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14巻
14-3
「お前ら、こんな格好であそこに行くつもりか! このにーちゃんがここに連れてきたわけがよく分かったぞ! あの洞窟は準備を整えていかないと、どんな屈強な戦士でもあっという間に死ぬぞ! 主に寒さで!」
そして、今自分と『ブルーカラー』のメンバーは、道具屋のおっちゃんの店にいた。
ハッキリ言おう、あのまま「痛風の洞窟」に連れていったら、『ブルーカラー』のメンバーはモンスターと戦う前に全滅していただろう。死因はもちろん凍死。そうならないようにするために、この道具屋に皆を引っ張ってきたのだ。
「とにかく、動きにくいからイヤだという意見は却下だ! こっちのにーちゃんのように、全身を包む外套などを鎧の上から纏え! そうしないとあっという間に寒さでやられて死ぬだけだ!」
『ブルーカラー』のメンバーは、道具屋のおっちゃんにどやされながら準備を整えるのにてんてこまい。それとやっぱり外套やローブといった鎧の上から纏えるものが必需品だったようだ。自分の場合は、最初から纏っていたから何も言われなかっただけか。
「アース、ほんとにこんな準備が必要なのか~?」
ツヴァイが情けない声を上げるが、自分は静かに頷いた。
「ここの道具屋のおっちゃんの言うことには全面的に従ってくれ。これから向かう『痛風の洞窟』は本当に事前の準備が肝心だ。ここで準備を怠って無理やり行ったら、二〇分もかからずに全員が凍死するぞ。特に筒形の温度上昇の道具、そして外套は絶対に買っておいたほうがいい。洞窟の中は本当に厳しいから、そのためだけに買う価値は十分にある」
実体験から、そうツヴァイに告げる。あの洞窟の寒さという厄介な敵は、準備を怠れば容赦なく命を刈り取りに来る。ツヴァイ達も一度中に入れば、身を以て納得するだろう。そしてここのおっちゃんの忠告が本心からのものであると理解できるはずだ。
そうして色々なアイテムがツヴァイ達のアイテムボックスに収まって、ようやく出発できるようになった。時間はかかったが、しっかり準備をしていかないと話にならないからな。当然自分もアイテムを補充して、十二分に準備を整えた。
「よし、じゃあ向かうことにしよう。洞窟に入れば、ここで費やした時間は無駄じゃなかったと痛感できるから」
若干疲れた表情を浮かべている『ブルーカラー』のメンバーを見ながら、自分はそう声をかけた。
「にーちゃんよ、あんたは最近よく行ってるから、ある程度はあの洞窟に慣れてるだろ? こいつらのサポートをしてやれよ」
おっちゃんの言葉に頷いて応え、道具屋を後にする。
その後、街の外に出てしばらく歩き、ようやく目的地である「痛風の洞窟」前に到着した。
「アースさん、やはりこの外套というものは動きにくくなるのですが……どうしても脱ぐわけにはいきませんか?」
特に外套姿に不慣れな様子であるカザミネから、そんな不満が出てきた。だが、自分は首を横に振る。
「ダメ。どうしてもというのであれば、洞窟の中に入った後で脱いでみるといい。絶対に脱いではいけないという言葉の意味が分かると思うから」
カザミネにそう返事した後、ゆっくりと痛風の洞窟の中に入る。数歩足を踏み入れただけで、ヒヤリとした冷気がお出迎えをしてくれる……気を引き締めなければ。
「うわっ、一気に寒くなってきたわ。外套を着ていてもこの寒さなのね……私は絶対に外套を脱ぎたくないわ」
ノーラの言葉に、ミリーも無言でコクコクと頷いている。体が冷えがちな女性にとっては、ここの寒さは特にこたえるだろうな。
「先ほどの自分の言葉を取り消します。アースさん、生意気を言ってすみませんでした……それからあのお店に連れていってくれてありがとうございます。元のままの恰好でここに入ったら、あのお店の人が言っていた通り、凍死するまでにそう時間はかからなかったでしょうね……」
自分も少しは慣れてきたとはいえ、ここの寒さはキツいからな、カザミネの前言撤回を笑うつもりはない。
「分かってもらえればいいよ。そして、この先はもっとキツい。覚悟を決めてもらうからね」
自分の言葉に、女性陣のミリー、ノーラ、エリザがげんなりした表情を浮かべるが……あの冷風を越えるのが正規ルートなのだ。残念だが我慢してもらうしかない、な。
【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv40 〈剛蹴(エルフ流・一人前)〉Lv38 〈百里眼〉Lv32
〈技量の指〉Lv45(←3UP) 〈小盾〉Lv31(←2UP) 〈隠蔽・改〉Lv3
〈武術身体能力強化〉Lv79(←4UP) 〈ダーク・チェイン〉Lv31(←17UP)
〈義賊頭〉Lv28(←1UP) 〈妖精招来〉Lv13(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv7(←1UP)
控えスキル
〈木工の経験者〉Lv8 〈上級薬剤〉Lv26 〈釣り〉(LOST!) 〈料理の経験者〉Lv17
〈鍛冶の経験者〉Lv28 〈人魚泳法〉Lv9
ExP46
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相
託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人
妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
