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27巻
27-2
――グラッドPTとヒーローチーム、侵攻開始
アースやツヴァイ達が有翼人のトップと戦いを始めた頃、中央の島にそびえ立つ塔の中にて。
地上連合軍の別働隊として侵入してきたグラッドPTと、助けを求める人を必ず助けるというヒーローとしての信念をかなぐり捨ててまで耐え忍んできたヒーローチームに、この塔の乗っ取りを狙っていたミミック三姉妹の長女ミークから声がかかった。
「奴が動きました! こちらも作戦を開始します!」
「本当か? 連合軍がこの島までやってきたことは分かってるが、それにしたってボスが出るのが早すぎねえか?」
ミークの号令に、いぶかしげな声を上げたのはジャグド。彼だけではなく、ここに集っていた全員が同じことを感じていた。
この塔の中にはまだまだ奴の部下がいる。そいつらを先に出して、地上連合軍が消耗してから自らが出るのだろう……と予想していただけに、思わず首を捻ったのだ。
「私も理由は分かりません。ですが、どうやらこの塔の中にいる有翼人達は戦わせて失いたくないと考えられます。なんにせよ、彼が塔から出たことだけは間違いありませんので、作戦を実行します!」
迷いなく言い切られたミークの言葉に、もう異論は出なかった。
「では、決めていた通り、グラッドさん達は塔の左から。ヒーローチームの皆さんは右から攻め上がってください。途中で見かけた物は盛大に破壊してくださって構いません。むしろ積極的に破壊して塔の機能を低下させてくださったほうが、私の乗っ取りがやり易くなります」
ミークの言葉に無言で頷き、グラッドPTとヒーローチームはそれぞれ出撃態勢に入る。
「作戦が始まれば、もうここに戻ってくることはできません。忘れ物はありませんね? 装備の点検は済みましたね?」
「ああ、いつでも飛ばせ」
「こちらも全て完了、いつでもどうぞ!」
ミークはグラッドとレッド双方からの返答に頷き、出撃の最終行程に入る。
「これから、塔の最下層に皆様を飛ばします! 上り方、進み方は私が矢印で指示します! 皆様はそれに従って移動、邪魔な物の破壊、遭遇した有翼人の撃破をお願いします! そして最上階に到達したら、塔の最重要施設であるコアを破壊します! コアを破壊すればこの塔のあらゆる機能が止まり、奴らの野望に必要な洗脳能力も消失させることができます! それでは、作戦開始!」
ミークの作戦開始の声と共に、グラッドPTとヒーローチームはそれぞれの出撃場所へと転送された。到着後、すぐさま抜剣し、走り出す両チーム。
それからややあって、けたたましいアラームが塔の中に鳴り響いた。
◆ ◆ ◆
「このアラームはなんだ!? 原因を調査しろ!」
「大変です、最下層に侵入者です! 今、画面に映します!」
塔の上層にいた有翼人達が、侵入者の姿を確認しようとモニターを起動するが──一秒と経たずにモニターは砂嵐を表示するのみとなる。
「モニターに異常発生!? ダメです、侵入者近辺の監視装置が次々と動作不良を起こしています!」
「ええい、定期点検をさぼっていたな!? だから敵の妨害に容易く屈するのだ! 処罰はあとで考える、とにかく侵入者の足を止めるぞ。トラップを起動しろ!」
「了解、各種トラップ起動!」
落とし穴やレーザー光線、センサー式閉じ込めトラップなどが次々と起動するが──有翼人側のその動きを、ミークが察していないわけがなかった。
◆ ◆ ◆
「はいはい、解除解除。最下層から下層辺りまでは、すぐに侵攻できるように事前準備が済んでいるんですよねえ。彼らの動きを、トラップで止められるなんて思わないでくださいね。いろんなダンジョンを作ってきたダンジョンマスターとしての腕を、ここで披露してみせましょう。ミーツ、クク、細かい部分は任せますよ?」
「分かってます、姉さま」
「大丈夫です、姉さま。私達だって成長したんです」
ダンジョンマスターである長女ミークと、そのサポート役の次女ミーツ、三女ククの力で、塔のトラップはすぐさま機能停止していく。そのおかげで、グラッドPTとヒーローチームはさほど時間をかけずに、しかも途中で目についた物を適当に破壊しながら、下層エリアまで順調に歩を進められた。
◆ ◆ ◆
「遠慮なく破壊していいってのは楽でいいねえ~」
グラッドPTのガルがそんなことを呟きながら、いくつもの魔法をいろんな場所に放ち、多くのセンサーや資材が灰になった。
「今まで顎でこき使われてきた借りをやっと返せるってもんだから、そりゃ楽しいだろう」
ザッドも愛用の武器を振り回して、何かしら光っている物があれば手あたり次第に(ただし移動速度が落ちない程度に)破壊した。槍を持つゼッドや弓使いのジャグドは積極的にあちこちを攻撃している。
「アンタら、余力は大丈夫なんでしょうね? 移動しながらの破壊にナックルはあんまり向かないから、アタシはあまりやることが少なくて退屈よ。さっさと有翼人の屑どもが出てこないかね? 首をねじ切ってやらなきゃ気が済まないねぇ」
「ゼラァ、退屈なのは今だけだ。あの屑どもだって、これだけ破壊活動を食らえば動かざるを得ない。そうして出てきたら、きっちり今までのツケを払わせろ。俺達を都合のいい駒扱いした代償は軽くねえってことを、しっかり理解してからくたばってもらわねえとな!」
