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24 末路
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「……レティシア。見て。白鳥が飛んだ」
ジークは、湖から飛び立った白鳥を指差した。王都は内陸地にあり、私たちは水鳥を見ることは少ない。気分が変わったようで、良かった。
私はジークの端正な顔が好きなのは、もちろん好きなんだけど。彼に向かう好きという感情をどう言って表して良いのか、もうわからない。
ジークの持つ外見だけではなく、私たち二人の間に積み上げられた年月。その中で、培われていたもの、とても形容し難いもの。
婚約していた十年間の間には、私たちにも色々なことがあった。ジークは三つ上で、とても真面目で優しい性格とは言え、融通が利かないところがある。長所だけど短所でもあるという、とてもわかりやすい性格の例だ。
お互いに性格上譲れないところもあったりして、喧嘩になったことだって何度だってあった。それを擦り合わせて、ここは譲り合おうと何度も話し合い、私たちはこれまで上手くやって来た。
喧嘩をしても何をしても、私の中のジークを好きだという気持ちが目減りすることは、今までに一度たりともなかった。
これまでだってそうだし、これからもきっとそうだろう。変わらない想い。私はジークのことを、ずっと好きだろう。彼の気持ちは彼にしかわからないことだけど、幸運なことに今は両想いだから。
私はその関係を存続させるために、ずっと努力し続けると言い切れる。
死が、二人を別つまで。
◇◆◇
「アルベール……仕事は、大丈夫なの?」
私たちが湖畔の宿にやって来て、次の日の朝。
ジークの親友で今回の一番の功労者であるアルベールは、何食わぬ顔をして私たちの朝食と取っていた同じテーブルへと席に着いた。
付き合いの長いジークと私は、彼のこういう気まぐれな猫のような性質を知っているので、特に驚きもしなかった。
飄々として見えるアルベールは、あまり自分自身のことを無闇にやたらに話さない。彼の元からの性格なのか、やたらと警戒心が強いのだ。そういうところも、なんだか人馴れしてない野生の猫っぽい。
けど、幼馴染で仲の良い上司のジークのこと一人だけは、アルベールは何故か絶対的に信用しているのだ。その婚約者の私はというと、幼馴染の親友のことが好き過ぎる変な女だと、今だって絶対に思われている。間違いない。私を見る時は、彼はそういう目をしてるもの。
「大丈夫だよ。僕がそんな適当な仕事を、すると思う? すべて片付けて、担当の部下に完璧に仕事を割り振った上での、ちゃんとした休暇だ。お熱い恋人同士の君たちにお邪魔虫が一人混じるのは、どうかなと自分でも思うけど、今回の僕の働きを考えれば、二人は歓迎してくれるんじゃないかなと思ってね」
長身の給仕係は銀の盆に、お茶を載せてアルベールの前の置いた。前もっての相談もなくいきなり相席した客が現れたから、宿の食堂側側もびっくりしていると思う。富裕層相手の商売なので、まだ特に何も言われてないけど。後で、チップを弾まなきゃ。
「……あいつは、どうなったんだ?」
ジークは、静かに聞いた。私たちは大騒ぎの仕掛け人である黒魔法使いのブルース伯爵の判決が出るのを待たずに、ここに来た。
大昔、黒魔法はもてはやされた時期もあったものの、今ではもう廃れ、なんなら禁呪に指定されている魔法も多い。時を反復させるものは、知識のない私にはわからないけど。他人の精神を操ったりする魔法は、例外なく禁呪だ。
だから、アルベールに尋ねるまでもなく……私たちは、彼の末路がわかっていた。
「あー……判決は、もちろん死刑だよ。他にも色々と悪どいことをやらかしているようだが、その調べが終わり次第、刑は執行されるだろう」
「そうなんだ……」
私はもう既にわかっていたこととは言え、彼の判決を聞いて暗い気持ちにはなった。いくら自分たちに危害を加えた人間だとしても、生きている人間が死ぬと聞けば嫌なものだ。
「王は自分の治世の中での黒魔法など、絶対に許されないと激怒されていてね。他の人間に対する、見せしめもあるだろう。楽には死ねないだろうが、自業自得だな」
