とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

文字の大きさ
630 / 765
連載

徹夜した職人二人

しおりを挟む
 翌日、今日も親方の隠し工房へと足を運ぶ。中に入るや否や、カーネリアンさんに呼び止められた。

「アースさんに渡す作品の試作が上がったわよ、早速試してちょうだい!」

 ──え、もう? 今回は元となる基礎設計が出来上がっているとはいえ、昨日の今日でもう小型化したパイルバンカーを作っちゃったの? カーネリアンさんに引っ張られる形で、工房の一室に入る。中には親方と小型化された杭を二本備えているパイルバンカーの姿があった。

「おう、アース。ひとまずシールドを付けない状態で見てもらおうと思ってな。動作テストはすでにやったが、お前さんから見てみたらまた問題点が見つかるかもしれん。早速試してくれ」

 最初に作ったパイルバンカーと比べて、サイズの縮小はもちろんだが全般的にパーツの厚みが減っている。右手に装備してみたが、かなり軽い。このぐらいの重量ならば、魔法に特化して筋力が低いプレイヤーでもない限り運用する事は十分可能だろう。

「かなり軽いですね」「ああ、ストラスと共同開発した合金がさらに進歩してな、重量をかなり減らす事に成功した……それに加えて耐久性も上がっている。だからこの薄さでも十分な耐久性を備えている事は保証するぜ」

 自分の感想に、親方がそう教えてくれた。更に今後、盾を作る時はこの合金がメインになると言う事であり、工房が作る盾の品質向上に一役買っているのだそうだ。と、そろそろ動作のテストをしてくれと言われたので安全装置を外してから的に向かって構える。射出の仕方も変わっておらず、ナックルガード兼トリガー部分で相手を殴って起動する。

 的に向かって接近し、右ストレートを放つ感覚でナックルガードを叩きつける。直後、爆発と同時に二本の杭が射出されて的に突き刺さるのが見えた。自分はバックステップし、直後の衝撃に備える。的に突き刺さった杭はきちんと爆発し、的を内部から破壊した。機構も正常に動いているな。

 さて、改めてこのパイルバンカーの姿を確認しよう。杭を二発同時に放つ形式の、単発式になっている。これは当然で、マガジンをしこむ場所もシリンダーを入れる場所の余裕も無いからだ。逆に言えばそう言った連射機能を捨てたからこそ小型化かつ軽量化に成功していると言える。

 リロード方法は後方から杭を差し込みセット、直後に火薬入りのカードリッチを所定の位置にセットする。杭を発射させたときにこのカードリッチの火薬が使われており、火薬の炸裂と同時にこのカードリッチは外れるようになっている。ハンドガンを発射した時に外に排出される薬莢のような感じだ。

「できる限りリロードは簡単に出来る様にしてみたわ。機構上連射は出来ないけど、少し後ろに下がれば戦闘中でも次の杭をセットして戦闘に復帰できるようにすることが狙いね」

 カーネリアンさんが言う通り、リロードにかかる時間はかなり短い。これも親方とカーネリアンさんが知恵を絞って作り上げたのだろう……しかし。

「素晴らしい出来栄えなのは間違いないのですが──親方とカーネリアンさん、ちゃんと睡眠をとりました?」

 とてもじゃないが、一時間二時間集中して作れば何とか、というレベルの出来栄えではない。貫徹してこのパイルバンカーの制作に没頭していたとしか思えない。自分がそう問いかけると、親方もカーネリアンさんもそっぽを向いた。図星かい!?

「いや、な。こういうギミックを考えるのって楽しいのな。しかも手本が目の前にあるとなったら、どこまで改良できるのかを試したくなるのが職人って奴でな?」

 親方……言いたい事は理解できるし気持ちの方も同意できる部分はある。しかし、だからと言って徹夜はだめだろうに。体は資本よ? 若い時は平気でも歳を重ねると過去の無茶が表に出てくるもんなのよ? 夜は出来る限り寝て欲しい所である。

「流石に今日はきちんと寝るわよ……でも昨日はアースさんが立ち去った後でもテンションが上がりまくっちゃって。一旦ログアウトはしたのよ? でも布団に入っても浮かんでくるのはパイルバンカーの事ばかり。もういっそのこと開き直って徹夜で小型版パイルバンカーを作っちゃおうって感じで」