グラッドの獰猛な発言に、他の面子もその通りだと同意の声を上げる。こうしたグラッド達の破壊活動で、ミークによる塔の侵食は着実に進んでいた。
◆ ◆ ◆
その一方でヒーローチームは、重要そうなものだけを選んで破壊し、先を急いでいた。
「リーダー、もうちょっと破壊したほうがいいんじゃないか?」
「いや、大したものじゃない限り無視していいだろう。邪魔になるトラップは積極的に破壊すべきだが、見つけた物をいちいち破壊していたら時間がかかりすぎる。だからほどほどにして、一刻も早く頂上を目指す。外では有翼人のトップを相手に地上連合軍が戦っているんだ。早くそちらへ援軍に向かわなければ」
グリーンの言葉に、レッドはそう返答する。
今まで集めてきた情報を統合した結果、レッドには有翼人のトップの恐ろしさが十分に理解できていた。
「レッド、気持ちは私も同じだけど、この塔のコアを無力化しないと、結局はあの有翼人のトップに勝てないわ。外で戦ってくれている皆さんには苦労をかけてしまうけど、物事には順番というものがあるのよ。やはりある程度は破壊活動もしないと、結果として逆に遅くなってしまう可能性があるわ」
ピンクの言葉に頷きながら、ブルーとイエローが無言で周囲の機材を破壊した。ブラックも爆薬を仕掛け、通り過ぎた部屋などを破壊する。
「ピンクの言う通りか……急いては事を仕損じる、というものな。分かった、もう少し破壊活動の割合を増やして進むことにしよう」
言うが早いか、レッドも自分の武器を振るって周囲を攻撃。その一撃で周囲の物に十分すぎるダメージが加えられた。
彼も伊達にヒーローチームのリーダーをやっているわけではない。むやみやたらと見せつけるような使い方をしないだけで、実力は相応にあるのだ。
「極端に足を止めない程度にやればいいだろう。とにかく足止めを食らうのが一番マズいってことは皆も重々理解しているさ。できる範囲でやろうぜ」
ブルーの意見に、他のヒーロー達が頷く。
こうして、塔の内外で有翼人との最終決戦が進んでいった。
3
「そらそら、もっと頑張れ! 我に一発も攻撃が届いていないぞ? それでは我を倒すことなど到底できんなぁ?」
有翼人のトップが、癇に障る声でそんな言葉を口にしながら腕組みをして笑っている。
地上連合軍の皆が必死で攻撃を仕掛けているのだが……奴の言う通り、今のところどの攻撃も届いていなかった。
ここまでの過程で分かったのは、奴を護っている不可視の障壁は、楕円形かつ二重構造であるということだ。
火の魔法とか氷の魔法による攻撃を防いだときに、外側にあるほうの障壁の輪郭が見えた。その障壁は魔法による攻撃に対して特化しているようで、武器による物理攻撃はほぼ素通りする。しかし、その奥の内側に更なる障壁が張られており、武器はそこで止まってしまう。自分もスーツに残された数少ない攻撃手段であるブレードで仕掛けてみたが、やはりこの内側の障壁に止められた。
「どうなってるんだ!? いくら強固な障壁といえど、これだけの人数による飽和攻撃を受ければ脆くなるはず! なのになぜ未だに攻撃が通らぬ!?」
連合軍の兵士からそんな声が聞こえてくる。
そう、そうなのだ。『ブルーカラー』のメンバーや兵士による物理攻撃と魔法攻撃。ドラゴンによるブレス。雨龍さん砂龍さんの薙刀や大太刀による攻撃。それらの猛攻を受けているのに、有翼人のトップを護っている障壁は一向に衰えない。
「はっはっはっは、貴様らのような下等生物の作る障壁とは格が違うのだよ。悔しいというのであれば、納得できぬというのであれば、もっと攻撃を加えてみるがよい。まあ、徒労に終わるだろうがな!」
──本当にこんな障壁を破れるのか? 自分のとっておきである《霜点》を振るっても通じなかった場合、起点が潰されることになるため自分が打てる有効な手は一気に減る。その心理的な躊躇のせいで、《霜点》を振るいに行くだけの覚悟を決めかねているのが分かる。
それに加えて、《霜点》はどれだけの範囲攻撃になるのかも分からない。剣の範囲だけなのか、それともとんでもない余波が起きるのか? そこら辺がハッキリしていない以上、大勢の人が奴に近寄って攻撃を加えている今だと、巻き込んでしまう危険性がある。
(切り込むタイミングは、皆がいったん引いて、奴が「次はこちらの番だ」とか何とか言いながら攻撃に移ろうとするときだろうな。そのタイミングなら、大きな余波があったとしても味方を巻き込んでしまう心配は少ない。今はまだ、他の仲間と一緒になっての攻撃を続行しておこう)
下手に仕掛けて仕留め損ない、己を害することができる武器と手段をこっちが持っていると悟られれば、奴は間違いなく自分を徹底的にマークするだろう。
そうなれば、不意を突く機会を掴むのが難しくなる。最初の一太刀で、奴の体を真っ二つにできるのが最上の結果なのだ。接近するタイミングさえ間違えなければ、あとは【真同化】の中にいる霜点さんや皐月さんをはじめとした皆に任せればいい。切り込める機会が来るまで、今は我慢、我慢の時間だ。
「ぐおおおおおおっ!!」
ツヴァイが大上段の構えを維持しながらジャンプし、炎の大剣を全力で振り下ろす姿が見えた。しかし、破壊力抜群なはずのその大剣ですら、奴の障壁を抜くことができない。
