上 下
5 / 107

第5話『ダンジョンを作ってみた』

しおりを挟む
 『三人寄れば文殊《もんじゅ》の知恵』
 というコトワザがある。

 だけど俺たちの場合……。
 三人よればかしましいだけ。



「ダンジョンは。村のまん中だ! 意義ないな!」

「それは普通過ぎるよ。意表を狙おっ?」

「そこは特に意表は狙わなくていいと思うぞ?」

「あたいは下に一票!」

(いやせめて東西南北で行ってくれよ。下ってどっちだよ?)

「ボクは北が良いです。占星学的には……(中略)……なので!」



 完全に『船頭多くして船山にのぼる』ってヤツだ。
 おのおの主張が強いのでまぁー、ぶつかる。



「へぇ。なるほど。よしわかった。下《?》と、北の間をとって、真ん中で決定だ!」

「えー。意外性はぁ? それって普通すぎない?」


「あのなぁ。俺たちが作るのは、俺たちの生活費を稼ぐための商業施設だ! チビすけ、意外性はいらんわっ!」

「おっさん。あたい”チビすけ”じゃない、ルナ! 名前で呼んでね!」

(いやいや……俺が名前と職業を言った時に、おまえ名前言わんかったから『チビすけ』って呼んでただけだぞ? 名前があるなら逝ってくれ)

「あの、ボクは、ユエって言います……改めて、よろしくお願いします。ユーリさん」


 そういえばユエの名前、聞いてなかったな。
 ユエか。いい名前だ。
 ルナも……まぁ、可愛らしい名前だな。


 それにしてもこのままじゃラチがあかん!
 ダンジョンの位置は。
 こうなったらアレで決めよう。


 このまま議論を続けても平行線だ。
 残酷だが、こいつらに現実を突きつける必要がありそうだ。
 心を鬼にして、あの残酷な現実を突きつけねばなるまい。


「お前らの言うことは確かに、一理ある」

(……と、とりあえず言っておこう)

「あたいのは、一理じゃない。全理っ!」

「占星術の意義を認めてくれましたか! さすユーリさん!」



 どっちもアホだな。



「………冷静に、思い出せ。イマの俺たちはなんだ? どういう身分だ? ルナ? ユエ?」

「あっう……あーっ……わはは。あたいは、……そうそうおっさんの従業員。金貨3000枚分の!」

(金貨3000枚分の仕事、期待してるぞ。ルナ!……まぁ、贅沢は言わない。1枚分だけでもいいから。頼むぞっ!)

「ボっ……ボクは……、そう! 自由人です! 何にもとらわれない風のような――旅人です!」

「はいはい。現実見ようね。おれたちは――無職だ」




「そんな……そんな……そんなことってありますか! 神様は残酷過ぎます!!」

「あ……あたいは……無職というより……何にも染まらない無色だから!」

「ルナ、ユエ。……現実をみろ! 人生は冒険じゃない! 日常だ!」



「ルナ。稼がないと、辛いぞ。リンゴすらくえない」

「やーだぁー……あたい。リンゴ食べたいもんっ」


「ボクは毎日、スイーツが食べたいです!」

「そのためには金を稼がないといけない。まずは金だ」


「やっぱ、世の中って金なんだねー」

「お金ですね」



 すごい手のひら返しだな。
 物分りが良いのは良いことだが。



「はいはい。そんじゃ、ダンジョンの場所はジャンケンで決めるぞ」

「ここであったが10年目。あたいにじゃんけんで勝てると思うなっ!」

(ルナ。おまえ、10年前は影も形もないだろ)



「ボクも……相手がユーリさんでも、負けませんっ! 頑張ります!」

(ジャンケンで何をどう頑張るというのだ……)

「それじゃ、いくぞ。じゃんけんポン!」



 勝った! やったぞ!!
 俺は拳を空に掲げ、勝利のポーズを決める。



「おっさん、こども相手に本気だすとか、おとなげないなぁー」

「はわわ。負けちゃいましたぁ……さすが、ユーリさん強いです!」



 結果的に俺がジャンケンに勝ったので、
 ダンジョンは村のまん中に作ることとなった。
 みんなで歩いて村の中央へと向かう。



「それじゃぁ、作るぞ! 迷宮術士の奥義――ダンジョン創造!」


 まぁ奥義というか、これしかできないのだが?
 ついに一世一代のチートを使ってしまった。


 なんかやりきった感があって嬉しい。
 やっぱりいくつになってもこういうのワクワクするよな。


 村の中央広場の地面が光を帯びる。
 地面からズズズ……と巨大な門がせり出してくる。


 しばらくすると村の中央に巨大な門ができていた。
 ダンジョンに通じる門である。



「ふぅ……。やったぜぇ! 無事に成功っ!」

「すごぉー! でかぁー!」



「これはっ……ユーリさん、とても――ご立派様、ですね」

(ご立派様? なんか卑猥に感じるのは俺の心がけがれているからか?)


「そんじゃ、いっちょ、中に入るか」

「あたいが、一番のりー!」

「待ってください。一番乗りはボクですよーっ!」



 あれだな。

 大人しそうだけどユエも結構な負けず嫌いだよな。
 そしてわりと意志が強い。

 ルナとユエ、はたから見ている分には姉妹のようで微笑ましくもある。
 黙っていれば二人とも美人なんだがなぁ。

 まぁ……ユエは男なのだが。



「そんじゃー。俺も、そろっとダンジョン入るかぁ」


 門に手をかけて、俺はダンジョンの中に入った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

現代文の模試に出そうな評論たち

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:6

こころ・ぽかぽか 〜お金以外の僕の価値〜

BL / 連載中 24h.ポイント:610pt お気に入り:783

平凡少年とダンジョン旅

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:1

【立場逆転短編集】幸せを手に入れたのは、私の方でした。 

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:6,426pt お気に入り:825

【完結】婚約破棄の代償は

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,613pt お気に入り:386

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,637pt お気に入り:6,430

【完結】天使がくれた259日の時間

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:1,136pt お気に入り:10

【完結】これからはあなたに何も望みません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:184pt お気に入り:3,121

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:44,651pt お気に入り:35,285

処理中です...