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1~10話

4b、暗殺者の可能性もあります

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 すぅぅぅぅぅぅぅぅっ!

 っはぁぁぁ、至・福…………っ!!

 中ほどまでボタンを外してくつろげられたシャツの、大きく開いた胸元に鼻を埋める。
 盛り上がった胸筋の間に走る深い谷間。少し高い位置にあるここが、数日かけて見つけた鼻のベストポジションだ。
 汗に濡れた素肌の香り、シャツの内側から立ち上る汗の蒸気、極上の世界がここにはある。

 朝の鍛錬に付き添うようになってはや二週間。
 毎朝与えられる『ごほうび』は、すっかり私を魅了していた。

 もうこの香りなしには一日を始められない。
 グレニスが仕事で城に泊まり込んだ日など、香り恋しさに一日中うわの空でメイド長に怒られたくらいだ。

「いい加減、匂いを嗅いでいたわけではないと認めたらどうだ」

「認めまふぇん」

 首を振るふりをして、ぐりぐりと胸に顔を擦り付ける。

 グレニスには二度と嘘をつくまいと心に決めているし、そもそも事実と異なるものを認めようもない。

「素直に認めれば、こうして毎朝思いをさせられずに済むんだぞ」

 今、一生認めないことが確定した。

 グレニスは『匂いを嗅いでいただけ息をしていただけ』と言い張る私に対し、実際に汗で蒸れた体臭を嗅がせることでらしめて(?)嘘を認めさせようとしていたらしい。なるほど、よくわからないが実にありがたい話だ。

 すんすんすんすん

「……はぁ、まったく強情なやつだ……。これ以上は続けても無駄なようだな」

「ふぇ?」

「今回だけはその根性に免じて、匂いを嗅いでいたなどというくだらない言い分を信じてやる。明日からは通常の職務に戻るといい」

 !!?
 いやいやいやいや! 待って待って! そんなまさか! 殺生な!!
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