障壁の中で、有翼人のトップはツヴァイの行動を鼻で笑っている。
「無駄な努力というものだな。なかなかの攻撃であることは認めるが、全く足りん」
「ちっくしょう! これでもダメかよ!? 全力の振り下ろし攻撃なのに、手ごたえが全然感じられなかった!」
障壁に撥ね飛ばされたようで、ツヴァイの体が宙に浮いた後、背中から地面に落下する。幸い受け身はとれてダメージはないらしく、すぐに立ち上がっていた。
間髪容れずにカザミネ、ロナ、雨龍さん、砂龍さんがほぼ同時に攻撃を仕掛けるが、それらも全て撥ね返されてしまう。自分も【蛇炎オイル】を投げたが、効果なし。
「私の持てる限りの全力を込めた一太刀でも通じませんか!」
「障壁のせいで掴み技にいけないよ!」
「面妖な、これだけの防御をどうやって維持しておるのじゃ?」
「カラクリはあるはず、しかし、それが何なのかが分からぬ」
雨龍さんと砂龍さんの言う通り、何らかの方法でエネルギーとか魔力の供給をどこかから受けているのだろう。そうでもなきゃ納得がいかない。いくら技術が上だからって、そこまで万能なはずがないんだ。
「そうだろう、お前達の頭では分かるまいな。さて、そろそろそちらも疲れてきたか? 手数が少なくなっているぞ。もうこちらから攻撃を仕掛けても構わぬものと受け取るが、よいのかな?」
奴のそんな言葉で、再びこちら側の攻撃の数が増えた。完全に乗せられている……! 最初のあの紫電を纏った球体による攻撃。あの威力を体で理解させられてしまったこちらは、あれをもう一回食らうわけにはいかないと思わされている。しかし、こんな手数の攻撃を無理に続ければ、当然スタミナは早晩切れる。
スタミナが切れたら、今度は回避どころか防御すらできない無防備な状態で、またあの攻撃を受ける羽目になる。そうなったら……一瞬で終わりだ。
奴の狙いはそれなのかもしれない。きっと他の人達もそのことを分かっている。分かっていても……あれをもう一回防ぐ手立てがないから、撃たれないように攻撃をするしかない、という悪循環だ。
攻撃の合間にポーションを飲む人が増えている。スタミナを急速に回復させるものなんだろうが、消費速度が速すぎる。このままでは間違いなくポーション中毒を発症して自滅するぞ……戦い始めてまだ二〇分経ったかどうかなのに。
たった一人の敵に対して、もうこちらは劣勢になりつつあるのが現状か……
「おおおおっ!」
「はあっ!」
「せいやぁ!」
「行きます!」
『ブルーカラー』のメンバーが変身を解禁したようだ。変身で能力が上がったことにより、より素早く威力のある攻撃を繰り出せるようになっている。
が、それも通じていない。障壁がことごとく攻撃を受け止め、弾き返してしまう。
グラッド達の攻撃なら障壁を抜けただろうか? だが彼らは彼らで、塔を内部から攻撃して洗脳装置を停止させるという任務に就いている。こっちに来てほしいとは言えない。
そんな風に皆が必死になって行った猛攻であったが――その結果は、こちらが激しく消耗するだけで終わってしまった。あらゆる攻撃を仕掛けたのに、奴の障壁は揺らぐことなく耐えきってしまったのである。
スタミナが切れて息が乱れた姿を、皆が隠すことができずにいる。その様子を見て、有翼人のトップはにんまりと笑う。
「はっはっは、残念だったな。素晴らしい攻撃ではあったが、我に届かせるにはまだまだ足りていなかったようだ。どれ、褒美をくれてやろう。楽にしてやる……安心しろ、殺すのはお前達だけだ。残った地上の生命は、我が有効活用してやるからな」
そんな言葉を口にすると、奴は例の紫電を纏った球体を頭上に作り始めた──その瞬間、自分はスーツの力で前方に大きく跳躍して飛び出した。そのまま距離を一気に詰める。
「距離を詰めたら、自分をいったん外に出してください! 自分が一回攻撃したら、すぐさま回収を!」
『切り札がありそうだな。分かった、何とかやってみよう。頼むぞ! このままでは何もできずに全滅するだけだ、無理やりでもなんでもいいから何としても流れを変えなければ!』
突如突っ込んできた自分に気付き、有翼人のトップの顔が僅かに歪んだ。こいつは何をしに来た?という疑問を抱いたからだろう。だが、攻撃して自分の接近を止めようという考えはないようだ。それだけ、纏っている障壁に絶対的な自信を持っているということなのだろうが……
(行くぞ、霜点さん、皐月さん、そして剣に宿っている皆!)
(行け! 接近すればあとは俺達がやる! 我々の恨みを、怒りを、悲しみを、無念を、痛みを、奴に教えてやる!!)
【真同化】の中からは、ものすごい人数の叫びが聞こえた。こちらの準備は万端だな──! あとは自分がしくじらなければいいだけ。
『今だ! 君を外に出す!』
「了解、やってくれ!」
前面装甲がスライドして外気に晒されたのとほぼ同時に、自分の体は前方へ向かってバネのように飛び出した。自分は【真同化】を両手で持ち、すぐに振り下ろせるように右肩に乗せるモーションを取っている。このまま上段から奴に叩きつけてやる!
「【真同化】最終奥義っ、《霜点》っ!!!!」
宿っている数多の意思が眠りから目覚めた影響なのか、普段とは違って黒い輝きを放っている【真同化】が、勢いよく障壁に食らいつく!
