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19 私のため
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「……だから、そんな経緯もあったから。僕は、自分の身もそうだし。君を守るためもあって、幼い頃から騎士を目指した。そして、父も兄も……あの脅迫の手紙は、数が尋常ではなく、どう考えても不気味だった。だから、出来るだけ僕たち二人を傍に置きたがったんだ。そういう訳で、レティシアには悪いけど、僕らはこの邸の敷地内に住むことになった」
「それも。全部、私のためだったのね。嘘」
何も知らずに、ただジークが好きだからと浮かれて彼のところに嫁ぎたいしか考えていなかった私のためにと、マックール侯爵家はどれだけの犠牲を払ったのだろうか。
特に、ジーク本人だ。間接的にとは言え私のために、彼の心にどれだけの苦痛を与えてしまったの。
無知は罪だ。それに、私はいくつかの不思議に思うヒントがあったというのに、その理由を自ら調べようともしなかった。
目に涙を浮かべ顔を歪めた私を宥めるようにして、ジークは私の肩をゆっくりと撫でた。
「うん。けど……兄に婚約者が居ないのは、あの人が好みにうるさいせいだよ。君が気にすることはない」
これは多分、エルネストお義兄様の優しい嘘だ。ジークの兄ということは、彼だって負けじと弟と同程度の美形だ。御令嬢からもモテている。私には弟のジークの方が、魅力的に見えているというだけで。
だって、跡継ぎのあの人が、もし私たちより先に結婚をしてて、次の女主人が居るというのに、弟の嫁の私が邸に来ると聞けば嫌がるかもしれない。
だから、近くに私たちがもう既に住んでいる前提でも、気にしない令嬢を求めることに彼はしたんではないだろうか。
弟のジークと私の結婚式を先にすることにして、彼はまだこれまでに婚約だってしていないのだ。
「信じられない……私って、今まで何も知らず。周囲のことを、不思議に思っても何もわかろうともしなかった。自分のとんでもないバカさ加減に、本当に嫌になるわ。私一人だけ、幸せで浮かれているだけだったのね。どうして。私が貴方が良いと我が儘を言わなければ、ジークはあんなに苦しまずに済んだのに」
あの晴れた日のお茶の日に、私たちの前に現れたジーク……目の前の彼は、幾度とない悲劇を、繰り返し見て来たはずなのだ。
「レティシア。どうか、落ち着いて欲しい。僕たちマックール家はすべて好きでしたことだし。あと君自身は、本当に何も悪くない。可愛いお嫁さんを娶ることが出来て、僕は本当に幸せなんだ。どうか……泣かないでくれ」
ジークは、彼の胸の中で泣く私のことを、決して責めなかった。優しいのだ。だから、彼を好きになった。なのに……それが、悲しい。
「っ……ジークっ。どうして、あんなにっ……暗かったの?」
「……君は、僕のことが本当に好きだから。もし、犯人が捕まって、この真相を知れば、こうして悲しむだろうと思った。だから、どうにか出来ないかなと、思って……無理だった」
「ジーク……」
「僕のことは、もう終わったことだから、そのことはもう良いんだ。けど、レティシアがすべてを知って悲しむのは、嫌だったんだ」
何もかも……今までの、これまでの何もかも全部が全部。何も知らない、ただ彼を好きなだけの私のためだった。
「それも。全部、私のためだったのね。嘘」
何も知らずに、ただジークが好きだからと浮かれて彼のところに嫁ぎたいしか考えていなかった私のためにと、マックール侯爵家はどれだけの犠牲を払ったのだろうか。
特に、ジーク本人だ。間接的にとは言え私のために、彼の心にどれだけの苦痛を与えてしまったの。
無知は罪だ。それに、私はいくつかの不思議に思うヒントがあったというのに、その理由を自ら調べようともしなかった。
目に涙を浮かべ顔を歪めた私を宥めるようにして、ジークは私の肩をゆっくりと撫でた。
「うん。けど……兄に婚約者が居ないのは、あの人が好みにうるさいせいだよ。君が気にすることはない」
これは多分、エルネストお義兄様の優しい嘘だ。ジークの兄ということは、彼だって負けじと弟と同程度の美形だ。御令嬢からもモテている。私には弟のジークの方が、魅力的に見えているというだけで。
だって、跡継ぎのあの人が、もし私たちより先に結婚をしてて、次の女主人が居るというのに、弟の嫁の私が邸に来ると聞けば嫌がるかもしれない。
だから、近くに私たちがもう既に住んでいる前提でも、気にしない令嬢を求めることに彼はしたんではないだろうか。
弟のジークと私の結婚式を先にすることにして、彼はまだこれまでに婚約だってしていないのだ。
「信じられない……私って、今まで何も知らず。周囲のことを、不思議に思っても何もわかろうともしなかった。自分のとんでもないバカさ加減に、本当に嫌になるわ。私一人だけ、幸せで浮かれているだけだったのね。どうして。私が貴方が良いと我が儘を言わなければ、ジークはあんなに苦しまずに済んだのに」
あの晴れた日のお茶の日に、私たちの前に現れたジーク……目の前の彼は、幾度とない悲劇を、繰り返し見て来たはずなのだ。
「レティシア。どうか、落ち着いて欲しい。僕たちマックール家はすべて好きでしたことだし。あと君自身は、本当に何も悪くない。可愛いお嫁さんを娶ることが出来て、僕は本当に幸せなんだ。どうか……泣かないでくれ」
ジークは、彼の胸の中で泣く私のことを、決して責めなかった。優しいのだ。だから、彼を好きになった。なのに……それが、悲しい。
「っ……ジークっ。どうして、あんなにっ……暗かったの?」
「……君は、僕のことが本当に好きだから。もし、犯人が捕まって、この真相を知れば、こうして悲しむだろうと思った。だから、どうにか出来ないかなと、思って……無理だった」
「ジーク……」
「僕のことは、もう終わったことだから、そのことはもう良いんだ。けど、レティシアがすべてを知って悲しむのは、嫌だったんだ」
何もかも……今までの、これまでの何もかも全部が全部。何も知らない、ただ彼を好きなだけの私のためだった。
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