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第九十六話

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「「「「うぉおおおおおお!!!」」」」

歓声が上がった。

遠くで観察していた生徒たちが、俺がディンの一撃を止めたことで拍手喝采している。

「な…な…そんな…」

ディンは俺に渾身の一撃を粉砕されたことが信じられなかったのか、口をぱくぱくとさせている。

「まぁ…こんなものか」

思ったほどの威力のなかったディンの魔法に俺はまぁまぁだという評価を勝手に下し、守護魔法を解除してディンに声をかける。

「もう終わりでもいいですか?一応これ、試験なんですけど…」

多分これが卒業試験だということを忘れていそうなディンに俺は言った。

もう十分俺の実力はわかっただろう。

ディンでは俺を倒せない。

試験官を上回る実力を示したのだから、当然俺は合格だろう。

できれば、システィやヴィクトリアのようにこの場での確約が欲しいな。

そう思って俺はディンに声をかけたのだが…

「舐めるなよ…勝ち逃げなんて許さないぞ…」

「え…?」

「このままで終われるか!!僕が…帝国魔道士団の僕が君のような魔法学生に負けるわけにはいかないんだ…!!まだ魔力は残ってる…!!試験は…続行だ…!!」

「いやいや、やめておいた方がいいですよ。魔力欠乏症の症状が出ている」

実際、ディンの肌色からは血の気がうせ、青白くなってきている。

典型的な魔力欠乏症の症状だ。

これまで大勢の生徒たちを相手にしてきて、その上で先ほどの大魔法。

ディンの魔力はほとんど限界まで使われたはずだ。

これ以上試験を続けるとディンの体に相当は負担がかかってしまう。

気絶し、最悪命を失う危険性に晒されたくないのなら、ここら辺で切り上げるのが得策だとそう思うのだが…

「このぐらい君に心配されなくともなんともない…!!わずかな魔力でも君を倒してみせる…!!」

どうやらディンはまだ続けるつもりのようだ。

「はぁ…わかりましたよ…そういうことなら」

どうやらとことん付き合うしかないようだ。

ちょっと煽りすぎたか…

まさかここまで激昂して勝負に乗ってくるとは思わなかった。

帝国魔道士団の魔法使いってのは、どいつのこいつもこんなにプライドが高くて面倒臭いやつなのか…?

『これから入ろうとしている者』にとって、もしそうならかなりうんざりさせられる事実だ。

「あなたが満足するまで相手になりますよ。ほら、きてください」

「…っ!!ファイア・ソード!!」

ディンが手の中に炎の剣を生み出した。

「うおおおおおおお!!」

そしてふらつく足取りで、直接俺を仕留めるべく接近してくる。

「はぁ…これで終わりか。フリーズ」

意識が朦朧としていて、もはやその辺の魔法使いにすら仕留められそうなくらいに隙だらけなディンに、俺は水属性の氷結の魔法を使う。

ピキキ…

「なっ!?」

ディンが目を見開く。

「動け…ない…?」

自らの足が凍りつき、地面に固定されて動かないのをみて目を見開く。

「水…いつの間に…?」

「随分前に撒いておいたんですよ。奥の手として使うつもりでした」

ディンは今更ながら自分の周りの地面が水浸しになっていることに気がついたようだ。

この水は俺が戦いながらディンに気がつかれないように撒いたものだった。

万一追い詰められた時に、氷結魔法でディンの身動きを一瞬封じ、時間稼ぎをするためのものだった。

最もディンの実力が結局のところ、俺を脅かすようなものではなかったために、必要はなかったんだがな。

「くっ…ファイア…!!溶けろ…!!」

ディンは足元の氷を魔法で溶かそうとする。

だが、もはや氷を溶かすほどの魔法すら使うことは出来ないようだった。

「ぐぅ…畜生…」

ディンが悔しげに唇を噛む。

俺の方を見て、泣きそうになりながら言ってきた。

「ぼ、僕の負けだ…」 

負けを認める一言。

「ご、合格だよ…なんなんだよ君は…」

ついでにポツリと合格の宣言ももらった。

どうやら試験は終了したらしい。

「ふぅ…よし」

俺は安堵の吐息を吐き、何だかんだ合格した喜びを噛み締める。 

「うおおおおおお!!!」

「すげぇええええ!!!」

「マジかよアリウス!!勝っちまうのかよ!!」

「信じられねぇ!!アリウスが帝国魔道士団を倒したぞ…!!」 

「アリウスてめぇ!!今まで実力隠してやがったな…!?」

「マジですごかったぞアリウス!!お前は俺たちの学年の誇りだ…!!」

「アリウス万歳!!アリウス万歳!!」

「アリウス最強!アリウス最強!!アリウス最強!!!」

それからすぐに、離れたところで観戦していた生徒たちが歓声をあげながら俺の元へと駆け寄ってきたのだった。


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