抜けるか!? 抜けてくれ!! これで障壁を抜けなければ、もう……
4
祈りを半分、【真同化】を通して見た記憶から来る怒りを半分ずつ混ぜ合わせて振り下ろした奥義、《霜点》の一撃は――奴の体に届いた。
体のどこかを切り裂いた感触が、手に伝わってくる……が、自分はどこを切ったのか確認などせず、すぐさま奴の横を走り抜けて再びスーツの中に入った。
『やったじゃないか! 奴の左腕を切り裂いたぞ! 奴に一太刀目を浴びせたんだ!』
スーツに宿る研究者からそんな喜びの声が聞こえてくる。しかし、自分と、【真同化】の中にいる人々の思念は、共通して別の気持ちを抱いていた。それは……
「しくじった……っ! 最大の好機を逃したかもしれない……!」
このひと言に尽きる。
自分としては、肩から腰にかけてを文字通りの真っ二つにする予定だったのだ。しかし、奴の障壁と奴自体の回避行動によって、左腕一本を切り落としただけに留まってしまったらしい。
これで、自分の中にある最高のジョーカーを見せてしまった。もう、奴が自分に対して油断してくれることはない。
『いや、片腕を奪ったのは大きいと思うぞ。奴は今まで、攻撃をするときには右手と左手の指先を細かく動かしていた。腕組みをして防御していたときも、僅かだが間違いなく指先を動かしていた。つまりあいつの指には、攻撃と防御を行うのに何らかの必要な仕掛けがある可能性が高い。その半分を奪ったんだ、ここからは他の者達の攻撃も、あの障壁を抜くことができるようになったかもしれない』
それならば意味はあったか。だが、やはり好機を逃したことに変わりはない。これが致命的なミスにならなければいいのだが──
「ぐおおおおおっ!? お、おのれ! 下級生物の分際でよくも我の玉体を! 至高の宝である我の左腕を! よくも切り裂いてくれたな! そして、思い出したぞ! 今の下等生物が振るった剣! 我が翼の一枚を失わせた、にっくき龍の屑が持っていた剣ではないか! またしても、またしても我の体に傷を! 許さん!」
切られた腕からはかなり出血している。だが、奴の右手が傷口に触れるとほぼ同時に、その出血も止まってしまった。流石に左腕が再生してくることはないようだが。
怒りに燃える奴は、空に高く浮かび上がると、右手を数回横に振った……それを合図として、地下から複数の何かがせり上がってきた。
それは、全長五メートルほどの、青く塗装が施されたメカであった。
今まで戦ってきたメカとは明らかに違う。腕部も脚部も、装甲をしっかりと纏ったごつい重量級の体躯。胴体には複数の小さな穴が見える……銃弾の発射口だろうか? 頭部には両側にがっしりとした太いアンテナが立っており、バイザーの奥の目と思われる部分が赤く光った。
「もう少し遊んでやろうかと思ったが、気が変わった。我らの最新鋭圧殺兵器である『ウリエル』だ。我はここから貴様達が無様に死んでいく姿を見物するとしよう! 楽には死ねんぞ、愚か者共が」
この有翼人のトップの声が攻撃指示になったのだろう、ウリエルと呼ばれた合計四機の重装甲機体は、その足を地上連合軍に向けて動かし始めた。
意外に速い! このままでは地上連合軍が踏み潰される! 自分は急いでスーツを動かし、ウリエル達に対してブレードで攻撃を仕掛けた。しかし――
「刃が、通らないぞ!」
『なんて硬さだ! 見た目以上に物理的な攻撃への耐性が高いのか! いけない、すぐに回避行動を取れ! 奴らの胸部に何か仕込まれている様子だ──』
研究者の言葉が終わる前に、自分は動いていた。そうじゃないと、回避が間に合わなかっただろう。それでも回避はぎりぎりで──いや、ぎりぎりじゃない。多少ではあるが装甲を持っていかれた。仕込まれていた物はバルカンか! 直撃じゃなかったのに、抉り取るように削られてしまっている。直撃を受けたら、あっという間にハチの巣だぞ!?
