上 下
76 / 107

第75話『一人の王』

しおりを挟む
 …………血……ひやりとした、床の感触。
 ……私は……負けたのか。



 使用した確殺型迎撃遺物カウンター・アーティファクトは3つ。



 『魔弾の手套デアフライシュッツ』:因果を逆転、必ず先手を取る
 『小さな鍵レメゲトン』:この本に触れたあらゆる物を本の世界に封じる
 『奈落の小片フラグメンツ』:しかない空間に通ずる洞《アナ》




 まず、『魔弾の手套デアフライシュッツ』でベオウルフの神速に先んじる。
 因果逆転。光速を超える斬撃であっても先手は確定。

 次に、『小さな鍵レメゲトン』が、曲刀カムシーンを囚《とら》える。
 瞬時に触れた対象は『小さな鍵レメゲトン』に封じ込められる。

 最後に、『奈落の小片フラグメンツ』に『小さな鍵レメゲトン』を落とす。
 これで、……勝利できるはずだった。







 ・・・・・・・・・・。







 これは、自信のある……必勝戦法。
 だったんだけどなぁ。はは……。


 シンという、召喚した使い魔。
 ヤツは復活と復活時超強化のスキルを有する。
 『黄金道十二宮アンヘルゾディアック』『救世主福音書ニューゲームプラス


 つまり、殺せば殺すほど強くなる。
 長期戦は圧倒的に不利。


 だから初手で本に封じ奈落に落とし無力化。
 ……つもり、だったんだけどなぁ。


 傭兵王の鉄の曲刀――三日月刀カムシーンに、断ち斬られた。
 …………完全なる決着。私の敗北。


 この流血の量。……もって、あと18分程度。
 13分後には血液不足で意識の混濁が始まる。
 自分の正確な死期がわかる。


 ふふ……やはり、勉強しておいて良かった。 


 最後に語り合う時間をくれたということか。
 ありがたい。私の自慢の友だ。





「……ベオウルフ。君の勝利だ。そして、私の、敗北だ」

「……十分にシンを屠《ほふ》れる、完璧な連携技だった。ハッたりでも、無謀でもない、ちゃんと考え、よく練られた、エゲツないほど確殺の連携技だ。……あんたがアイツとマジで対決しても、アレに勝てたんだろうなぁ……」




「お世辞はいい……、――――いや……やっぱり、お世辞でもいいから、君からの称賛の言葉は……聞きたいなぁ……私はね、ギルドマスターと居た冒険者時代……そして、王になったあとも、……本当の意味で……私を、認めてくれてる奴はいなかったよ……どこか、みんな、心の底で……馬鹿にしてるみたいでさ……そりゃまぁ……私だって……目を見りゃ、相手がどういう風に思っているかくらい、わかるよ……はぁ……まぁ、正直……それなりに、……そういうの、こたえたよね……ははっ」




「あんたの周りはクソ野郎ばかりだぜ。キザったらしいギルドマスター、あんたを侮り罵倒した冒険者時代の仲間、影でせせら笑っていた臣下、みんな、クソ野郎だ」

「はは……仕方ないさ、私は元平民……それに、実績、出せなかったからなぁ……」




「……俺が、あんたに勝った理由はただ一つ。それは、世界で一番、あんたに関心を持ち、興味を持ち、誰よりあんたに詳しい、採掘王殺しの、専門家《スペシャリスト》だからだ」

「君も、変わり者だな……私に関心を持ってくれたのは、世界で二人。……妻と、君……他の者が、私の名を出す時は、……はぁ……まぁ、もう、そんなこと……どうでも、いいか。……それは光栄だ……つまらない、人間だっただろ……叡者《えいじゃ》。……努力した凡才。そんな私に、興味を持ってくれて、ベオウルフ、君に、感謝だ」




「あんたの遺物を使った連携技。完璧だった。俺に曲刀《カムシーン》を抜かせたその事実だけでもあんたは大した戦士だ。その闘志に敬意を示そう。あの化け物も殺せた。俺がアレを打ち破れたのは、ちゃんとタネがある。物事には、必ず理由がある」

「……その手品のタネを聞かせてくれないか」




「単純な手品《トリック》だ。あんたの所有遺物《アーティファクト》はな、その特性、材質、弱点、……事前に調査済みだ。さらに、あんたの使える剣技、魔法、得た知識、行動パターン、そのすべてを完璧に予習。精神面の弱点も含め、完璧に対策した。まぁ……何の対策もせず、初見だったら殺されてたのは俺だったな、ははっ! まぁ、俺も俺で、死ぬほど勉強してんだよ。殺しの専門家《スペシャリスト》は、絶対に油断はしない。あんたと同じように、仕事の前には、可能な限り徹底的に準備をする。目の前の野蛮な男は、実は意外と勤勉な男だったんだぜ? 根っこのとこでは、あんたと、俺は似た者同士だったつーこったなぁ」


「似た者同士か。嬉しいよ……最高の褒め言葉だ。まぁ、……違うのは、私は……君と違って、勇敢じゃない。……だから、シンに対して確実な勝機がなければ……最初から、私は頭を下げ、君にお願いしていた……でも、君はきっと……完全な勝機がなくても……闘うのだろうね」




「……――俺は、自分の罪を自らの手で消し去ろうとしていた、あんたの心意気、決意を無にした。すまない。……だから、あんたを殺した俺は、あんたの代わりに、――――いや、それ以上に、完璧にアイツを、肉体だけでなく、心まで破壊し尽くし、討ち滅ぼしてみせよう。それが、……傭兵王流の筋の通し方ってもんだ」

「……ベオウルフ、私の罪の後始末を、……すまない。そして、ありがとう」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,001pt お気に入り:53

王子を助けたのは妹だと勘違いされた令嬢は人魚姫の嘆きを知る

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,747pt お気に入り:2,675

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,511pt お気に入り:1,363

遺書(虚構) 遠藤さくら(著作)

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:4

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:1,398

あなたにはもう何も奪わせない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:50,020pt お気に入り:3,108

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:314

完堕ち女子大生~愛と哀しみのナポリタン~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:710pt お気に入り:66

あなたに恋した私はもういない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:291pt お気に入り:3,043

妹が私の婚約者と結婚しました。妹には感謝しないとね。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,521pt お気に入り:192

処理中です...