4
「それにしてもモンスターが出てこないな。アース、モンスターが壁とかに擬態しているってことはないのか?」
洞窟の中に入ってからしばらくしてもモンスターが出てこないことを疑問に思ったツヴァイから、そんな言葉が飛び出す。ああ、普通はこれだけ歩いていれば、モンスターとそれなりに出遭うものだから、そんな疑問が出るのは当然だな。
「ああ、今はまだ出てこない。この洞窟は、まず乗り越えなきゃならない難所があって、モンスターはその先にいるんだよ」
こう教えておく。そう、ここは、あの冷風の中を突破しないとモンスターと戦う資格すら与えられない場所なのだ。
念のため、自分は以前何度か周囲を調査し、あの冷風の中を無理やり通過しなくてもモンスターと戦うことができるルートが隠されている可能性を探っていた。
しかし、そういったショートカットや隠し通路といったものは、自分が行動できる範囲の中には一切なく、やはりあの横殴りの冷風を突っ切るのが唯一の道であると判明している。あの冷風を何とかスルーできれば、かなり楽なんだがな。
「難所……ですか~? アースさんがそう言うと、かなり不安なんですけど……」
ミリーが嫌そうな表情を隠さずに言う。まあ、その予想は残念なことに大当たりなんですけどね。
「見えてきた、アレだ。あの中を突っ切らないといけない」
案内役として先頭に立っている自分がそう言って前方を指さすと、『ブルーカラー』のメンバー全員の表情が一気に凍った。
当然だな。ただこうやって歩いているだけでも寒いのに、それ以上の冷気をまき散らす横風が吹いているのを見れば、そう感じるのが普通だ。
「何だよあれ!? 見た目からして寒いってレベルじゃ済みそうにないだろ!!」「ちょ、ちょっと本気ですか!? あの横風の中に突っ込むんですか!?」「じょ、冗談でしょ!? 冗談って言ってよ! アース君!」
などなど、半分悲鳴のような声がいくつも上がる。無理もない。ある程度慣れてきた自分でも、この冷風の中に突っ込むときは気合を入れないとキツい。
「残念ながら冗談でも嘘でもない。あの冷風の中を突っ切って先に進まないと、この洞窟は奥に行けないしモンスターとも戦えない。そして、あの冷風から少しでも身を護るために外套が必須なんだよ。だから道具屋のおっちゃんは皆に外套を買わせたんだ」
自分がこう言うと、『ブルーカラー』のメンバー全員がげんなりとした表情を浮かべる。特に女性陣はひどい顔をしていて、綺麗な顔が台なしである。
「無理強いはできないし、引き返すのなら今のうちだね。もし引き返すなら、今回買った道具は、買ったときと同じ値段で自分が引き取るよ。自分はまだまだこの洞窟で修練を続けるつもりだから」
ここで、ちょっと待ってくれ、とツヴァイが自分に声をかけた。そうしてギルドメンバーで相談を始める。
「あれこれ言ってもしょうがないから、一つだけだ。進むか戻るか、どっちにするんだ?」
このツヴァイの言葉に、色々と意見が出る。この環境は完全に予想外だったようで、進む意見と戻る意見が交互に出ているようである。うーむ、これは時間がかかるか?
そう思っていたのだが、ツヴァイ達の話し合いは二分もかからずに終わった。結論は──
「アース、すまん! 一度この冷風の中を突っ切る姿を見せてくれ!」
ツヴァイが両手を合わせつつ頭を下げて、こう切り出してきた。ふむ、百聞は一見に如かずとはよく言うことだし……確かに自分が実演したほうが早いな。
「了解、じゃあ今から自分がこの冷風の中を突っ切る。この冷風が吹いている距離は、直線にして大体三〇から四〇メートルといったところ。だが、普段なら何でもないその距離が非常に長く感じるということは理解してもらえると思う」
自分の言葉に、コクコクと一斉に頷く『ブルーカラー』のメンバー達。
「で、この冷風に突っ込むときは、必ずこうやって、温度を上げる道具であるこの筒を手に持つこと。これはもちろん、向こう側に到着した直後に握り潰して、体をすぐに温めることができるようにするためだ」
ここまで皆がちゃんと話を聞いていることを確認してから、話を続ける。
「冷風の中では息を止めて走り抜けることが肝心で、絶対に途中で立ち止まってはいけない。立ち止まったらその時点でアウト、凍死するだけだ。冷風の中では、この筒も効果を発揮できない。ということで、伝えるべきことはこれで全部。これから実際に、自分が駆け抜けるところをやって見せるよ」
【フェンリルの頬当て】の付け具合をもう一度確認して、息をゆっくりと吸った後で呼吸を止め、自分は前方に全力で駆け出す。この際、《ウィンドブースター》で速度を上げればあっという間に駆け抜けることが可能なのだが、今回はそれではお手本にならないので使用しない。
横から槍を突き付けられるような痛みを堪えて走り抜け、冷風の中を突破したことを確認した直後、筒を握り潰す。すると凍り付いた体をほぐす温もりが溢れ出し、じんわりと癒してくれる。
【これで、難所ではあってもちゃんと通過できることは証明できたと思うが、どうだろう?】
自分と『ブルーカラー』のメンバーの間に吹く風の音のせいで、普通に声をかけても聞きとれない可能性が高いので、PTチャットでメッセージを届ける。
【お、おう。ちゃんと見てたぜ。しかし、こんなことを一週間近くやってきたって……相変わらずこっちの予想の斜め上を行くことをやってくれるな……】
などと、ツヴァイから少々ひどいご感想をいただいた。
