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ゴーレム軍団、大将

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 大将として現れた真っ白いゴーレムは……ちっちゃかった。多分あれ高さは三十センチもないんじゃないだろうか。体も細目であり、がっちりとしたゴーレムのような外見とは真逆である。だが、大将として出て来るんだから小さくて細くて弱い、なんてことはないはず。むしろ今までのゴーレムより硬くて強かったら、あの小さなサイズでちょこまか動かれながら攻撃を受けたらかなり面倒な戦いになりそうである。

『さて、ゴーレム軍団の大将であるこのゴーレムはカレイドスコープゴーレム! 特殊中の特殊ゴーレムなんでな、戦い前に説明をさせて貰うぞ。ゴーレム側からも説明して良いと許可も貰っている!』

 カレイドスコープって……確か日本語にすると万華鏡だっけ? そんな名前を冠するって事は……

『カレイドスコープゴーレムは、やられる度に強くなりながら姿を変えるゴーレムだ! 挑戦者側の勝利条件は、二十回倒す事! そうすれば彼は動けなくなる!』

 やっぱりそう言う手合いか! それに強くなるって言い方だけだとあれだが、やられ方によっては耐性を得ていくパターンも考えられる。例えばひたすら切り倒すと斬撃に強くなり、殴っていれば打撃に強くなっていくとか。其れを二十回やらなきゃならんのか、これはやり方を間違えるとすさまじくきつくなるぞ。

「始めてみるぞ、あいつ」「ゴーレム軍団は何回か出てきたけど、あいつが出てくるのは初めてだな」「ここに来て新しいモンスターは困るわね……」

 同行パーティがそんな事を話し合いっている。どうやら向こうもこいつを見るのは初めての様だ。当然それは今武舞台の上にいる大太刀使いの女性プレイヤーも同じこと──対処できるか?

「説明に感謝する。では、私は何時でも始められるぞ」『Kyu!』

 ふむ、落ち着いているな。大太刀を構える姿にも動揺は見られない。ゴーレムの方も小さい姿ながら、やる気満々なのは伝わってくる。激しい戦いになりそうだとは思うが、ゴーレム側の情報が未知過ぎて、どう激しくなるのかが読めない。とにかく、こちらは見守るしかない。

『両者からの準備完了の意思を確認した、それでは四回戦副将VS大将戦、スタートだ!』

 司会者の宣言を受けた直後、大太刀使いのプレイヤーはゴーレムに向かって一直線に突っ込み──左手で掴んで思いっきり地面に向かって叩きつけた。ゴーレム側はその衝撃に耐えられずにバラバラになった……えっと。これで一回倒したって扱いになるのかな?

 様子をうかがっていると、カレイドスコープゴーレムはバラバラになった四肢を再び集めて復活した。四肢を引き寄せるときにトラクタービームみたいなのが出ていたな……それはともかく。復活したカレイドスコープゴーレムは少しだが確実にその大きさを増していた。パット見だけど、六センチ前後大きくなったんじゃないだろうか?

 そのやや大きくなったカレイドスコープゴーレムを、今度は蹴り飛ばして倒す。倒させるとまた数センチゴーレムは大きくなった。それだけじゃなく、色もついてきた、徐々に、青くなっているように見える。だが、武舞台上の彼女はお構いなしに蹴って、掴んでからぶん投げて倒していく。それが数回武舞台の上で繰り返された。

 カウントが間違っていないならそれは六回目の復活の時だった。それまで数センチしか一回に成長せず、色も徐々に染まるという感じだったカレイドスコープゴーレムが突如大きく成長した。多分二メートルぐらいの大きさだ。体の色も真っ青になっており、これではとてもじゃないが、掴んでぶん投げると言う事は出来そうにない。

(なるほど、ここら辺からが本番と言う事か。後、付いた色も理由があるんだろうけど……それはここから先の戦いでわかるだろう)

 流石にこの体躯となったカレイドスコープゴーレムに対し、大太刀使いの女性プレイヤーはいったん距離を取って大太刀を構えなおした。そこから、一瞬の突き。カレイドスコープゴーレムの胴体をぶち破り、ゴーレムはバラバラになった後に復活する。今度は極端に大きくなる事はなかったが……突きをあてた部分が青から僅かにだが紫色に代わっている。

 そのまま、七回から十一回までカレイドスコープゴーレムは突きのみで倒された。ただし、七回目までは一発で倒せていたが、そこからは二回突く必要があり、十一回目は五回突かなければ倒せなかった。ゴーレムの耐久性、防御力は確実に上がってきている。また、ゴーレムの色はすでに全体が紫色になっている。

 更に、ゴーレムからの反撃も増えてきていた。最初の内は逃げるようなしぐさが多かったが、六回目以降はパンチで応戦し、十回目以降はパンチの先からいくつもの岩でできたボウガンで使うようなボルトを発射するようになっており、大太刀使いの女性プレイヤーはそれらの攻撃を避けながら攻撃を入れている。

