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02 アスラン
ずっと君を愛していた 1
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──小さい頃からずっと、好きだった。
その柔らかに風に流れる亜麻色の髪も、クリクリとよく動く丸い空色の瞳も。
泣いていたかと思えばすぐに笑い、コロコロと表情を変え、無邪気に振る舞うその姿から目が離せなかった。
いつも隣に居て、笑顔を投げかけてくるその少女を愛おしく想うようになったのはいつからだろうか。
その少女を異性として意識するようになったのは、いつからだろうか。
王太子としていずれは父の跡を継ぎ、国王となる自分はいつか必ず伴侶を、妻を迎えなければならない。
その時彼女に隣に居て欲しいと、妻となって自分を支えて欲しいと願うようになったのはいつからだろうか。
誰よりも一緒に長く過ごした少女は、誰よりも無邪気でありながら、誰よりも聡明で、誰よりも誇り高かった。
だから神気を受け止める適性を見出され、『柱神』として天蓋を支える役目を授かった時も、彼女は「光栄に存じます」と誇り高くその役目を引き受けていた。
彼女──リステラ・ジェーンは神殿に仕える巫女。
神官長である父の元で育ち、加護の女神フローラを信仰する敬虔な使徒であった。
そんな彼女が『柱神』となる。まさに相応しい役だと思った。事実彼女はその大役を授かるに相応しかった。
歴代でも稀に見るほどの神気への適性を持ち、清純で聡明なリステラを自分はいつか妻として迎えたいと、強く希うようになった。
リステラが『柱神』に選ばれた時、アスランは父である国王にこの気持ちを打ち明けた。
「リステラが『柱神』の役目を終えた時、私は彼女を伴侶として迎えたいと思います。私は彼女を愛しています。『柱神』となったリステラほど私の妻として相応しい存在はいません。彼女にはその資格も、才覚も十分に備えています。国王陛下、どうか私とリステラの婚約を認めて頂きたい」
国王はアスランの願いを聞き届け、リステラが目覚める十年後に二人の婚約を発表すると約束してくれた。
嬉しかった。これで想い続けた彼女と婚約できる。
幼少時からずっと好きだった、愛していた彼女と結ばれることができるのだ。
「リステラ、僕はずっと待っている。君が目覚めるまでずっと君を想い続けている。十年後、君が目覚めたら必ず迎えに行くよ。だから、僕と──結婚して欲しい」
国王の許可を得たその日──アスランはリステラへ求婚した。
幼少時をよく一緒に過ごした城下街を一望できる草原の大樹の元で、二人の思い出の場所で長年秘め続けた想いを告白した。
アスランの一世一代の告白にリステラは目を見開き──そして、空色の瞳を細め、笑顔を浮かべた。
「……はい。お受け致します」
──嬉しかった。
リステラも自分と同じ気持ちであったことが、嬉しかった。この時、生まれてきた中でアスランは一番幸せだった。幸せの絶頂と言えた。
幼馴染だった少女が、婚約者になる。彼女が柱神の役目を終える十年後にはいよいよ結婚。これが幸せと言わずなんだというのだ。
まだ十年という月日はあるけれど、長年想い続けたことを考えれば苦ではなかった。彼女と想いを通じ合ったことが、アスランにとって何よりも幸せだったのだ。
アスランは婚約者となったリステラの手を握り、眼下に見える城下街を見下ろして、彼女と共に歩む幸福な未来に思いを馳せた。
──その未来は約束されていると、信じていた。
そして十年後、運命のあの日──その未来は永遠に閉ざされることになる。
「──申し訳ありません。その婚約はお受けすることはできません」
今まで見たことがないような冷たい光をその眼に浮かべて。
彼女はハッキリと、言い切ったのだ。
「私は殿下を、愛してなどおりません」
信じていた──思い描いていた未来が、脆く崩れ去る音が聞こえた気がした。
その柔らかに風に流れる亜麻色の髪も、クリクリとよく動く丸い空色の瞳も。
泣いていたかと思えばすぐに笑い、コロコロと表情を変え、無邪気に振る舞うその姿から目が離せなかった。
いつも隣に居て、笑顔を投げかけてくるその少女を愛おしく想うようになったのはいつからだろうか。
その少女を異性として意識するようになったのは、いつからだろうか。
王太子としていずれは父の跡を継ぎ、国王となる自分はいつか必ず伴侶を、妻を迎えなければならない。
その時彼女に隣に居て欲しいと、妻となって自分を支えて欲しいと願うようになったのはいつからだろうか。
誰よりも一緒に長く過ごした少女は、誰よりも無邪気でありながら、誰よりも聡明で、誰よりも誇り高かった。
だから神気を受け止める適性を見出され、『柱神』として天蓋を支える役目を授かった時も、彼女は「光栄に存じます」と誇り高くその役目を引き受けていた。
彼女──リステラ・ジェーンは神殿に仕える巫女。
神官長である父の元で育ち、加護の女神フローラを信仰する敬虔な使徒であった。
そんな彼女が『柱神』となる。まさに相応しい役だと思った。事実彼女はその大役を授かるに相応しかった。
歴代でも稀に見るほどの神気への適性を持ち、清純で聡明なリステラを自分はいつか妻として迎えたいと、強く希うようになった。
リステラが『柱神』に選ばれた時、アスランは父である国王にこの気持ちを打ち明けた。
「リステラが『柱神』の役目を終えた時、私は彼女を伴侶として迎えたいと思います。私は彼女を愛しています。『柱神』となったリステラほど私の妻として相応しい存在はいません。彼女にはその資格も、才覚も十分に備えています。国王陛下、どうか私とリステラの婚約を認めて頂きたい」
国王はアスランの願いを聞き届け、リステラが目覚める十年後に二人の婚約を発表すると約束してくれた。
嬉しかった。これで想い続けた彼女と婚約できる。
幼少時からずっと好きだった、愛していた彼女と結ばれることができるのだ。
「リステラ、僕はずっと待っている。君が目覚めるまでずっと君を想い続けている。十年後、君が目覚めたら必ず迎えに行くよ。だから、僕と──結婚して欲しい」
国王の許可を得たその日──アスランはリステラへ求婚した。
幼少時をよく一緒に過ごした城下街を一望できる草原の大樹の元で、二人の思い出の場所で長年秘め続けた想いを告白した。
アスランの一世一代の告白にリステラは目を見開き──そして、空色の瞳を細め、笑顔を浮かべた。
「……はい。お受け致します」
──嬉しかった。
リステラも自分と同じ気持ちであったことが、嬉しかった。この時、生まれてきた中でアスランは一番幸せだった。幸せの絶頂と言えた。
幼馴染だった少女が、婚約者になる。彼女が柱神の役目を終える十年後にはいよいよ結婚。これが幸せと言わずなんだというのだ。
まだ十年という月日はあるけれど、長年想い続けたことを考えれば苦ではなかった。彼女と想いを通じ合ったことが、アスランにとって何よりも幸せだったのだ。
アスランは婚約者となったリステラの手を握り、眼下に見える城下街を見下ろして、彼女と共に歩む幸福な未来に思いを馳せた。
──その未来は約束されていると、信じていた。
そして十年後、運命のあの日──その未来は永遠に閉ざされることになる。
「──申し訳ありません。その婚約はお受けすることはできません」
今まで見たことがないような冷たい光をその眼に浮かべて。
彼女はハッキリと、言い切ったのだ。
「私は殿下を、愛してなどおりません」
信じていた──思い描いていた未来が、脆く崩れ去る音が聞こえた気がした。
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