【そこは後で詳しく聞こうじゃないか。それはともかくとして、どうする? 通過できることは見せたが、キツいことに変わりはない。引き返してもいいとは思うが……】
自分の言葉に、いや、俺達も行く、とツヴァイは断言する。
【こうやって目の前で実演までしてもらっておいてすごすご引き下がるようじゃ、新しいものを見ることなんてできないからな! 冒険なんだし、こういうキツい地形にも慣れていかねえと、今後何もできなくなっちまう可能性が高いってことで、こっちでも結論が出たぜ。今からそっちに行くから、アースはサポートを頼む! 駆け抜けられたはいいが、筒を握り潰すってところまでいけないメンバーが出る可能性もあるからな……】
確かにツヴァイの言う通りだ。無事に突っ切れたところで気が抜けてしまうかもしれないからな。自分は、冷風が届かないギリギリの所で、手に筒を持って待機することにした。
そして実際に、筒を握り潰すところまでいけなかった人が出てしまった。レイジとエリザの二人である。その気配を察知した自分とツヴァイが代わりに筒を握り潰して暖を取らせることで、二人の凍死は無事回避された。
「体全体が冷え込んでしまって、手が動かなかった……」
「駆け抜けるだけで精一杯でしたわ……」
レイジとエリザは頭を下げながらそう呟いていた。
だが残念なことに、モンスターのいる場所に行くためには、あと一回、冷風を突破しないといけないんだよねえ。これを告げたとき、『ブルーカラー』メンバーは、うわぁ、としか表現しようがない表情を浮かべたのだった。
「そこを抜ければやっとモンスターがいる場所だから、頑張ってくれ」
自分がそう言うと、仕方がないとばかりに皆が前進を再開する。
そうしてやってきた二つ目の冷風の場所では、自分が《ウィンドブースター》を使った状態でレイジとエリザの手を掴んで引っ張るという方法をとった。
これにより冷風の中にいる時間がある程度短縮された両者は、自力で筒を握り潰して暖を取ることに成功。二人の近くにいた自分もその余波で十分暖まれたので、一回分アイテムを使わずに済んだ。
「アース、すまん」
「ありがとうございます、助かりますわ」
二人からのお礼の言葉を受け取りつつ、帰るときもこの方法で突っ切ると伝えておく。
そうして何とか今回も冷風をやり過ごした自分達は、ようやく氷の結晶の団体が棲息(?)している場所にまでやってくることができたのである。本当にこの洞窟は、モンスターと戦えるようになるまでがキツい……
「さて、ようやくモンスターのお出ましとなるが……見えるか?」
自分が指さした方向には、膜の中に氷の結晶体が多数浮いている団体がたくさんいる。こうやって見ている分には奇麗なんだがな~。
「キラキラしてるな。ずいぶんと奇麗なモンスターだが……」
レイジもそんな感想を持ったらしい。カザミネはスクリーンショットを撮ってるな。
「アース、あのモンスターと戦うときに注意すべきことはあるか?」
ツヴァイが話を振ってきたので、今まで戦ってきて分かった情報――耐久力自体は低い、ただし再生能力がある、魔法攻撃は今まで一回も試していないのでどうなるか分からない、放ってくる水の弾に当たると一気に凍り付いてしまうので避けるか武器や盾で受けて体に直撃をもらわないようにすべき――を提供する。そして緊急時には、筒を握り潰せば無理やり融かすことができることも伝えた。
「魔法攻撃に対する挙動は不明、か。ちょっと厄介ね。そして私の水魔法は通じないとなると……相性が悪いわねぇ」
情報を聞いたノーラは、うーんと悩んでいる様子だ。
「あの膜が、あくまで結晶達が散らばらないようにしているだけの壁なのか、あるいは魔法に対する何らかの能力を持っているのか、全く分からない。魔法を主軸にしているミリーとエリザは特に注意してほしい。耐性があるか、最悪反射されるかもしれないから、いきなり高位魔法を使わないほうがいいと思う」
ゲームのWikiにも一切情報がなかったから、手持ちの情報だけで対処するしかない。
「覚えておきますわ。確かに魔法を反射してくるモンスターがいてもおかしくありませんものね、この世界は」
すっかり「ワンモア」の悪意に慣れた様子のエリザが、頷きながら返答する。まあ今までこの世界を旅してきたならば、それなりの経験は積んできているよな。
「とりあえず、ひと当てするしかありませんね。あの冷たい風を二回も必死で越えてきたんです。それなりの結果を出せないと面白くありません」
カザミネの言葉に頷く一同。こうしてようやくモンスターとの戦闘が始められることになった。
「とりあえず魔法が効くかどうかをまず確かめたいですから、私とエリザちゃんが先手を取りますね~」
ミリーからそう申し出があったので、最初の一手はお任せすることにした。
ミリーが火の初級魔法を、エリザが光の初級魔法を放つことを選択したようだ。攻撃が当たって相手がこっちにやってきたら、すぐさまレイジが挑発系アーツを使ってひきつけることになっている。
詠唱が終わり、魔法を放つ二人。その結果は……火の魔法は反射され、光の魔法はある程度通ったらしい。氷の結晶が二つほど貫かれて消えたのが確認できた。
「ミリーさん、危ないです!」
跳ね返されてきた火の魔法を、ミリーの前に立ったカザミネが大太刀のひと振りで切り裂いて消し去る。カザミネが普段使っている魔剣の属性は氷であり、この洞窟との相性が最悪なので今は以前使っていた大太刀で参加している。
