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ミスリルゴーレム戦、決着

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 試合開始が告げられると共に、大太刀使いの女性プレイヤーが前に出た。大太刀を下段の構えにしているところから、斬り上げる形で攻撃を仕掛けるつもりなのだろうか?

 一方でミスリルゴーレムは攻撃を防御してから反撃することを選択したようで、両手斧を用いた防御態勢を取った。この防御を、大太刀使いの女性プレイヤーはどう突破するのだろう。そして、両者がぶつかった訳なのだが──自分の予想は大きく外れる事となる。

「《影大太刀・槌の衝撃》!」

 何と、大太刀の刃ではなく柄の部分で大太刀使いの女性プレイヤーはミスリルゴーレムに攻撃を加えたのだ。確かに柄であってもそれなりの攻撃は出来るだろうが、彼女のソレは別物だ。まるで過去に見たドワーフの戦士が持っていたハンマーでミスリルゴーレムをぶっ叩いたような音と衝撃が生み出されたいたのだから。

『な、なに!?』

 防御態勢を取っていたにもかかわらず、ミスリルゴーレムはその衝撃を受けて一方後ろにのけ反った。何という技だ、あのミスリルゴーレムを真っ向正面から押しのけるとは。

「うちのパーティで一番筋力が高いと思われるのがアイツなんだ。あのアーツ、俺は取れていない。たぶん筋力不足なんだろうな」

 と、リタイヤさせられた大太刀使いの男性プレイヤーがこっそりと教えてくれた。でも、彼女は筋肉モリモリのマッスルという感じには見えない。ならば、筋肉を絞り込んでいるってパターンだろう。筋肉はある、しかし見た目はスマートだって人はたまにいる。彼女も、その系統の人なんだろう。

 さてそんな事実を知らされた武舞台上の彼女だが、さらなる連撃を仕掛けていた。《影大太刀二連・槌の衝撃折重ね》というアーツと共に、さらに大太刀の柄でミスリルゴーレムをより大きくのけぞらせるとともに、ミスリルゴーレムの防御態勢を破壊。なるほど、このアーツ二連撃は打撃属性を相手に与えると共に相手の体幹を崩すことを主に置いた技なのだろう。ならば当然、三連目があるはず。

「《影大太刀三連・血華の刃》!」

 その通りと云わんばかりに、三連目のアーツが発動。隙を晒しているミスリルゴーレムに対して目にも止まらぬ七連撃の後に、紅の華……多分梅の花だと思われる華が一瞬で咲いてぱっと散った。アーツを撃ち終えた彼女は、すぐさまバックステップをして距離を取り、大太刀を構えなおした。

『ぬう……何という技よ。そして力よ! 先の戦士も素晴らしかったが、其方もまた素晴らしい戦士だ! 故に、私も大技を振るおう! 返礼を受け取るがよい!』

 ミスリルゴーレムは言葉の後に大きく体をのけぞらせ、そこから全力で両手に持った一対の斧を大太刀使いの女性プレイヤーに向かって全力で叩きつけた。それだけでは終わらず、叩きつけた場所からは一瞬でマグマが生み出され、更に火山が噴火したかのようにマグマが大量に吹き上がった。彼女はどうなった!? 叩きつける寸前まではあそこにいたはず……

 そう思った直後。ミスリルゴーレムの左腕に三本の銀閃が走る。その銀閃が消えた直後、凄まじく太いミスリルゴーレムの左腕の肘から先が斬り落とされて地面を転がった。攻撃を行った当人である大太刀使いの女性プレイヤーは、悠々とミスリルゴーレムの後方にふわりと着地した。カウンター技か? それとも、純粋に自分の技量で反撃したのか?

「まともに貰えば、ひとたまりもなかっただろうが。それをまともに受けてやれるほどこちらに余裕が無いのでね。済まないが回避後に反撃させてもらった」

 サラっというが、あの攻撃を受けるぎりぎりまで引き付けてからの回避に始まり……そこから強烈な反撃は相当なプレイヤースキルとキャラクターのパワー両方が必要なはずなんだが。それをやれるだけのスペックを持っていると言う事か。ゴーレムゆえに痛覚はない? ようで、ミスリルゴーレムは斬りおとされた左腕を少し眺めていた。

『腕を落とされた事など、記憶にないな。ふうむ、素晴らしい攻撃であった。しかし、こちらはまだ右腕も足もある。まだまだ降参するわけにはいかんぞ』

 ミスリルゴーレムは斬りおとされた左腕を掴み、武舞台の外に投げ捨てた。邪魔にならないようにしたのだろう。再び立ち上がり、右手に持った斧を構えなおした。今の所、大太刀使いの女性プレイヤーが事を優位に運んでいる。しかしそれを一手でひっくり返せるだけのパワーがミスリルゴーレム側にはある。まだまだどうなるか分からない。

 と、ここでミスリルゴーレムが動いた。今回は斧ではなく、足で一歩前の地面を激しく踏みつける。すると、三本の亀裂が生まれて大太刀使いの女性プレイヤーに向かって走る。更に亀裂の後にはマグマでできた刃が生まれており、もろに喰らえば質量と熱によって無理やりにでも断ち切られてしまうだろう。

 ここで大太刀使いの女性プレイヤーが取った判断は、前に出る事だった。三本の亀裂の右と左の間に入り、中央の亀裂の後に続くマグマの刃に対して斬りかかったのである。が、押されている。予想以上にあのマグマの刃は重いらしい。更に──

