が立って仕方がなかった。
私はベッドの隣にあった燭台を、手に取った。腰までの高さのものなので、非力な私でも優に持ち上げることが出来る。そして、金属製だ。これで殴れば、きっと痛いと思う。
「ジークを、これ以上苦しめるなんて……絶対に、させないわよ!!」
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