さて、数を減らされたモンスターは狙いをエリザに定めたらしく、彼女にいるほうに突っ込んでくる。
「お前の相手は俺だぞ! こっちに来い!」
そこに割って入ったレイジが予定通り挑発系アーツを用いて、敵を自分に引き寄せる。この間にミリーとエリザは少し後ろに下がって間合いを取った。
そうして敵の狙いが完全にレイジに向いたことを確認してから、自分とツヴァイが攻撃に参加する。
「魔法は撥ね返すらしいが、魔剣ならそうはいかないだろ!」
燃える魔剣を振るって、ツヴァイが氷の結晶達に斬りかかる。炎の魔剣は膜の妨害をものともせずに通過し、ひと振りで複数の氷の結晶を切り裂く。確かに撥ね返せるのは火の魔法だけで、魔剣を拒絶する力まではさすがにないようだ。
「くっ、ツヴァイ、調子に乗り過ぎるな! この近距離ではこいつらが撃ってくる水魔法の連射攻撃を回避しきれん! お前が狙われたらあっという間に氷像にされてしまうぞ!」
その一方で、攻撃を引き受けているレイジの盾はあちこちが凍り付いていた。時々盾を軽く揺すって張り付いた氷を落としているが、防御に専念する形になっており、得物の片手斧を振るえていない。
確かにこのままでは、挑発系アーツを使っているとしても、いつまでも自分だけに注意をひきつけておくことは難しいだろう。防御に専念せざるを得ないレイジに対する敵意よりも、攻撃を続けているツヴァイのほうがヘイトが高くなりやすい。ヘイトの順位が変われば、今度はレイジではなくツヴァイが狙われることになる。
「そうならないために早めにカタをつけたいんだが……やっぱり数が減ると当てにくいことこの上ない!」
自分も【惑】を振るって攻撃を行っているが、膜の中の結晶の残存数が五体を切った途端に当てられなくなる。ツヴァイの大剣も細かく動く相手には上手く当たらない。相手が回避に専念し出したのでレイジも反撃に転じるが、こちらの片手斧も空を切る。ノーラも短剣を次々と突き立てているが、クリーンヒットさせることができずにいる。
そんな中で大活躍しているのがカザミネだ。
「そこです!」
大太刀を構えてからの突き攻撃で、激しく動き回る結晶体をもう三体も仕留めている。残り二体となった結晶体はより激しく動き回り、他の結晶が復活するまで粘るつもりのようだ。
「そこです! ああもう、あとちょっとなのに当たりませんわ!」
「光魔法の速さでもなかなか当たりませんね~、こちらの狙っている場所を読まれているんでしょうか~?」
魔法使いの二人は、反射されないことが判明した光魔法で攻撃に参加している。ホーミング性のある魔法でも振り切られてしまって全然当てられないので、直進する細いレーザーみたいな光魔法で結晶体を狙い撃っているのだが……これも当たらない。
「見えました、そこ!」
またしてもカザミネが結晶体を捉える。残り、一。
必死で回避行動を取る最後の氷の結晶。ここから立ち直られてはたまらないと大いに攻撃を振るう自分達だが、ことごとく空を切る。その最後の結晶に止めを刺したのは……
「ここかしら~? あ、当たりましたね~」
ミリーだった。のほほんとした言葉遣いとは裏腹に、しっかりと狙いを定めていたようだ。これで初めて、道具に頼らないで撃破できたことになる。それにしても数人がかりで取り囲んでやっとか……数を削るごとに的が小さくなるから、最後のほうは本当にキツい。
「序盤はいいが、後半は本当に面倒くさい相手だな……」
盾を下ろし、片手斧を腰に戻したレイジがぼそりと呟く。
「ですが、経験は美味しいようですよ。大太刀のスキルが一つ上がっていますし」
カザミネがそう言うと、ツヴァイも「おお、俺も大剣のスキルが上がってるな!」と喜びの声を出し、エリザも「私も光魔法が上がっていますわ」と報告する。面倒なだけあってかなりの経験になるモンスターだからな。自分は今回何も上がっていないが、それはまあ仕方がない。破壊した結晶の数は三つぐらいだったし。
「それにしても、カザミネの大太刀の突き攻撃の正確性はすごいな。自分だけで挑んだときは、結晶の残りが五体以下になるとほとんど攻撃を当てられなくなったのに、カザミネは次々と貫いていったよな」
今回一番驚いたというか賞賛したかったのは、そこだ。
「刀……まあこのゲームではより大きな大太刀ですが、力任せでは切れないんですよ。技を磨かないといけないのは現実と同じなんです。その技を磨く方法の一つとして、大太刀使い限定で入れる隠しっぽい修練場が、とある場所にあるんです。今回はそこでの精神を集中して突きを繰り出すという訓練の経験が生きましたね」
なるほど、そんな場所があるのか。自分は大太刀使いではないから知らないだけってことか。おそらく、自分が以前入った砂龍さまの修練場みたいな感じなんだろう。
「それにしても、火魔法が撥ね返されちゃうのは困りましたね~」
これは魔法使いのミリーの言葉。確かにあれにはびっくりした。カザミネが反射されてきた魔法を切ってくれてよかったよ。そして、ミリーもエリザも光魔法が使えたから、その後も攻撃に参加できたのは助かった。
「一番活躍できなかったのはあたしよね……あれだけ乱れ突きしたのに当たらないなんて……あの膜は短剣の刃部分しか通さないみたい」
ということで、ノーラにとってもかなりキツい相手らしい。そしてそうなると、この場にはいないが格闘家であるロナにとっては最悪の相手だろう。打撃ではあの膜を貫けない可能性が非常に高い。
「とはいえ、もうしばらくやっていこうぜ? せっかくここまで来たんだしよ」