 そして十二回目。ゴーレムがまた大きく変化した。体全体が膨れ上がってこれぞゴーレムという見た目へと変化。体の色は紫よりも赤目の色になっており、更に両腕には大太刀の様なブレードが三本づつ付随していた。そのブレードがスライドするような形で動き、まるで鉤爪の様な感じとなる。

「やっぱり、こういう手合いだったか……」

 相手の攻撃を受け、それを学んで進化する。故に完成した時にはどんな姿になるのかはその時次第。故にカレイドスコープという名前が付いたと言う事かね。そして多分、色の変化も赤は斬撃系、青が打撃系の経験との感じになるのではないだろうか。 最初は投げられたりけられたりして倒されていたから青くなって、そこからは突き攻撃で徐々に赤くなったことから、たぶん間違いない。

(カレイドスコープと言う事で、光の三原色に則った色がつくのだろう。そうなると魔法系は緑なんだろうな)

 最初から大太刀で斬っていたら、ゴーレムはもっと真っ赤になっていただろう。そして、より斬撃に対する対策なり武装なりをしていた可能性がある。それを見越したからこそ、彼女は最初大太刀を使わない方法でゴーレムを倒していたわけだ。そして、さっきが十二回目だから……このゴーレムはあと七回、進化する余地が残されている。

 ゴーレムが動く、鉤爪のように装着された大太刀の切っ先を、大太刀使いの女性プレイヤーに向けて振るう。かなりのスピードだ、大太刀使いの女性プレイヤーは回避こそしたが、余裕があまりあるようには見えなかった。たぶん彼女は一瞬悩んだんだろう。このまま大太刀による攻撃を加えて倒し続ければ、最終段階では大太刀による攻撃が通じなくなる可能性を考えて。

 そんな攻撃の手が止まった彼女に対し、カレイドスコープゴーレムの攻撃は連続して行われる。手から発射されるボルトによる攻撃も当然健在で、武舞台の上の彼女に考える時間を与えない。仕方なく、と言った感じで大太刀使いの女性プレイヤーが小尾達の一撃をゴーレムに数回叩き込む。

 ゴーレムは一度崩れ落ちたが、すぐさま復活してくる。手に装着された大太刀の様なブレードの数は両腕共に四本となり、ブレード自体の輝きも増している。その様子から、あのブレードの攻撃力が上昇したと感じられる。ますます強化されてしまったわけだ。それでも、倒すためには攻撃を続けるしかないのだが。

「最初のちっちゃいころの面影はどこにもないな」「もし、もし最初から大太刀一本の攻撃で倒してきていた場合、どうなっていたんででしょうか」「最初なんで蹴ったりしてたのかの理由がよく分かった、俺がやってたら勝てなかった可能性が高い」

 大きく変貌したゴーレムに対し、同行している面子が思い思いの感想を口にしている。しかし、まだ問題は……あと六回こいつは進化する余地が残っている事。それが分かっているからこそ、大太刀使いの女性プレイヤーはアーツを一切使わずにいるのだろう。もしアーツを使って倒した場合、ゴーレム側もアーツを解禁してくる可能性は十分に高い。

 だからこそ、きつくてもアーツはぎりぎりまで撃たないという判断をしている事がよく分かる。ひたすら振るわれる攻撃をはじいたり回避したりして何とか堪え、一発一発を丁寧に隙に差し込んでいくという繊細な戦い方に終始し、大きめの隙が出来てもアーツを振るおうとはしていないのだから。そしてまた、ゴーレムは地に伏せてから復活する。

 今回は大きな変化は見受けられないが……だからこそ、目に見えない部分が強化されたと考えるべきだ。既にゴーレムの耐久性はかなりの者となっており、前の形態では大太刀の攻撃を三十回ほど食らわせないと倒せなかったのだ。その耐久性が大きく上がったとすれば、ますます戦いは辛いものとなる。

(でも、彼女はまだ集中している。あの状態がどこまで持つか……集中力が切れて、おざなりな動きしかできなくなったら、そこでお終いだ何てことは、当人が一番分かっているはずだ)

 あと五回、倒しきれるか? 手助けできない以上、こちらは頑張ってくれと祈るしかない。なんとも歯痒い状況だ。ちらりと目をやると、自分だけでなく同行パーティの皆も同じような事を考えていると思われる表情を浮かべている。武舞台の戦いを眺めながら、歯を食いしばっていたり唇を噛んでいたり。

 ゴーレムの動きがさらに良くなっている──アーツなしではもう相当にきついはず。もう使っても仕方がないところなんだが、まだ彼女は使わずに粘るつもりのようだ。彼女の精神力が戦闘終了まで持つことを祈るしかない。祈ってばっかりだな、この場所では……しかし、他にできる事もない。ああ、本当に歯痒くなる。
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