アルベールは熱いお茶を飲んで、ふうと息をついた。
ジークは、湖から飛び立った白鳥を指差した。王都は内陸地にあり、私たちは水鳥を見ることは少ない。気分が変わったようで、良かった。
私はジークの端正な顔が好きなのは、もちろん好きなんだけど。彼に向かう好きという感情をどう言って表して良いのか、もうわからない。
ジークの持つ外見だけではなく、私たち二人の間に積み上げられた年月。その中で、培われていたもの、とても形容し難いもの。
婚約していた十年間の間には、私たちにも色々なことがあった。ジークは三つ上で、とても真面目で優しい性格とは言え、融通が利かないところがある。長所だけど短所でもあるという、とてもわかりやすい性格の例だ。
お互いに性格上譲れないところもあったりして、喧嘩になったことだって何度だってあった。それを擦り合わせて、ここは譲り合おうと何度も話し合い、私たちはこれまで上手くやって来た。
喧嘩をしても何をしても、私の中のジークを好きだという気持ちが目減りすることは、今までに一度たりともなかった。
これまでだってそうだし、これからもきっとそうだろう。変わらない想い。私はジークのことを、ずっと好きだろう。彼の気持ちは彼にしかわからないことだけど、幸運なことに今は両想いだから。
私はその関係を存続させるために、ずっと努力し続けると言い切れる。
死が、二人を別つまで。
◇◆◇
「アルベール……仕事は、大丈夫なの?」
私たちが湖畔の宿にやって来て、次の日の朝。
ジークの親友で今回の一番の功労者であるアルベールは、何食わぬ顔をして私たちの朝食と取っていた同じテーブルへと席に着いた。
付き合いの長いジークと私は、彼のこういう気まぐれな猫のような性質を知っているので、特に驚きもしなかった。
飄々として見えるアルベールは、あまり自分自身のことを無闇にやたらに話さない。彼の元からの性格なのか、やたらと警戒心が強いのだ。そういうところも、なんだか人馴れしてない野生の猫っぽい。
けど、幼馴染で仲の良い上司のジークのこと一人だけは、アルベールは何故か絶対的に信用しているのだ。その婚約者の私はというと、幼馴染の親友のことが好き過ぎる変な女だと、今だって絶対に思われている。間違いない。私を見る時は、彼はそういう目をしてるもの。
「大丈夫だよ。僕がそんな適当な仕事を、すると思う? すべて片付けて、担当の部下に完璧に仕事を割り振った上での、ちゃんとした休暇だ。お熱い恋人同士の君たちにお邪魔虫が一人混じるのは、どうかなと自分でも思うけど、今回の僕の働きを考えれば、二人は歓迎してくれるんじゃないかなと思ってね」
長身の給仕係は銀の盆に、お茶を載せてアルベールの前の置いた。前もっての相談もなくいきなり相席した客が現れたから、宿の食堂側側もびっくりしていると思う。富裕層相手の商売なので、まだ特に何も言われてないけど。後で、チップを弾まなきゃ。
「……あいつは、どうなったんだ?」
ジークは、静かに聞いた。私たちは大騒ぎの仕掛け人である黒魔法使いのブルース伯爵の判決が出るのを待たずに、ここに来た。
大昔、黒魔法はもてはやされた時期もあったものの、今ではもう廃れ、なんなら禁呪に指定されている魔法も多い。時を反復させるものは、知識のない私にはわからないけど。他人の精神を操ったりする魔法は、例外なく禁呪だ。
だから、アルベールに尋ねるまでもなく……私たちは、彼の末路がわかっていた。
「あー……判決は、もちろん死刑だよ。他にも色々と悪どいことをやらかしているようだが、その調べが終わり次第、刑は執行されるだろう」
「そうなんだ……」
私はもう既にわかっていたこととは言え、彼の判決を聞いて暗い気持ちにはなった。いくら自分たちに危害を加えた人間だとしても、生きている人間が死ぬと聞けば嫌なものだ。
「王は自分の治世の中での黒魔法など、絶対に許されないと激怒されていてね。他の人間に対する、見せしめもあるだろう。楽には死ねないだろうが、自業自得だな」
アルベールは熱いお茶を飲んで、ふうと息をついた。
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