ツヴァイの言うことももっともだ。さて、狩りを再開しようか。
そして、今自分と『ブルーカラー』のメンバーは、道具屋のおっちゃんの店にいた。
ハッキリ言おう、あのまま「痛風の洞窟」に連れていったら、『ブルーカラー』のメンバーはモンスターと戦う前に全滅していただろう。死因はもちろん凍死。そうならないようにするために、この道具屋に皆を引っ張ってきたのだ。
「とにかく、動きにくいからイヤだという意見は却下だ! こっちのにーちゃんのように、全身を包む外套などを鎧の上から纏え! そうしないとあっという間に寒さでやられて死ぬだけだ!」
『ブルーカラー』のメンバーは、道具屋のおっちゃんにどやされながら準備を整えるのにてんてこまい。それとやっぱり外套やローブといった鎧の上から纏えるものが必需品だったようだ。自分の場合は、最初から纏っていたから何も言われなかっただけか。
「アース、ほんとにこんな準備が必要なのか~?」
ツヴァイが情けない声を上げるが、自分は静かに頷いた。
「ここの道具屋のおっちゃんの言うことには全面的に従ってくれ。これから向かう『痛風の洞窟』は本当に事前の準備が肝心だ。ここで準備を怠って無理やり行ったら、二〇分もかからずに全員が凍死するぞ。特に筒形の温度上昇の道具、そして外套は絶対に買っておいたほうがいい。洞窟の中は本当に厳しいから、そのためだけに買う価値は十分にある」
実体験から、そうツヴァイに告げる。あの洞窟の寒さという厄介な敵は、準備を怠れば容赦なく命を刈り取りに来る。ツヴァイ達も一度中に入れば、身を以て納得するだろう。そしてここのおっちゃんの忠告が本心からのものであると理解できるはずだ。
そうして色々なアイテムがツヴァイ達のアイテムボックスに収まって、ようやく出発できるようになった。時間はかかったが、しっかり準備をしていかないと話にならないからな。当然自分もアイテムを補充して、十二分に準備を整えた。
「よし、じゃあ向かうことにしよう。洞窟に入れば、ここで費やした時間は無駄じゃなかったと痛感できるから」
若干疲れた表情を浮かべている『ブルーカラー』のメンバーを見ながら、自分はそう声をかけた。
「にーちゃんよ、あんたは最近よく行ってるから、ある程度はあの洞窟に慣れてるだろ? こいつらのサポートをしてやれよ」
おっちゃんの言葉に頷いて応え、道具屋を後にする。
その後、街の外に出てしばらく歩き、ようやく目的地である「痛風の洞窟」前に到着した。
「アースさん、やはりこの外套というものは動きにくくなるのですが……どうしても脱ぐわけにはいきませんか?」
特に外套姿に不慣れな様子であるカザミネから、そんな不満が出てきた。だが、自分は首を横に振る。
「ダメ。どうしてもというのであれば、洞窟の中に入った後で脱いでみるといい。絶対に脱いではいけないという言葉の意味が分かると思うから」
カザミネにそう返事した後、ゆっくりと痛風の洞窟の中に入る。数歩足を踏み入れただけで、ヒヤリとした冷気がお出迎えをしてくれる……気を引き締めなければ。
「うわっ、一気に寒くなってきたわ。外套を着ていてもこの寒さなのね……私は絶対に外套を脱ぎたくないわ」
ノーラの言葉に、ミリーも無言でコクコクと頷いている。体が冷えがちな女性にとっては、ここの寒さは特にこたえるだろうな。
「先ほどの自分の言葉を取り消します。アースさん、生意気を言ってすみませんでした……それからあのお店に連れていってくれてありがとうございます。元のままの恰好でここに入ったら、あのお店の人が言っていた通り、凍死するまでにそう時間はかからなかったでしょうね……」
自分も少しは慣れてきたとはいえ、ここの寒さはキツいからな、カザミネの前言撤回を笑うつもりはない。
「分かってもらえればいいよ。そして、この先はもっとキツい。覚悟を決めてもらうからね」
自分の言葉に、女性陣のミリー、ノーラ、エリザがげんなりした表情を浮かべるが……あの冷風を越えるのが正規ルートなのだ。残念だが我慢してもらうしかない、な。
【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv40 〈剛蹴(エルフ流・一人前)〉Lv38 〈百里眼〉Lv32
〈技量の指〉Lv45(←3UP) 〈小盾〉Lv31(←2UP) 〈隠蔽・改〉Lv3
〈武術身体能力強化〉Lv79(←4UP) 〈ダーク・チェイン〉Lv31(←17UP)
〈義賊頭〉Lv28(←1UP) 〈妖精招来〉Lv13(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv7(←1UP)
控えスキル
〈木工の経験者〉Lv8 〈上級薬剤〉Lv26 〈釣り〉(LOST!) 〈料理の経験者〉Lv17
〈鍛冶の経験者〉Lv28 〈人魚泳法〉Lv9
ExP46
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相
託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人
妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
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「それにしてもモンスターが出てこないな。アース、モンスターが壁とかに擬態しているってことはないのか?」