 カーネリアンさん……まあ、今日はきちんと寝ると言っているからそれを信じよう。実際こうして試作品を作り上げた事である程度は落ち着いてくれるだろうし。で、再びログインしてきたカーネリアンさんと工房に残っていた親方が深夜テンションでやっちまうかって感じになったんだろうな。で、その勢いのままつくっちゃった、と。

(それでもこの出来栄えになるんだから、流石は親方とそのお弟子さんって所か。一度完成品を見ればどういう形で作る事で仕掛けをうまく動かせるかの理屈を理解できちゃうんだろうな)

 そうじゃなきゃ、ここまでスムーズに動く一品をポンと出してくれるはずがない。試作品だと言う事だが、細かいチェックをさせて貰った後は盾としての機能を追加すればそれで完成と言ってもいい。機構がかなり小型化しているので盾で覆い隠す事は簡単だし、新しい合金による盾なら防御力も期待できる。

「なんにせよ、ホントに今日は寝て下さいね? 自分はこの後この子の事をいくつかチェックだけさせていただきますけど……正直手直しする部分はおそらくないかと。万が一あった場合はレポートみたいに書いて提出させてもらいます」

 試射も終わったので一度杭と火薬入りカードリッチを取り外し、違和感ならびに構造上問題がある点はないかのチェックを行う。親方直々に手掛けた作品に自分がチェックを入れるなんて正直恐れ多いみたいな感情があるんだけど、最初に作った人間である以上やっておくべきであると思う。

 そうしてパーツ一つ一つチェックしたんだが……流石は親方という言葉しか出てこなかった。負荷がかかる場所はすべて手ぬかりなく対策がしてあったし、改善点、ならびに問題点なんか一つも見つからず。親方の今までの経験が、たとえギミック込みの新しい武器であったとしてもこういった見極めを可能としているのだろう。

(細かくチェックしたけど、問題点なんか見つからないな。流石は親方だ、武具の事となれば経験が少なくてもこれだけの品質に仕上げてしまうのだから)

 チェックを終えた自分は、ここでようやくこのパイルバンカーのステータスを確認する。そこにはこう出ていた。


 特殊刺突兵装二連式

 特殊な刺突を行う機構によって敵を貫く特殊兵装。直撃を受ければ、並の鎧など何の意味もなさない火力を誇る。

 ATK+2450×2 (刺突攻撃直撃時)

 制作評価 10


 威力の低下は杭の小型化故避けようがない事だ。それでも二四〇〇を越え、二発同時に放つため威力の低下はかなり抑えられている。そして何より軽いというメリットは無視できない。無論これに盾として運用できるパーツが乗る為一定の重量は増すが、それを考慮しても最初に作ったパイルバンカーと比べると軽いのだ。

 このぐらいの重量ならば、自分の動きを阻害しない。今後は右腕にスネークソードを仕込んた盾と、パイルバンカーを仕込んだ盾を状況に応じて変える事になる。最終決戦前に、魔力に頼らない大ダメージ武装を手に入れることが出来た。これは大きい。遠慮なく使わせてもらうことにしよう。

(と、それは良いとして……これはまだ未完成品なんだから、こちらのチェックした内容を基にした感想などを親方とカーネリアンさんに伝えないとダメだな。二人はどこ行ったのかな?)

 そう考えて親方を探したんだが……見つからなかったのでお弟子さんの一人に聞いてみると、親方は今日はログアウトしたとの事。なら明日で良いかと考え、自分はログアウトするまでお弟子さん達の仕事を手伝う事に決めた。パイルバンカーの件でお世話になっちゃった分はお返ししないといけない。

 そして作業も終わりに差し掛かった時──お弟子さん達の会話が切っ掛けで、もともと頼まれていたハサミギミックを仕込んだ盾の制作に取り抱えるようになるとは、この時は思ってもいなかった。
しおりを挟む
感想 4,907

あなたにおすすめの小説

さようなら、たったふたつの

あんど もあ
ファンタジー
王子に愛されてる伯爵令嬢のアリアと、その姉のミレイユ。姉妹には秘密があった……。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

ありふれた聖女のざまぁ

雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。 異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが… 「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」 「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」 ※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。