『更に回避するんだ! 次が来たぞ!』
再びの研究者の要請に応じて何とか避けた自分が見たものは……ワイヤーらしきものが繋がった四本の腕部だった。そう、よくロマン武器の一つに挙げられるロケットパンチである。こんな状況じゃなきゃすごいすごいと喜んでいただろうが、今はそんな余裕はない。
次々と迫る腕は、パンチを繰り出すだけではなく、掴みかかってもくる。捕まってしまったら、引き寄せられ握り潰されるかもしれない。
「こいつらっ、予想以上に攻撃が速い!」
『なんということだ! こちらの予想が外れ続きだ! すまないがしばらく回避に専念してくれ! むやみに攻撃を仕掛けても、撥ね返されるだけだ!』
厳しい、が、ここで少しでも粘らないと。地上連合軍のスタミナが回復するまで、自分が時間を稼ぐ必要がある。
幸い、今は有翼人のトップは見ているだけのようで、妨害を入れてくる様子はない。
どんなトンデモ存在であっても、腕を失ったわけだからそれなりの痛手なはず。おそらくだが、腕の治療時間を稼ぐために、こいつらを出してきたんだろう。
もちろん単純に、傷をつけられるはずがないと思ってやってきたのに、その予定を狂わされたから頭に来たというのもあるんだろうが。
他にも、こちらに回復の時間を与えないためとか、複数の理由が予想できる。
ま、そこら辺の正解不正解はどうでもいいか。今はこいつらの相手に専念しよう。
アースやツヴァイ達が有翼人のトップと戦いを始めた頃、中央の島にそびえ立つ塔の中にて。
地上連合軍の別働隊として侵入してきたグラッドPTと、助けを求める人を必ず助けるというヒーローとしての信念をかなぐり捨ててまで耐え忍んできたヒーローチームに、この塔の乗っ取りを狙っていたミミック三姉妹の長女ミークから声がかかった。
「奴が動きました! こちらも作戦を開始します!」
「本当か? 連合軍がこの島までやってきたことは分かってるが、それにしたってボスが出るのが早すぎねえか?」
ミークの号令に、いぶかしげな声を上げたのはジャグド。彼だけではなく、ここに集っていた全員が同じことを感じていた。
この塔の中にはまだまだ奴の部下がいる。そいつらを先に出して、地上連合軍が消耗してから自らが出るのだろう……と予想していただけに、思わず首を捻ったのだ。
「私も理由は分かりません。ですが、どうやらこの塔の中にいる有翼人達は戦わせて失いたくないと考えられます。なんにせよ、彼が塔から出たことだけは間違いありませんので、作戦を実行します!」
迷いなく言い切られたミークの言葉に、もう異論は出なかった。
「では、決めていた通り、グラッドさん達は塔の左から。ヒーローチームの皆さんは右から攻め上がってください。途中で見かけた物は盛大に破壊してくださって構いません。むしろ積極的に破壊して塔の機能を低下させてくださったほうが、私の乗っ取りがやり易くなります」
ミークの言葉に無言で頷き、グラッドPTとヒーローチームはそれぞれ出撃態勢に入る。
「作戦が始まれば、もうここに戻ってくることはできません。忘れ物はありませんね? 装備の点検は済みましたね?」
「ああ、いつでも飛ばせ」
「こちらも全て完了、いつでもどうぞ!」
ミークはグラッドとレッド双方からの返答に頷き、出撃の最終行程に入る。
「これから、塔の最下層に皆様を飛ばします! 上り方、進み方は私が矢印で指示します! 皆様はそれに従って移動、邪魔な物の破壊、遭遇した有翼人の撃破をお願いします! そして最上階に到達したら、塔の最重要施設であるコアを破壊します! コアを破壊すればこの塔のあらゆる機能が止まり、奴らの野望に必要な洗脳能力も消失させることができます! それでは、作戦開始!」
ミークの作戦開始の声と共に、グラッドPTとヒーローチームはそれぞれの出撃場所へと転送された。到着後、すぐさま抜剣し、走り出す両チーム。
それからややあって、けたたましいアラームが塔の中に鳴り響いた。
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「このアラームはなんだ!? 原因を調査しろ!」
「大変です、最下層に侵入者です! 今、画面に映します!」
塔の上層にいた有翼人達が、侵入者の姿を確認しようとモニターを起動するが──一秒と経たずにモニターは砂嵐を表示するのみとなる。
「モニターに異常発生!? ダメです、侵入者近辺の監視装置が次々と動作不良を起こしています!」
「ええい、定期点検をさぼっていたな!? だから敵の妨害に容易く屈するのだ! 処罰はあとで考える、とにかく侵入者の足を止めるぞ。トラップを起動しろ!」
「了解、各種トラップ起動!」
落とし穴やレーザー光線、センサー式閉じ込めトラップなどが次々と起動するが──有翼人側のその動きを、ミークが察していないわけがなかった。
◆ ◆ ◆
「はいはい、解除解除。最下層から下層辺りまでは、すぐに侵攻できるように事前準備が済んでいるんですよねえ。彼らの動きを、トラップで止められるなんて思わないでくださいね。いろんなダンジョンを作ってきたダンジョンマスターとしての腕を、ここで披露してみせましょう。ミーツ、クク、細かい部分は任せますよ?」
「分かってます、姉さま」
「大丈夫です、姉さま。私達だって成長したんです」
ダンジョンマスターである長女ミークと、そのサポート役の次女ミーツ、三女ククの力で、塔のトラップはすぐさま機能停止していく。そのおかげで、グラッドPTとヒーローチームはさほど時間をかけずに、しかも途中で目についた物を適当に破壊しながら、下層エリアまで順調に歩を進められた。
◆ ◆ ◆
「遠慮なく破壊していいってのは楽でいいねえ~」
グラッドPTのガルがそんなことを呟きながら、いくつもの魔法をいろんな場所に放ち、多くのセンサーや資材が灰になった。