洞窟の中に入ってからしばらくしてもモンスターが出てこないことを疑問に思ったツヴァイから、そんな言葉が飛び出す。ああ、普通はこれだけ歩いていれば、モンスターとそれなりに出遭うものだから、そんな疑問が出るのは当然だな。
「ああ、今はまだ出てこない。この洞窟は、まず乗り越えなきゃならない難所があって、モンスターはその先にいるんだよ」
こう教えておく。そう、ここは、あの冷風の中を突破しないとモンスターと戦う資格すら与えられない場所なのだ。
念のため、自分は以前何度か周囲を調査し、あの冷風の中を無理やり通過しなくてもモンスターと戦うことができるルートが隠されている可能性を探っていた。
しかし、そういったショートカットや隠し通路といったものは、自分が行動できる範囲の中には一切なく、やはりあの横殴りの冷風を突っ切るのが唯一の道であると判明している。あの冷風を何とかスルーできれば、かなり楽なんだがな。
「難所……ですか~? アースさんがそう言うと、かなり不安なんですけど……」
ミリーが嫌そうな表情を隠さずに言う。まあ、その予想は残念なことに大当たりなんですけどね。
「見えてきた、アレだ。あの中を突っ切らないといけない」
案内役として先頭に立っている自分がそう言って前方を指さすと、『ブルーカラー』のメンバー全員の表情が一気に凍った。
当然だな。ただこうやって歩いているだけでも寒いのに、それ以上の冷気をまき散らす横風が吹いているのを見れば、そう感じるのが普通だ。
「何だよあれ!? 見た目からして寒いってレベルじゃ済みそうにないだろ!!」「ちょ、ちょっと本気ですか!? あの横風の中に突っ込むんですか!?」「じょ、冗談でしょ!? 冗談って言ってよ! アース君!」
などなど、半分悲鳴のような声がいくつも上がる。無理もない。ある程度慣れてきた自分でも、この冷風の中に突っ込むときは気合を入れないとキツい。
「残念ながら冗談でも嘘でもない。あの冷風の中を突っ切って先に進まないと、この洞窟は奥に行けないしモンスターとも戦えない。そして、あの冷風から少しでも身を護るために外套が必須なんだよ。だから道具屋のおっちゃんは皆に外套を買わせたんだ」
自分がこう言うと、『ブルーカラー』のメンバー全員がげんなりとした表情を浮かべる。特に女性陣はひどい顔をしていて、綺麗な顔が台なしである。
「無理強いはできないし、引き返すのなら今のうちだね。もし引き返すなら、今回買った道具は、買ったときと同じ値段で自分が引き取るよ。自分はまだまだこの洞窟で修練を続けるつもりだから」
ここで、ちょっと待ってくれ、とツヴァイが自分に声をかけた。そうしてギルドメンバーで相談を始める。
「あれこれ言ってもしょうがないから、一つだけだ。進むか戻るか、どっちにするんだ?」
このツヴァイの言葉に、色々と意見が出る。この環境は完全に予想外だったようで、進む意見と戻る意見が交互に出ているようである。うーむ、これは時間がかかるか?
そう思っていたのだが、ツヴァイ達の話し合いは二分もかからずに終わった。結論は──
「アース、すまん! 一度この冷風の中を突っ切る姿を見せてくれ!」
ツヴァイが両手を合わせつつ頭を下げて、こう切り出してきた。ふむ、百聞は一見に如かずとはよく言うことだし……確かに自分が実演したほうが早いな。
「了解、じゃあ今から自分がこの冷風の中を突っ切る。この冷風が吹いている距離は、直線にして大体三〇から四〇メートルといったところ。だが、普段なら何でもないその距離が非常に長く感じるということは理解してもらえると思う」
自分の言葉に、コクコクと一斉に頷く『ブルーカラー』のメンバー達。
「で、この冷風に突っ込むときは、必ずこうやって、温度を上げる道具であるこの筒を手に持つこと。これはもちろん、向こう側に到着した直後に握り潰して、体をすぐに温めることができるようにするためだ」
ここまで皆がちゃんと話を聞いていることを確認してから、話を続ける。
「冷風の中では息を止めて走り抜けることが肝心で、絶対に途中で立ち止まってはいけない。立ち止まったらその時点でアウト、凍死するだけだ。冷風の中では、この筒も効果を発揮できない。ということで、伝えるべきことはこれで全部。これから実際に、自分が駆け抜けるところをやって見せるよ」
【フェンリルの頬当て】の付け具合をもう一度確認して、息をゆっくりと吸った後で呼吸を止め、自分は前方に全力で駆け出す。この際、《ウィンドブースター》で速度を上げればあっという間に駆け抜けることが可能なのだが、今回はそれではお手本にならないので使用しない。
横から槍を突き付けられるような痛みを堪えて走り抜け、冷風の中を突破したことを確認した直後、筒を握り潰す。すると凍り付いた体をほぐす温もりが溢れ出し、じんわりと癒してくれる。
【これで、難所ではあってもちゃんと通過できることは証明できたと思うが、どうだろう?】
自分と『ブルーカラー』のメンバーの間に吹く風の音のせいで、普通に声をかけても聞きとれない可能性が高いので、PTチャットでメッセージを届ける。
【お、おう。ちゃんと見てたぜ。しかし、こんなことを一週間近くやってきたって……相変わらずこっちの予想の斜め上を行くことをやってくれるな……】
などと、ツヴァイから少々ひどいご感想をいただいた。
【そこは後で詳しく聞こうじゃないか。それはともかくとして、どうする? 通過できることは見せたが、キツいことに変わりはない。引き返してもいいとは思うが……】
