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第7章 その裁定、本当に必要ですか?

第78話 第二王子のターン

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「お前は何を血迷っているのですか」

 オルメリアの冷たい言葉にオーウェンは混乱した。

「俺……私はいたって冷静ですが?」

 公の場でありながら『俺』と地が出てしまう程に。

「冷静であるならなお性質たちが悪い」

 実の息子へ向けるオルメリアの目は冷たかった。見渡せば謁見の間にいる全員がオーウェンに白い目をめけている。

「ど、どうして?」
「どうして、ですって?」

 まったく理解していない息子の様子にオルメリアは深くため息を吐いた。

 オルメリアの落胆する様子にオーウェンは狼狽えた。

 絶対に賞賛を受けると思っていた。

 自分の素晴らしい弁舌に悪事を働く愚かな弟エーリックは非を認め改心するはず。

 自分の見識の高さに国王ちち王妃ははは息子の成長を喜び、誰もが感心するはず。

 オーウェンは己の正義こそが絶対で、自分の意見は必ず通り、皆が尊敬と畏敬の念をもって自分を賞賛するはず。

「わ、私は皆の間違いをただして……」

 全てはその『はず』だった。

「間違い?」

 だが、それら全てはオーウェンの中だけでの『はず』なのである。

「お前はウェルシェに横恋慕したエーリックがエレオノーラに頼んで陛下から王命を出させたと申していましたが――」
「そ、その通りです! グロラッハ嬢に婚約を無理強いするのは非道でありましょう」

 王妃オルメリアの言葉を遮る不敬に周囲の臣下達が眉を顰めたが、オーウェンはまるで気がつかず間違いを正そうとした。

「しかも、学園では嫌がる彼女に付き纏っているのです!」
「なるほど、それがお前の中の真実ですか」

 だが、オーウェンが言葉を重ねれば重ねるほど王妃の温度は冷えていく。

「このまま無法を許せば取り返しのつかない事態と――」
「お前の言い分は分かりました……次はエーリックの番です」

(どうしてだ……どうして分かってくれないんだ!)

 自分が思い描いていた賞賛を浴びる展開にならず、オーウェンはギリッと歯を噛み締めた。

「エーリックに問います」
「はっ!」

 今までオーウェンの一方的な誹謗に耐えエーリックは沈黙を守っていたが、王妃の下問に応じて一歩前へと進んだ。

 オーウェンが憤怒の形相で睨んできたのでエーリックは一瞬たじろいだが、ぐっと堪えて平静を取り戻した。

 この場の振る舞いが彼とウェルシェの婚約に多大な影響を与える。今のエーリックは万の軍勢にたった一人で立ち向かう心境であった。

 そんなエーリックの胸中に美しい銀色の少女の姿が浮かんだ。

 ――エーリック様

 それは、自分の名を呼ぶ可愛い婚約者。

(ウェルシェ……必ず君を守る!)

 心優しい少年は最愛の恋人との婚約を守る為、勇気を振り絞って審議の場へと赴くのだった……
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