「今まで顎でこき使われてきた借りをやっと返せるってもんだから、そりゃ楽しいだろう」
ザッドも愛用の武器を振り回して、何かしら光っている物があれば手あたり次第に(ただし移動速度が落ちない程度に)破壊した。槍を持つゼッドや弓使いのジャグドは積極的にあちこちを攻撃している。
「アンタら、余力は大丈夫なんでしょうね? 移動しながらの破壊にナックルはあんまり向かないから、アタシはあまりやることが少なくて退屈よ。さっさと有翼人の屑どもが出てこないかね? 首をねじ切ってやらなきゃ気が済まないねぇ」
「ゼラァ、退屈なのは今だけだ。あの屑どもだって、これだけ破壊活動を食らえば動かざるを得ない。そうして出てきたら、きっちり今までのツケを払わせろ。俺達を都合のいい駒扱いした代償は軽くねえってことを、しっかり理解してからくたばってもらわねえとな!」
グラッドの獰猛な発言に、他の面子もその通りだと同意の声を上げる。こうしたグラッド達の破壊活動で、ミークによる塔の侵食は着実に進んでいた。
◆ ◆ ◆
その一方でヒーローチームは、重要そうなものだけを選んで破壊し、先を急いでいた。
「リーダー、もうちょっと破壊したほうがいいんじゃないか?」
「いや、大したものじゃない限り無視していいだろう。邪魔になるトラップは積極的に破壊すべきだが、見つけた物をいちいち破壊していたら時間がかかりすぎる。だからほどほどにして、一刻も早く頂上を目指す。外では有翼人のトップを相手に地上連合軍が戦っているんだ。早くそちらへ援軍に向かわなければ」
グリーンの言葉に、レッドはそう返答する。
今まで集めてきた情報を統合した結果、レッドには有翼人のトップの恐ろしさが十分に理解できていた。
「レッド、気持ちは私も同じだけど、この塔のコアを無力化しないと、結局はあの有翼人のトップに勝てないわ。外で戦ってくれている皆さんには苦労をかけてしまうけど、物事には順番というものがあるのよ。やはりある程度は破壊活動もしないと、結果として逆に遅くなってしまう可能性があるわ」
ピンクの言葉に頷きながら、ブルーとイエローが無言で周囲の機材を破壊した。ブラックも爆薬を仕掛け、通り過ぎた部屋などを破壊する。
「ピンクの言う通りか……急いては事を仕損じる、というものな。分かった、もう少し破壊活動の割合を増やして進むことにしよう」
言うが早いか、レッドも自分の武器を振るって周囲を攻撃。その一撃で周囲の物に十分すぎるダメージが加えられた。
彼も伊達にヒーローチームのリーダーをやっているわけではない。むやみやたらと見せつけるような使い方をしないだけで、実力は相応にあるのだ。
「極端に足を止めない程度にやればいいだろう。とにかく足止めを食らうのが一番マズいってことは皆も重々理解しているさ。できる範囲でやろうぜ」
ブルーの意見に、他のヒーロー達が頷く。
こうして、塔の内外で有翼人との最終決戦が進んでいった。
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「そらそら、もっと頑張れ! 我に一発も攻撃が届いていないぞ? それでは我を倒すことなど到底できんなぁ?」
有翼人のトップが、癇に障る声でそんな言葉を口にしながら腕組みをして笑っている。
地上連合軍の皆が必死で攻撃を仕掛けているのだが……奴の言う通り、今のところどの攻撃も届いていなかった。
ここまでの過程で分かったのは、奴を護っている不可視の障壁は、楕円形かつ二重構造であるということだ。
火の魔法とか氷の魔法による攻撃を防いだときに、外側にあるほうの障壁の輪郭が見えた。その障壁は魔法による攻撃に対して特化しているようで、武器による物理攻撃はほぼ素通りする。しかし、その奥の内側に更なる障壁が張られており、武器はそこで止まってしまう。自分もスーツに残された数少ない攻撃手段であるブレードで仕掛けてみたが、やはりこの内側の障壁に止められた。
「どうなってるんだ!? いくら強固な障壁といえど、これだけの人数による飽和攻撃を受ければ脆くなるはず! なのになぜ未だに攻撃が通らぬ!?」
連合軍の兵士からそんな声が聞こえてくる。
そう、そうなのだ。『ブルーカラー』のメンバーや兵士による物理攻撃と魔法攻撃。ドラゴンによるブレス。雨龍さん砂龍さんの薙刀や大太刀による攻撃。それらの猛攻を受けているのに、有翼人のトップを護っている障壁は一向に衰えない。
「はっはっはっは、貴様らのような下等生物の作る障壁とは格が違うのだよ。悔しいというのであれば、納得できぬというのであれば、もっと攻撃を加えてみるがよい。まあ、徒労に終わるだろうがな!」
──本当にこんな障壁を破れるのか? 自分のとっておきである《霜点》を振るっても通じなかった場合、起点が潰されることになるため自分が打てる有効な手は一気に減る。その心理的な躊躇のせいで、《霜点》を振るいに行くだけの覚悟を決めかねているのが分かる。
それに加えて、《霜点》はどれだけの範囲攻撃になるのかも分からない。剣の範囲だけなのか、それともとんでもない余波が起きるのか? そこら辺がハッキリしていない以上、大勢の人が奴に近寄って攻撃を加えている今だと、巻き込んでしまう危険性がある。
(切り込むタイミングは、皆がいったん引いて、奴が「次はこちらの番だ」とか何とか言いながら攻撃に移ろうとするときだろうな。そのタイミングなら、大きな余波があったとしても味方を巻き込んでしまう心配は少ない。今はまだ、他の仲間と一緒になっての攻撃を続行しておこう)
下手に仕掛けて仕留め損ない、己を害することができる武器と手段をこっちが持っていると悟られれば、奴は間違いなく自分を徹底的にマークするだろう。