自分の言葉に、いや、俺達も行く、とツヴァイは断言する。
【こうやって目の前で実演までしてもらっておいてすごすご引き下がるようじゃ、新しいものを見ることなんてできないからな! 冒険なんだし、こういうキツい地形にも慣れていかねえと、今後何もできなくなっちまう可能性が高いってことで、こっちでも結論が出たぜ。今からそっちに行くから、アースはサポートを頼む! 駆け抜けられたはいいが、筒を握り潰すってところまでいけないメンバーが出る可能性もあるからな……】
確かにツヴァイの言う通りだ。無事に突っ切れたところで気が抜けてしまうかもしれないからな。自分は、冷風が届かないギリギリの所で、手に筒を持って待機することにした。
そして実際に、筒を握り潰すところまでいけなかった人が出てしまった。レイジとエリザの二人である。その気配を察知した自分とツヴァイが代わりに筒を握り潰して暖を取らせることで、二人の凍死は無事回避された。
「体全体が冷え込んでしまって、手が動かなかった……」
「駆け抜けるだけで精一杯でしたわ……」
レイジとエリザは頭を下げながらそう呟いていた。
だが残念なことに、モンスターのいる場所に行くためには、あと一回、冷風を突破しないといけないんだよねえ。これを告げたとき、『ブルーカラー』メンバーは、うわぁ、としか表現しようがない表情を浮かべたのだった。
「そこを抜ければやっとモンスターがいる場所だから、頑張ってくれ」
自分がそう言うと、仕方がないとばかりに皆が前進を再開する。
そうしてやってきた二つ目の冷風の場所では、自分が《ウィンドブースター》を使った状態でレイジとエリザの手を掴んで引っ張るという方法をとった。
これにより冷風の中にいる時間がある程度短縮された両者は、自力で筒を握り潰して暖を取ることに成功。二人の近くにいた自分もその余波で十分暖まれたので、一回分アイテムを使わずに済んだ。
「アース、すまん」
「ありがとうございます、助かりますわ」
二人からのお礼の言葉を受け取りつつ、帰るときもこの方法で突っ切ると伝えておく。
そうして何とか今回も冷風をやり過ごした自分達は、ようやく氷の結晶の団体が棲息(?)している場所にまでやってくることができたのである。本当にこの洞窟は、モンスターと戦えるようになるまでがキツい……
「さて、ようやくモンスターのお出ましとなるが……見えるか?」
自分が指さした方向には、膜の中に氷の結晶体が多数浮いている団体がたくさんいる。こうやって見ている分には奇麗なんだがな~。
「キラキラしてるな。ずいぶんと奇麗なモンスターだが……」
レイジもそんな感想を持ったらしい。カザミネはスクリーンショットを撮ってるな。
「アース、あのモンスターと戦うときに注意すべきことはあるか?」
ツヴァイが話を振ってきたので、今まで戦ってきて分かった情報――耐久力自体は低い、ただし再生能力がある、魔法攻撃は今まで一回も試していないのでどうなるか分からない、放ってくる水の弾に当たると一気に凍り付いてしまうので避けるか武器や盾で受けて体に直撃をもらわないようにすべき――を提供する。そして緊急時には、筒を握り潰せば無理やり融かすことができることも伝えた。
「魔法攻撃に対する挙動は不明、か。ちょっと厄介ね。そして私の水魔法は通じないとなると……相性が悪いわねぇ」
情報を聞いたノーラは、うーんと悩んでいる様子だ。
「あの膜が、あくまで結晶達が散らばらないようにしているだけの壁なのか、あるいは魔法に対する何らかの能力を持っているのか、全く分からない。魔法を主軸にしているミリーとエリザは特に注意してほしい。耐性があるか、最悪反射されるかもしれないから、いきなり高位魔法を使わないほうがいいと思う」
ゲームのWikiにも一切情報がなかったから、手持ちの情報だけで対処するしかない。
「覚えておきますわ。確かに魔法を反射してくるモンスターがいてもおかしくありませんものね、この世界は」
すっかり「ワンモア」の悪意に慣れた様子のエリザが、頷きながら返答する。まあ今までこの世界を旅してきたならば、それなりの経験は積んできているよな。
「とりあえず、ひと当てするしかありませんね。あの冷たい風を二回も必死で越えてきたんです。それなりの結果を出せないと面白くありません」
カザミネの言葉に頷く一同。こうしてようやくモンスターとの戦闘が始められることになった。
「とりあえず魔法が効くかどうかをまず確かめたいですから、私とエリザちゃんが先手を取りますね~」
ミリーからそう申し出があったので、最初の一手はお任せすることにした。
ミリーが火の初級魔法を、エリザが光の初級魔法を放つことを選択したようだ。攻撃が当たって相手がこっちにやってきたら、すぐさまレイジが挑発系アーツを使ってひきつけることになっている。
詠唱が終わり、魔法を放つ二人。その結果は……火の魔法は反射され、光の魔法はある程度通ったらしい。氷の結晶が二つほど貫かれて消えたのが確認できた。
「ミリーさん、危ないです!」
跳ね返されてきた火の魔法を、ミリーの前に立ったカザミネが大太刀のひと振りで切り裂いて消し去る。カザミネが普段使っている魔剣の属性は氷であり、この洞窟との相性が最悪なので今は以前使っていた大太刀で参加している。
さて、数を減らされたモンスターは狙いをエリザに定めたらしく、彼女にいるほうに突っ込んでくる。
「お前の相手は俺だぞ! こっちに来い!」
