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23 大騒ぎ

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 ジークは騎士団長の職務に相応しい、きっちりとした騎士服を着用していた。私は彼に近寄って、自分から抱き着いて背の高い彼の顔を見上げた。

「その通りだよ。レティシア。僕があれだけ落ち込んでいたのは、君のことだけだ。僕のことなど、どうでも良い。君さえ、生きていて幸せで居てくれたら」

「……ジーク」

「はい。そこの二人。自分たち以外のことなど、目に入らないことは理解しているが、こちらの邸の主であるアヴェルラーク侯爵とレティシアのお兄様二人がいらっしゃっているが、お通ししても良いかな?」

 アルベールがわざとらしく咳払いをしたので、私とジークは慌てて彼の方を見た。

 私たち二人が見つめ合っている間に、お父様とお兄様たちが来てしまったらしい。

 彼ら三人は私の婚約者ジークフリートのことを、あまり良く思っていない。それは、何故かというと、末娘の私をこの家から、連れ出すことになるから。それって、もしジーク相手ではなくても同じことなんだけど、いつも揃って彼に嫌味ばかり言うのだ。

 要するに子離れと妹離れの、出来ていない人たちなのだ。

「……ごめんなさい。ジーク。私行かなきゃ」

 責任者のジークフリートとアルベール二人は、この後私の家族に状況説明をしなければならない。けど、その前に私自身が状況を説明して、彼らをなるべく宥めなければ。

 それは、私にしか出来ないことだった。

「大丈夫。気にしないで。もうすぐ、こんなに可愛い子と結婚出来るんだから。何を言われたとしても、笑顔で耐えられるさ」

「……これからは、困ったことがあったら何でも私に言ってね。知っていると思うけど。私、可愛くて大人しいだけが取柄じゃないからね」

 私が腰に手を当ててそういうと、ジークは私の額にキスをくれた。

「うん。一番に、頼りにしている。ありがとう」


◇◆◇


 例の事件が公になり、現在王都は大騒ぎになっている。

 何故かというとあの勘違い男のブルース伯爵は、自分が禁じられている黒魔術を扱える事を告白し、それをマックール侯爵家の次男であるジークフリート・マックールへと使用したことを認めたからだ。

 私とアルベールに関しては事前に情報を手に入れていたから魔除けの指輪を付けていたことにより、難を免れることが出来たけど、精神を操る黒魔法は禁呪だ。罪状にも、書かれるはずだ。

 特に彼がジークフリートに仕掛けた無限に悲劇を繰り返す黒魔法に関しては、それを聞いた国民もこの国の上層部も決して許さないだろう。この件に関しては国王様も、激怒しているという噂を聞いた。

 私は、同情はしない。自分の独りよがりの恋に酔って、仕出かしてしまったことを正当に裁かれれば良いと思う。

 だから、あまり目立つことを好まないジークの意に反して、現在悲劇のヒーローとして大注目を浴びている。そんな私たちは、アルベールおすすめの湖畔の宿に滞在することになった。

 私たちの結婚式も、一年は延ばすことになりそう。

 この大騒ぎが終わる頃には、社交期は終わり皆領地に戻ってしまう。けれど、ジークの家も私の家も、懇意にしている貴族は数多く居るし、お父様たちの仕事の関係で呼ばなければならない人も多い。

 そんな人間関係の中、領地に戻ってしまっているのに、招待を受けたとなればわざわざ王都に戻って来てしまう人も出てしまう。純粋な好意で、とんぼ返りをする人も出て来るだろう。だから、それは避けたかった。

 なので、私たちはどう考えても、今年に式を挙げることは無理そうという結論に至ったという訳。
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