そうなれば、不意を突く機会を掴むのが難しくなる。最初の一太刀で、奴の体を真っ二つにできるのが最上の結果なのだ。接近するタイミングさえ間違えなければ、あとは【真同化】の中にいる霜点さんや皐月さんをはじめとした皆に任せればいい。切り込める機会が来るまで、今は我慢、我慢の時間だ。
「ぐおおおおおおっ!!」
ツヴァイが大上段の構えを維持しながらジャンプし、炎の大剣を全力で振り下ろす姿が見えた。しかし、破壊力抜群なはずのその大剣ですら、奴の障壁を抜くことができない。
障壁の中で、有翼人のトップはツヴァイの行動を鼻で笑っている。
「無駄な努力というものだな。なかなかの攻撃であることは認めるが、全く足りん」
「ちっくしょう! これでもダメかよ!? 全力の振り下ろし攻撃なのに、手ごたえが全然感じられなかった!」
障壁に撥ね飛ばされたようで、ツヴァイの体が宙に浮いた後、背中から地面に落下する。幸い受け身はとれてダメージはないらしく、すぐに立ち上がっていた。
間髪容れずにカザミネ、ロナ、雨龍さん、砂龍さんがほぼ同時に攻撃を仕掛けるが、それらも全て撥ね返されてしまう。自分も【蛇炎オイル】を投げたが、効果なし。
「私の持てる限りの全力を込めた一太刀でも通じませんか!」
「障壁のせいで掴み技にいけないよ!」
「面妖な、これだけの防御をどうやって維持しておるのじゃ?」
「カラクリはあるはず、しかし、それが何なのかが分からぬ」
雨龍さんと砂龍さんの言う通り、何らかの方法でエネルギーとか魔力の供給をどこかから受けているのだろう。そうでもなきゃ納得がいかない。いくら技術が上だからって、そこまで万能なはずがないんだ。
「そうだろう、お前達の頭では分かるまいな。さて、そろそろそちらも疲れてきたか? 手数が少なくなっているぞ。もうこちらから攻撃を仕掛けても構わぬものと受け取るが、よいのかな?」
奴のそんな言葉で、再びこちら側の攻撃の数が増えた。完全に乗せられている……! 最初のあの紫電を纏った球体による攻撃。あの威力を体で理解させられてしまったこちらは、あれをもう一回食らうわけにはいかないと思わされている。しかし、こんな手数の攻撃を無理に続ければ、当然スタミナは早晩切れる。
スタミナが切れたら、今度は回避どころか防御すらできない無防備な状態で、またあの攻撃を受ける羽目になる。そうなったら……一瞬で終わりだ。
奴の狙いはそれなのかもしれない。きっと他の人達もそのことを分かっている。分かっていても……あれをもう一回防ぐ手立てがないから、撃たれないように攻撃をするしかない、という悪循環だ。
攻撃の合間にポーションを飲む人が増えている。スタミナを急速に回復させるものなんだろうが、消費速度が速すぎる。このままでは間違いなくポーション中毒を発症して自滅するぞ……戦い始めてまだ二〇分経ったかどうかなのに。
たった一人の敵に対して、もうこちらは劣勢になりつつあるのが現状か……
「おおおおっ!」
「はあっ!」
「せいやぁ!」
「行きます!」
『ブルーカラー』のメンバーが変身を解禁したようだ。変身で能力が上がったことにより、より素早く威力のある攻撃を繰り出せるようになっている。
が、それも通じていない。障壁がことごとく攻撃を受け止め、弾き返してしまう。
グラッド達の攻撃なら障壁を抜けただろうか? だが彼らは彼らで、塔を内部から攻撃して洗脳装置を停止させるという任務に就いている。こっちに来てほしいとは言えない。
そんな風に皆が必死になって行った猛攻であったが――その結果は、こちらが激しく消耗するだけで終わってしまった。あらゆる攻撃を仕掛けたのに、奴の障壁は揺らぐことなく耐えきってしまったのである。
スタミナが切れて息が乱れた姿を、皆が隠すことができずにいる。その様子を見て、有翼人のトップはにんまりと笑う。
「はっはっは、残念だったな。素晴らしい攻撃ではあったが、我に届かせるにはまだまだ足りていなかったようだ。どれ、褒美をくれてやろう。楽にしてやる……安心しろ、殺すのはお前達だけだ。残った地上の生命は、我が有効活用してやるからな」
そんな言葉を口にすると、奴は例の紫電を纏った球体を頭上に作り始めた──その瞬間、自分はスーツの力で前方に大きく跳躍して飛び出した。そのまま距離を一気に詰める。
「距離を詰めたら、自分をいったん外に出してください! 自分が一回攻撃したら、すぐさま回収を!」
『切り札がありそうだな。分かった、何とかやってみよう。頼むぞ! このままでは何もできずに全滅するだけだ、無理やりでもなんでもいいから何としても流れを変えなければ!』
突如突っ込んできた自分に気付き、有翼人のトップの顔が僅かに歪んだ。こいつは何をしに来た?という疑問を抱いたからだろう。だが、攻撃して自分の接近を止めようという考えはないようだ。それだけ、纏っている障壁に絶対的な自信を持っているということなのだろうが……
(行くぞ、霜点さん、皐月さん、そして剣に宿っている皆!)
(行け! 接近すればあとは俺達がやる! 我々の恨みを、怒りを、悲しみを、無念を、痛みを、奴に教えてやる!!)
【真同化】の中からは、ものすごい人数の叫びが聞こえた。こちらの準備は万端だな──! あとは自分がしくじらなければいいだけ。
『今だ! 君を外に出す!』
「了解、やってくれ!」
前面装甲がスライドして外気に晒されたのとほぼ同時に、自分の体は前方へ向かってバネのように飛び出した。自分は【真同化】を両手で持ち、すぐに振り下ろせるように右肩に乗せるモーションを取っている。このまま上段から奴に叩きつけてやる!
「【真同化】最終奥義っ、《霜点》っ!!!!」
宿っている数多の意思が眠りから目覚めた影響なのか、普段とは違って黒い輝きを放っている【真同化】が、勢いよく障壁に食らいつく!