そこに割って入ったレイジが予定通り挑発系アーツを用いて、敵を自分に引き寄せる。この間にミリーとエリザは少し後ろに下がって間合いを取った。
そうして敵の狙いが完全にレイジに向いたことを確認してから、自分とツヴァイが攻撃に参加する。
「魔法は撥ね返すらしいが、魔剣ならそうはいかないだろ!」
燃える魔剣を振るって、ツヴァイが氷の結晶達に斬りかかる。炎の魔剣は膜の妨害をものともせずに通過し、ひと振りで複数の氷の結晶を切り裂く。確かに撥ね返せるのは火の魔法だけで、魔剣を拒絶する力まではさすがにないようだ。
「くっ、ツヴァイ、調子に乗り過ぎるな! この近距離ではこいつらが撃ってくる水魔法の連射攻撃を回避しきれん! お前が狙われたらあっという間に氷像にされてしまうぞ!」
その一方で、攻撃を引き受けているレイジの盾はあちこちが凍り付いていた。時々盾を軽く揺すって張り付いた氷を落としているが、防御に専念する形になっており、得物の片手斧を振るえていない。
確かにこのままでは、挑発系アーツを使っているとしても、いつまでも自分だけに注意をひきつけておくことは難しいだろう。防御に専念せざるを得ないレイジに対する敵意よりも、攻撃を続けているツヴァイのほうがヘイトが高くなりやすい。ヘイトの順位が変われば、今度はレイジではなくツヴァイが狙われることになる。
「そうならないために早めにカタをつけたいんだが……やっぱり数が減ると当てにくいことこの上ない!」
自分も【惑】を振るって攻撃を行っているが、膜の中の結晶の残存数が五体を切った途端に当てられなくなる。ツヴァイの大剣も細かく動く相手には上手く当たらない。相手が回避に専念し出したのでレイジも反撃に転じるが、こちらの片手斧も空を切る。ノーラも短剣を次々と突き立てているが、クリーンヒットさせることができずにいる。
そんな中で大活躍しているのがカザミネだ。
「そこです!」
大太刀を構えてからの突き攻撃で、激しく動き回る結晶体をもう三体も仕留めている。残り二体となった結晶体はより激しく動き回り、他の結晶が復活するまで粘るつもりのようだ。
「そこです! ああもう、あとちょっとなのに当たりませんわ!」
「光魔法の速さでもなかなか当たりませんね~、こちらの狙っている場所を読まれているんでしょうか~?」
魔法使いの二人は、反射されないことが判明した光魔法で攻撃に参加している。ホーミング性のある魔法でも振り切られてしまって全然当てられないので、直進する細いレーザーみたいな光魔法で結晶体を狙い撃っているのだが……これも当たらない。
「見えました、そこ!」
またしてもカザミネが結晶体を捉える。残り、一。
必死で回避行動を取る最後の氷の結晶。ここから立ち直られてはたまらないと大いに攻撃を振るう自分達だが、ことごとく空を切る。その最後の結晶に止めを刺したのは……
「ここかしら~? あ、当たりましたね~」
ミリーだった。のほほんとした言葉遣いとは裏腹に、しっかりと狙いを定めていたようだ。これで初めて、道具に頼らないで撃破できたことになる。それにしても数人がかりで取り囲んでやっとか……数を削るごとに的が小さくなるから、最後のほうは本当にキツい。
「序盤はいいが、後半は本当に面倒くさい相手だな……」
盾を下ろし、片手斧を腰に戻したレイジがぼそりと呟く。
「ですが、経験は美味しいようですよ。大太刀のスキルが一つ上がっていますし」
カザミネがそう言うと、ツヴァイも「おお、俺も大剣のスキルが上がってるな!」と喜びの声を出し、エリザも「私も光魔法が上がっていますわ」と報告する。面倒なだけあってかなりの経験になるモンスターだからな。自分は今回何も上がっていないが、それはまあ仕方がない。破壊した結晶の数は三つぐらいだったし。
「それにしても、カザミネの大太刀の突き攻撃の正確性はすごいな。自分だけで挑んだときは、結晶の残りが五体以下になるとほとんど攻撃を当てられなくなったのに、カザミネは次々と貫いていったよな」
今回一番驚いたというか賞賛したかったのは、そこだ。
「刀……まあこのゲームではより大きな大太刀ですが、力任せでは切れないんですよ。技を磨かないといけないのは現実と同じなんです。その技を磨く方法の一つとして、大太刀使い限定で入れる隠しっぽい修練場が、とある場所にあるんです。今回はそこでの精神を集中して突きを繰り出すという訓練の経験が生きましたね」
なるほど、そんな場所があるのか。自分は大太刀使いではないから知らないだけってことか。おそらく、自分が以前入った砂龍さまの修練場みたいな感じなんだろう。
「それにしても、火魔法が撥ね返されちゃうのは困りましたね~」
これは魔法使いのミリーの言葉。確かにあれにはびっくりした。カザミネが反射されてきた魔法を切ってくれてよかったよ。そして、ミリーもエリザも光魔法が使えたから、その後も攻撃に参加できたのは助かった。
「一番活躍できなかったのはあたしよね……あれだけ乱れ突きしたのに当たらないなんて……あの膜は短剣の刃部分しか通さないみたい」
ということで、ノーラにとってもかなりキツい相手らしい。そしてそうなると、この場にはいないが格闘家であるロナにとっては最悪の相手だろう。打撃ではあの膜を貫けない可能性が非常に高い。
「とはいえ、もうしばらくやっていこうぜ? せっかくここまで来たんだしよ」
ツヴァイの言うことももっともだ。さて、狩りを再開しようか。
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