「左右の刃が、急激に曲がった!?」「マズイ、あれでは前後で挟み撃ちにされる!」

 他のメンバーが口にした通り無視された左右のマグマの刃が亀裂ごと軌道を変え、大太刀使いの女性プレイヤーの後ろから切り裂こうと迫ってきていたのだ。だが。

「予想通り、だな」

 笑みを浮かべた彼女は、迫ってくる刃をぎりぎりで跳躍する事で回避。直に三本の刃同士がぶつかり合って爆発、消滅した。先の言葉を信じるなら、彼女はこういう攻撃だろうと予測したうえで意図的に中央のマグマの刃に圧される演技をして残り二つの刃を引き付け、同士打ちさせたことになる。

「はらはらしたぜ……」「予測してたようで、よかったがな」

 自分も同じ意見だ。両断されてしまうのではないかと思っていたからな……結果としては、武舞台の上にいるミスリルゴーレムを含めた全員が彼女の演技に騙されたと言う事になるけれど。

「こんなつまらぬ手段を用いる時点で、もう余裕がお前のなかにはないな。ならば、後はこちらの太刀の一撃で叩き斬るのみ」

 と、ここで大太刀使いの彼女の圧が一気に膨れ上がった。この感じ、過去のオサカゲ氏と戦った時に感じた感覚に似ている。そう、大技を撃つ前に感じたあの時の感覚だ。ならば、繰り出す技は──

「これを冥土の土産に持っていけ、《山斬》!」

 オサカゲ氏と戦った時に自分に向けて放たれたアレが、ミスリルゴーレムに向かって放たれた。ミスリルゴーレムは右手の大斧で《山斬》を防ごうとしたが、押されている。表情からしても、余裕が無いのが見て取れる。あれは、演技ではないだろうな。

『ぐ、おおおおおおおお!!!』

 ミスリルゴーレムが吠えた後、必死で《山斬》から己の身を護ろうと踏ん張る。しかし、その行為も虚しい努力でしかなかったと表現すべきだろうか? 《山斬》が、徐々にかつ確実に両手斧を切り裂いていっているのが見える。そこから数秒ほど後に、ミスリルゴーレムの盾の役割をしていた両手斧が切り裂かれた。

 当然、こうなれば回避するすべはミスリルゴーレムにはない。《山斬》は容赦なくミスリルゴーレムを縦に切り裂いた。左右バラバラのタイミングで、地面に崩れ落ちる。

『──見事だ。文句のつけようがない、こちらの負けだ。武舞台の外に転がした私の腕は、お前たちが持っていけ。上質のミスリルだからな、加工すれば良い武器にも防具にもなるだろう。素晴らしい戦士達よ、素晴らしい戦いを私にくれたことを感謝する』

 そう言い残し、ミスリルゴーレムは消滅した。多分、先の大技でかなりのパワーを消耗したんだろうな……それを大太刀使いの女性プレイヤーに見切られて、腕を切られたと。いや、もしかしたら腕を斬りおとせたことでパワーが落ちていると大太刀使いの女性プレイヤーは勘づいたのかもしれない。そして、その後の攻撃で確信したのかも。

『そこまで! 四回戦副将VS副将戦は挑戦者側の勝利だ! 続行するか交代するかを決めてくれ!』

 勝利宣言も出た。これで間違いなく彼女の勝利である。さて、こうなると最後の一帯は何が出てくるのかが全く予想できないな。それに、確か《山斬》を放つと一定時間パワーダウンするはずだ。ならば、自分が出るべきか……そう思ったのだが、武舞台上の大太刀使いの彼女は手で自分を制した。続行するというのか?

「ああ、もしかして《山斬》の性質を知っているのか?」「ええ、以前PvPで撃たれた事がありまして」

 自分の様子を見た、大太刀使いの男性プレイヤーが声をかけてきたので返答する。

「それなら問題ない。あいつの《山斬》はある程度の調整が効くんだ。さっき撃ったのは威力を抑えたバージョンだからな。ステータス低下はほとんどない。ああやって次の相手が出てくるまでのちょっとした時間で十分元に戻るさ。あいつ、めったに出会えない大太刀使いの師匠を探し当てたらしくてな、普通じゃできない大太刀の技をいくつも使いこなせるんだよ」

 ああ、彼女も自分の様にワンモア世界で師匠に巡り合えたプレイヤーだったのか。そうなると、ミスリルゴーレムの体幹を崩した後に攻撃を叩き込んだ連続アーツも一般的な大太刀のアーツではない可能性が高いな。少なくとも、カザミネがやっているところを見た事が無い。ブルーカラーの中でも付き合いが長いカザミネが使った所を見てない以上、あれは師匠から教わらないとダメな奴だろう。

「なんで、あいつが俺達のパーティの中では最強だな。もちろん得手不得手はあるが……あいつの大太刀で何回も救われた事があるのは事実だ」

 なるほどねー、そう言わると素直に納得するよ。それだけの実力を、今見せてもらったからね。カザミネと戦ってみて欲しいな、すごくいい勝負になりそうだ。

『よし、ではいよいよ四回戦の大将の登場だ! 大将は、こいつだ!』

 おっと、ついにゴーレム軍団の大トリが出てくるぞ。さて、どんな奴が来る?
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