抜けるか!? 抜けてくれ!! これで障壁を抜けなければ、もう……
4
祈りを半分、【真同化】を通して見た記憶から来る怒りを半分ずつ混ぜ合わせて振り下ろした奥義、《霜点》の一撃は――奴の体に届いた。
体のどこかを切り裂いた感触が、手に伝わってくる……が、自分はどこを切ったのか確認などせず、すぐさま奴の横を走り抜けて再びスーツの中に入った。
『やったじゃないか! 奴の左腕を切り裂いたぞ! 奴に一太刀目を浴びせたんだ!』
スーツに宿る研究者からそんな喜びの声が聞こえてくる。しかし、自分と、【真同化】の中にいる人々の思念は、共通して別の気持ちを抱いていた。それは……
「しくじった……っ! 最大の好機を逃したかもしれない……!」
このひと言に尽きる。
自分としては、肩から腰にかけてを文字通りの真っ二つにする予定だったのだ。しかし、奴の障壁と奴自体の回避行動によって、左腕一本を切り落としただけに留まってしまったらしい。
これで、自分の中にある最高のジョーカーを見せてしまった。もう、奴が自分に対して油断してくれることはない。
『いや、片腕を奪ったのは大きいと思うぞ。奴は今まで、攻撃をするときには右手と左手の指先を細かく動かしていた。腕組みをして防御していたときも、僅かだが間違いなく指先を動かしていた。つまりあいつの指には、攻撃と防御を行うのに何らかの必要な仕掛けがある可能性が高い。その半分を奪ったんだ、ここからは他の者達の攻撃も、あの障壁を抜くことができるようになったかもしれない』
それならば意味はあったか。だが、やはり好機を逃したことに変わりはない。これが致命的なミスにならなければいいのだが──
「ぐおおおおおっ!? お、おのれ! 下級生物の分際でよくも我の玉体を! 至高の宝である我の左腕を! よくも切り裂いてくれたな! そして、思い出したぞ! 今の下等生物が振るった剣! 我が翼の一枚を失わせた、にっくき龍の屑が持っていた剣ではないか! またしても、またしても我の体に傷を! 許さん!」
切られた腕からはかなり出血している。だが、奴の右手が傷口に触れるとほぼ同時に、その出血も止まってしまった。流石に左腕が再生してくることはないようだが。
怒りに燃える奴は、空に高く浮かび上がると、右手を数回横に振った……それを合図として、地下から複数の何かがせり上がってきた。
それは、全長五メートルほどの、青く塗装が施されたメカであった。
今まで戦ってきたメカとは明らかに違う。腕部も脚部も、装甲をしっかりと纏ったごつい重量級の体躯。胴体には複数の小さな穴が見える……銃弾の発射口だろうか? 頭部には両側にがっしりとした太いアンテナが立っており、バイザーの奥の目と思われる部分が赤く光った。
「もう少し遊んでやろうかと思ったが、気が変わった。我らの最新鋭圧殺兵器である『ウリエル』だ。我はここから貴様達が無様に死んでいく姿を見物するとしよう! 楽には死ねんぞ、愚か者共が」
この有翼人のトップの声が攻撃指示になったのだろう、ウリエルと呼ばれた合計四機の重装甲機体は、その足を地上連合軍に向けて動かし始めた。
意外に速い! このままでは地上連合軍が踏み潰される! 自分は急いでスーツを動かし、ウリエル達に対してブレードで攻撃を仕掛けた。しかし――
「刃が、通らないぞ!」
『なんて硬さだ! 見た目以上に物理的な攻撃への耐性が高いのか! いけない、すぐに回避行動を取れ! 奴らの胸部に何か仕込まれている様子だ──』
研究者の言葉が終わる前に、自分は動いていた。そうじゃないと、回避が間に合わなかっただろう。それでも回避はぎりぎりで──いや、ぎりぎりじゃない。多少ではあるが装甲を持っていかれた。仕込まれていた物はバルカンか! 直撃じゃなかったのに、抉り取るように削られてしまっている。直撃を受けたら、あっという間にハチの巣だぞ!?
『更に回避するんだ! 次が来たぞ!』
再びの研究者の要請に応じて何とか避けた自分が見たものは……ワイヤーらしきものが繋がった四本の腕部だった。そう、よくロマン武器の一つに挙げられるロケットパンチである。こんな状況じゃなきゃすごいすごいと喜んでいただろうが、今はそんな余裕はない。
次々と迫る腕は、パンチを繰り出すだけではなく、掴みかかってもくる。捕まってしまったら、引き寄せられ握り潰されるかもしれない。
「こいつらっ、予想以上に攻撃が速い!」
『なんということだ! こちらの予想が外れ続きだ! すまないがしばらく回避に専念してくれ! むやみに攻撃を仕掛けても、撥ね返されるだけだ!』
厳しい、が、ここで少しでも粘らないと。地上連合軍のスタミナが回復するまで、自分が時間を稼ぐ必要がある。
幸い、今は有翼人のトップは見ているだけのようで、妨害を入れてくる様子はない。
どんなトンデモ存在であっても、腕を失ったわけだからそれなりの痛手なはず。おそらくだが、腕の治療時間を稼ぐために、こいつらを出してきたんだろう。
もちろん単純に、傷をつけられるはずがないと思ってやってきたのに、その予定を狂わされたから頭に来たというのもあるんだろうが。
他にも、こちらに回復の時間を与えないためとか、複数の理由が予想できる。
ま、そこら辺の正解不正解はどうでもいいか。今はこいつらの相手に専念しよう。
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