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11~20話

15d、私のソースだったのに

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 グレニスが右手でトントンと自らの口横を示すので、私も右手の指先で口横を拭ってみた。
 んん? 指に汚れは付いていない。

「違う、こっちだ」

 グレニスが身を乗り出したかと思えば、固い親指がグニッと左の口元を拭ってくれた。

「あっ、ありがとうございます」

「うむ」

 上体を戻したグレニスは、自然な流れでペロリと親指を舐める。

「ああっ!!」

「!? なんだ突然」

 ハッと我に返って周囲を見渡す。
 テーブル同士の間隔はたっぷりと開いているので、幸い他のテーブルまでは声も届かなかったようだ。

 今度はちゃんと声のトーンを落として続ける。

「だって、今の、その……、それ……」

 口元を触った指を舐めるだなんて、そんなの……間接キスではないか。———なんて恥ずかしいこと、口にできるはずもなく。

「わ、私のソースだったのにと思って……」

 言いながら絶望する。
 さすがにもうちょっとマシな誤魔化し方があっただろう。口に付いたソースを惜しんで声を上げるなんて、どれほど食い意地が張ってるんだ私は。

「なんだ、食べ足りないならいくらでも頼んでやる」

「いえっ、やっぱり大丈夫です」

 グレニスの優しさが辛い。
 私はふるふると首を振って、これ以上余計なことを口走らないよう切り分けた肉をせっせと口に詰め込んだ。
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